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いつぼし

「星ー。星座の話しってどうするよ? 冬の星座だけにしとくか?」

「どうせなら四季でやろうよ。壁四面埋まるしさ」


ぱらぱらと星座の本を見ながら言う俺に、星はきっぱりと言い切った。


「埋まるかぁ? 教室三つ分の会議室の机とか取っ払ってやるんだぜ?」

「写真をかなり大きく引き伸ばしたいんだよねー。そうすれば星座の解説も大きくて見やすいし、それに、皆が知ってる様なメジャーな星座だけじゃなくて絶対知らなそうな星座とか色々紹介したいしさ」

「例えばどんな?」

「ん~、髪の毛座とか?」


 考えながら星は俺の手から本を受け取って、髪の毛座のページを開いた。


「何これ? こんなんにもギリシャ神話あるのかよ?」

「あるよ。うろ覚えだけど、美しい髪を持った少女がいて、その子が死んだかなんかした時にその美しさを惜しんだ神が星にしたんだって」

「じゃぁその女の子ごと星にしてやりゃいいじゃんなぁ」

「確かにねー。でも他にも何も星にしなくてもいいじゃん? って星座割とあるんだよ。 山羊座とかね」

「山羊って誕生星座のやつだろ?」


 今度は俺が山羊座を本の中から探す。それが見つかる前に星は山羊座の神話を語りだした。


「そう。でもあれって星座の本とか読むと上半身が山羊で、下半身が魚なんだよ」

「ゲー! きも悪」

「水辺で優雅にお茶を楽しんでいた数人の神様が突然魔物に襲われたんだ。その時他の神様は色々な動物に変化してその場を逃げ切ったんだけど、一人の神様だけ変化し損ねて、上半身が山羊。下半身が魚の変な生物になっちゃったんだ。それを馬鹿にして他の神様に星にされちゃったの」

「ひでー! 何も可笑しいからって星にする事ないじゃん!」

「でしょ? こう言うの幾つかあるから面白いかと思って」

「そうだなー、いいんじゃねぇ? あんまり星座とかギリシャ神話興味ない奴でも入り込みやすくて」


 山羊座の話を引きずって、笑いながら賛同する俺に、星も嬉しそうに笑う。


「良かった。賛成してくれて」

「俺はそう言うの考えるの苦手だからなー、逆に星が企画してくれて助かるぜ。…あ、なぁ四面それで埋めちまったら肝心 の流星の写真はどこに飾るんだ?」

「天井と、床にするつもりなんだ」

「……あー! わかった。部屋真っ暗にしてブラックライト使う気だな!」

「あたり」


 ブラックライトは白い色を光らせる作用がある。

 星はそれを利用して、四面に飾った星座の写真と、上下に飾った流星の写真で部屋全体をプラネタリュウムにするつもりなんだ。


「パネル必要だなぁ……」

「大丈夫、写真部に借りれるから」

「お前……いつの間にそんな算段を…」

「人徳かな」


 笑ってるけど…確か写真部の女部長って星のファンだった様な気が……人徳って言うか、色仕掛けって言うか…… 細かい事には目を瞑り、バタバタ動く回って二ヶ月間。ようやく本題の流星群が現れるその日となった。


「よかったなぁ、晴れて」

「うん。それから、皆の来訪も避けられてよかった」

「ははっ…」


 確かに。

 あのお祭り騒ぎの延長で、本当に星の家に泊まりに来る計画を立てている奴らもいたが、家の事情があるので、と星が申し訳無さそうに一言言うと、俺がいくら言っても収まらなかった騒ぎは一瞬にして収まった。


「扱い違うよなー」

「月君は話しやすいんだよ。きっと」

「話しやすいって、聞こえは良いけど単になめられてるんじゃ……」

「そんな事ないよ。月君は頼りがいがあるし、話しがしやすいから皆が集まっちゃうんだよ」


 俺はそんなに立派な人間じゃない、とそう思ったけどニコニコ、ニコニコ穏やかに笑う星を見ていると、そう言ってくれるなら星の前だけでもそう言う人間でいようと、思った。


「流星群って何時くらいに見えるんだろ?」

「二時頃かな?」

「…深夜?」

「深夜」


 ……そら泊まらないと見れないわ


「新作ゲームがここにあります」

「あー! それ明日発売の話題作! なんでもう持ってんだよ?」

「よく行くゲーム屋のお姉さんが常連さんだから、と売ってくれたんだ」

「左様ですか……」


 ゲームをやるくらいならまだ終ってない展示物の準備をすればいいのだが、ガキの頃はただ『大きい』としか表現できなかった星の家の百インチ画面のテレビでやるグラフィックが評判のR・P・Gは迫力満点、感動物なんだ、やらずに帰るのは勿体無いと言うものだ。


「月君これちょっと持っててー」

「おう」


 あ、またコントローラー俺に譲ってる……


「スイッチ入れるよ?」

「いいぜー」


 スイッチを入れて隣にやって来た星にコントローラーを渡して、俺はソファを立った。


「あれ? どこ行くの?」

「俺明日に向けて攻略本先に買っといたんだ。 カバンに入ってるから取って来る」

「うん」


 よしよし。この流れで星にコントローラーを渡したまま俺が攻略本読めばオッケーだ。

 そう思ってソファに戻った俺は星の姿がない事に気がついた。


「あれ?」

「おかえり。待ってる間におやつを用意してきました」

「あ、サンキュー」

「攻略本それ? 見せてー」

「ほい」

「やっぱり画面だけじゃなくて本の方も綺麗な作りになってるんだねー」

「だな」

「まず、オープニング画面が終ったらスタートボタンを押してくださーい」

「へーい」

「次! 始まりか途中かを選んでください」

「始まりーと」

「オープニングムービーが流れます」


 星が言うのと同時に始まったムービーは、八年前に話題となって、俺がこのテレビで見た物とは比べ物にならないくらい綺麗で、全然リアルで、大画面で見ている俺達にはまるで映画の様に感じられた。


 目の前に広がる海、空、群集の戦い。


 本当に自分がその世界に入れた様な気になれるこの瞬間が俺は凄く好きだった。

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