ふた星
それから、その子とは良く話しをするようになって、家ももうどんどん形になって来た。
今は工事が始まってから二ヶ月ってところだ。
「や」
「あ、月君」
「よく続くね」
「うん。でも面白いから」
この子は“セイ”“星”って書くんだって。
ここは星の家になるんだそうだ。
“大きい家だね”
と僕が言うと星は
“お父さんが建ててくれるんだ”
と言った。
“うちは小さいからうらやましい”
と言ったら、
“でも寂しいよ”
と笑って言った。
星はたまによく解らない返答を返して来る。
「僕ね、今まで同い年の友達いなかったから、月君が話してくれたの、すごく嬉しかったんだよ」
星はとてもキレイな顔をしている。
そのキレイな顔で幸せそうに微笑みながら、何だかこっちまで嬉しくなる様な事を平気で言う。
だから、たまに解らない事を言っても、ま、いいか。
星は僕と初めて話しをした日からこっちは必ず毎日差し入れを持って来ていた。後から知った事だけど、差し入れの時に僕と話しをするのが星の楽しみだったんだって。
「星はどこの学校行くの?」
「んー…わかんない。行かないかもしれないし…」
「確か学校って義務教育で行かなきゃいけないんじゃなかったっけ?」
「わぁ、ギムキョウイクなんて難しい事知ってるんだねぇ」
「よくわかん無いけどお母さんが言ってた」
「じゃあ月君のお母さんが物知りなんだね。すごいね」
「そっかな?」
「うん!」
嬉しそうに笑う。
調度、星の後ろに夕日があったから元々色の薄い星の髪の毛はキレイな夕焼け色になっていた。
「あ、そろそろ帰らなきゃ。じゃぁね月君」
「うん。ばいばーい」
だから僕は話をごまかせれた事に全く気が付いていなかった。
工事が始まった頃はまだおじさんたちもランニングだったけど、すっかっり家が出来上がった今ではちらほらとジャンパーを着ている人もいる。
星の差し入れも冷たいペットボトルから、あったかい缶と水筒に変わっていた。
僕が冬休みに入る頃には、星の家は出来上がってて引越しも終わり、僕はお泊まりに呼ばれていた。
行ってみて解った。
前になんで星が“寂しい”って言ってたか。
こんな広い家に暮らしているのはお手伝いさん達と星だけなんだ。
「なぁ、お母さんとかは? 仕事?」
「父さんはね。あ、ほらほら。この子がアースだよ」
星はにこにこと微笑みながら床の上を滑って来た白い毛糸球を持ち上げた。
犬だ。
「キャン!」
しっぽを振りながらアースが吠えた。
僕の想像していた犬の鳴き声と違っていたのが新鮮だった。
「ワンじゃないんだね」
「子犬だからじゃない?」
再び床に戻すと僕の足元に来て、一生懸命僕に飛び付こうと前足を上げている。
あんまり何度も連続で飛び上がろうとしたもんだからアースは着地に失敗して滑って転んだ。きっと床がつるつるしているせいもあるんだろう。
「あ」
痛そう、と思っているとアースは何事もなかったようにまた僕に飛びつこうとジャンプを繰り返した。
「あ、なついてる」
「何でだろ?」
「きっと月君がいい人だからだよ」
「そっかな?」
「そうだよ」
いい人と言われて否定する人はいるのかな、とか考えているうちに星が居間に案内すると言った。
歩く僕らを追いながらジャンプを繰り返すアースを抱き上げて、僕は星の後を追った。
「僕の部屋は決まってないんだ」
普通、居間にはお客さんを持てなす用の物が色々置かれているのだろうけど、通された部屋にはでっかい本棚があって、床にも本が散らばっていた。
(でも床事態が広いから何の問題も無いみたいだけどね)
「そうだ月君。まえ欲しがってたソフト買ったんだー!」
「ほんと! いいなぁ」
「一緒にやろうよ」
「おう!」
一緒に、って言ってもゲームの種類はRPG。2人一緒に出来る訳が無い。
どっちかが操作して、どっちかは見てるしかない。
「あ、月君。ちょっとコントローラー持ってて」
「うん」
「コンセント入れるよー」
星の家のテレビはこれまたでっかい。
だから僕達はテレビから離れてゲームをやる事にした。
近いと画面が見えないから。
その分コンセントと本体の間が開いた。
「電源入れてくれる?」
「ほいよ」
PLAYと書かれたボタンを押すと緑のランプが付いて何かが動くが聞こえて来た。テレビにゲーム会社の名前が出る。
「あ、僕ちょっとトイレ行ってくるね。月君 オープニング待っててね」
「うん」
とは言った物の、ゲームのオープニング画面は大抵勝手に始まるから僕には止める事が出来なかった。
1回目のムービーが終わった頃に丁度星が帰って来た。
「丁度今から始まるよ」
「うん。これキレイだよね」
「うん」
前に1回だけ2人で出かけた時、街の電気屋さんで流れていたデモ画面。
その画面の夜空を見て2人してショウウィンドウに張り付いたのを覚えてる。
「“PUHS START”だって。これっ てさ直訳すると“押す 始める”だよね」
「…変だね」
「変だよね」
後に英語の授業で日本語と英語じゃ言葉の並べ方が違うと習って、“『始める』を押す”って事何だと知った。
コントローラーを持っていたのは僕だったからそのままスタートボタンを押してゲームを始めた。
「名前入力だって。どうしよっか?」
「月君の名前でいいじゃない」
「えー、だって自分の名前でやるのなんか恥ずかしくない?」
「そお?」
「じゃあ星の名前入れようよ」
「やだー」
「自分だってャなんじゃん!」
「どうしようか?」
「どうしよう?」
しばらく二人で話し合った結果……
「よし! ソラにしよう!」
「そうだね。それなら二人分だもんね」
「うん!」
月と星のある『空』
これが主人公の名前になった。
「これ『調べる』ってどうやるんだろ?」
「んとね…調べたい物の前で赤いボタンを押すと調べられるって」
「? 何にもならないよ?」
「位置が悪いのかも」
「正面って難しいよね」
「画面斜めなんだもんね」
僕がコントローラーを持って、星が説明書を読んで、ゲームを進めた。
それがあんまり自然だったから、星が僕にコントローラーを譲ってくれたんだって事に気がついていなかった。