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変人と生真面目と悪魔

 「君という人間は・・・やってくれたね!」


 ロッドは怒っていた。

貴族らしく、誇り高く生きようと小さな時から心に決めていた。

心を大空のように広く持とうと心に決めていた。


 そんなロッドが怒っていた。

だが、それを未熟だと恥じる気はない。

譲れないときは必ずあって、今がそのときだからだ。

ちなみにそんな風に考えたのは今日で38回目である。


 これでもかというくらい怒りを込めて剣が振るわれる。

その剣閃を幸せそうな笑顔ですり抜けるクライム。

だがその一瞬後、その剣の軌跡をなぞる様に雷が走る。


 クライムはそれに反応して少し驚いたがそれだけだった。

クライムにとって剣撃はともかく初歩的な攻撃魔法程度、その辺りにいくらでもある空気と同じ。

なんの関係もない。


 一瞬で魔法の構成を解析。

 口を小さく動かして詠唱を逆転。魔法発動そのものを「なかったこと」にする。

 ロッドに向かってその切っ先を走らせようとした紫電が進行方向を逆転しながら散滅した。


 慌しく煙を上げながら二人は一旦距離をとる。


 クライムは満足そうに。

 ロッドは憎そうに。


 グレイスは魔力補給に浄化水を飲みながらその様子をぼんやり見ていた。

この戦いの「原因」は今どこで何してるんだろ?


 「・・・・・・ふむ。」


 そう一息つくとグレイスは立ち上がった。

この二人が本気になって被害が建物にまででるとまずい。


いや。それ以上に「原因」をここにつれて来たときの反応が楽しみでしかたがない。

ニッと口元が緩む。


 「探しに行こーっと。」


 頭の後ろで手を組んでぷらぷらと歩き出した。



 話は脱線する。



 魔法学校の名門、マジックガーデンには複数の課がある。


 一つは最も需要の高い攻撃魔法課。全校生徒のおよそ半分が攻撃魔法課に属している。

というのも、この学園はそもそもが実戦で使える魔法を習得するための学園だからである。

いわゆる「庶民を守る力を持つ魔法使いの育成」というやつだ。

 次に、回復魔法課。その名の通りである。

 そして、補助魔法全般を扱うマッスル課。

 課担当学長の素敵なネーミングセンスによって、

 この課は生徒の集客率ワースト1を叩き出している。

 

 そして攻撃魔法と体術をミックスした戦闘スタイルの修練に励む魔法体術課。

他の課に比べて、格段に戦闘力が高い。

一番戦闘力が高いはずのこの課の需要が攻撃魔法課よりないのは単純。

この課が後付けだからである。


 さておき。ロッドはこの魔法体術課に属している。

そしてレブン、クライム、グレイスは攻撃魔法課。

この4人は比較的仲がいいというのがマジックガーデン一般生徒の見解である。

それは間違ってはいないが、どうして4人が仲良くなったかを尋ねられると誰もが閉口した。


 理由はレブンである。

クライムとグレイスはレブンが、かわいいからいじめてやろうということでレブンにまとわりついた。

ロッドはレブンがかわいいから、守ってやりたいということでレブンにまとわりついた。

理由は微妙に違ったりするが、結局は同じこと。

レブンはレブンで他人に指摘される度に頬を膨らませたが、なんだかんだ言って仲よさそうに見えてしまうのだ。





 そして、今日も。


 仲良しがじゃれあっている。


 いや、ロッドは大真面目だが。まぁ、それもいつものことだ。

そして原因がレブンなのもいつものことなのだった。


 「君という人間は!!恥というものを・・・知らないのか!!」


 宿敵と決闘するかのように剣の先を突きつけて言う。


 「いやぁ・・・でもねー。こういうのは本人同士の自由じゃない?」


 いい笑顔のクライム。それを見てさらに不愉快になるロッド。

そして一番恐れていたことを聞く決意が固まった。


 「昨日の夜!レブンに何をした!?」


 咆哮と共に魔力が弾け、波になってクライムにぶつかる。

巻き上がった礫がぴしぴしとクライムに当たって落ちていった。

魔力の風の中、少しだけ迷惑そうに目を細めたクライムはまたすぐにいい笑顔に戻る。


 「それはちょっと言えないよ・・・。とても口では言えないようなことをたくさん・・・ね。」


 想像して、顔が真っ赤になるロッド。

くらっと倒れそうになった足をド根性で支える。


 「こ・・・この外道がぁぁ!!」


 ロッドの剣が青い光色に輝く。

魔力で刀身を包むだけの単純明快な必殺剣。

だが、「単純」は極めれば無敵の奥義となる。

複雑な物には攻略法がえてして存在するものだが

単純な物には攻略法が存在しない。単純だからである。


 クライムは90%の余裕の笑みで、さてどうしようかと考える。


 「いつかこんな日がくるのではと危惧していた。

こんなことなら、もっと早く君を倒しておくべきだったよ。」


 青い剣がさらに強く発光したと同時にロッドは踏み込んだ。


 「よくも僕のレブンに!!」


 クライムは本気で踏み込んできたロッドを魔法で叩き落そうかなと一瞬思ったがやっぱりやめた。

空気が変わったからである。


 「だ・れ・が・だぁぁぁぁあああ!!!!」


 はっとして声のしたほうを向くロッド。

攻撃魔法課の建物から誰かが飛び出して急速落下。

日光をバックにされたせいで満足に見切れなかったロッドを直撃して着地した。


 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・。」


 半泣きで息を切らせながらそれはゆっくり立ちあがる。

レブンである。

グレイスに一部始終を聞いて必死で走ってきたが遅かった。

こいつら、できあがってる・・・。

それでも、負けずにキッとクライムを見る。

相も変わらずいい笑顔だ。


 「クライムゥゥゥ!!あんたなに勝手なこと言ってるのよ!」


 おや、これは意外といった感じのジェスチャーでおどけるクライム。


 「えー。僕は嘘は言ってないはずだよ。」


 「あんたは、昨日の夜私の部屋に泊まっただけ!!何もなかったでしょ!!」


 ガルルルと『大声で』噛み付くレブン。


 

 ハッと気付いた。



 攻撃魔法課の生徒達が校舎の窓から自分達を見ていることに。

 当然といえば当然ではある。

 

 みんなは、昼下がりの陽光にも、今吹いている気持ちのいい風にも負けない優しい顔で笑っている。

 中にはおめでとうなんて言いだすやつもいる。


 そう、要は「やぶへび」というやつである。


 数秒フリーズした後事態を把握して、しまったー!と崩れ落ちるレブン。



 それを見ながらクライムはあぁ、かわいいんだからと和む。

 ほっぺにちゅーくらいはすればよかった。

 ロッドはレブンがどいてくれないので動くこともできず

 倒れたまま少しだけ安心して涙を流した。


ちなみに、マジックガーデンの魔法課は他にもあります。

これから出すかどうか分かりませんが。

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