クライム
クライムという人間は変人である。
第一の理由はマジックガーデン認定Aランク生。しかも18才という若さで。
Aランクというだけでも世間的には十分変人だが
その若さでのAランクは、もはや変態の領域にすら入ってくる。
第二の理由は魔法博士のくせに研究室にこもらない。
いや、それどころか研究室に行かない魔法博士なのだ。
そのくせ結果はあげるから完璧超人である。
妬まれたり恨まれたりが少ないのは
クライムという人間を大体の人があんまりよく分からないからである。
偉ぶったりしないのは当然。
なによりクライムは積極的に他人と関わることをしなかった。
例外を除いては・・・。
そしてそれもクライムを変人たらしめる所以でもあったりする。
レブンは、はぁうと大きなため息をついて机に突っ伏した。
最悪だ最悪だと小さくつぶやく。
今日はもう、誰とも会いたくなかった。
自分の部屋で駄目な自分をいじいじと反省したかった。
だから午後の講義は全部「風邪をひく」ことにした。
どうせ講義出ても分かんないもん。
机の木目をいじってみる。
つつーっと。
駄目だよなー。
特に教頭の頭を燃やしたのはまずかった。
もとから教頭は「由緒あるマジックガーデン」にいる
レブンという出来損ないがけむたいようだったが、今日のは誰の目で見てもまずかった。
追い出されたりはしないだろうけど、嫌われたまま学校生活ってのもそれはそれできつい。
「その上5回目のEランク不合格だもんなぁ。」
大恥である。今更なにをというのが他人の意見であるが本人にとっては相当重要だった。
しかも大見栄きった後というのがめちゃくちゃ痛い。
「なんであんなこと言ったかなー、私。」
「でも、魔法撃つまではいったんだから、大成功でしょ。」
「Eランク落ちたんだから恥だよ・・・って、はわぁ!!」
レブンは精一杯間抜けな声を上げて机から崩れ落ちた。
うっすら涙を浮かべながら声の主を追う。
視線の先にはものすごく幸せそうに笑うクライムがいた。
しばらく間抜けな格好のまま静止していたが、はっとしてあせあせと、とびあがる。
「っ・・・クライム、なんでこの部屋にいるのよ!!」
「ドアから普通に入ったんだけどね。」
幸せそうな笑みを崩さないままクライムは言う。
「ドアには鍵かかってたでしょ!!」
「わざわざ僕の開錠魔法で開くレベルの鍵にしておいたんでしょ?レブンはもー、かわいいんだから。」
小動物を愛撫するときのような優しい声でさらっと言うクライム。
「あ・・・あんたねぇ。」
ぶん殴ろうか、こいつ。
クライムの開錠魔法で開かないレベルの鍵なんて超古代文明の遺跡くらいしかない。
いや、むしろ無いと言っても過言ではない。
もちろん、クライムも分かって言っている。
確信犯である。
ぶすーっと頬を膨らませてレブンはまた机に突っ伏した。
「なによ、笑いに来たの?」
「いやいや、そんなんじゃなくてね。今日はここに泊めてもらおうと思って。」
「はい?」
またもや笑顔でさらっと言う。こいつは大体がそんなだ。
そしてレブンはいつもそんなクライムのペースに流される。
「ななななな・・・何言ってんの!!突然、女の子の部屋に止めてくれだなんて!?」
クライムは期待通りの反応に大満足である。
「いやー、今日はそういう気分なんだよ。」
「駄目駄目駄目!絶対駄目!!自分の研究個室あるでしょ!?私の部屋より何倍も立派なやつが!」
クライムはうーんと手を組んでしばらく考えた。
「じゃあ。こういうのはどう?」
「なに・・・。」
嫌な予感。
こういうときばかりは確実に当たった。
「僕の研究個室は不慮の事故によって全壊、そのせいで仕方なくレブンの部屋に止まることにした。」
「うぁー!!意味不明!!なんで、それで私の部屋なのよぉ!!?」
「まぁ、とりあえず今から既成事実作ってくるよ。2、3分待っててね。」
部屋を出ようとするクライムの服の裾を体勢を崩しながら必死で握って止める。
この男は間違いなくやる。
今まで短いつきあいじゃない。そんな確信を持つには十分クライムを見てきた。
「分かったよぅ。いや、意味不明だけど・・・。泊めるから。」
こいつは一体何がしたいんだ。このやりとりだけでもう疲れた。
もう、なんでもいいや。
クライムをじーっと見る。
笑顔のまま不思議そうなクライム。
「クライム。変なことしないでよ・・・。」
クライム、今日一番の笑顔。そして一言。
「してもいいよ。」
殴られた。