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豆まきは気を付けて

作者: けやき

 2月。

 まだ外は寒い。こたつやストーブといった暖房器具は活躍中だ。その暖房器具のうち、こたつと電気ストーブをつけて部屋でくつろぐオレと彼女。

 オレはこたつの上にあごを乗せて、すーッとTVを見る。お昼をちょっと過ぎた時間帯で、とくに面白い番組もやってない。

 彼女もこたつに入って暇そうにTVを見ている。


「暇ね」


 彼女がこたつに肘を乗せ頬杖をつく。


「暇だな」


 オレは顔を彼女の方に向けて同意する。


「今日妹ちゃんは?」


 彼女が家に来ると、だいたい妹が部屋に突入してきて騒がしくなる。なのに、今日は妹が部屋に突入してこなかった。それに嬉しさを感じつつも、何かあるんじゃないかと警戒する彼女。


「いるよ。いるけど入って来ないから知らない」


 静かだし、このままのんびりしてたいなぁ。


「ふっふっふ。残念でしたぁ!!」


『!?』


 こたつの中から急に妹が出てきた。それに驚くオレと彼女。

 しかも、妹はわざわざオレのいる方から出てきていた。


「いないと思ったの? 馬鹿なの? あんた」


 と、勝ち誇った様な顔をして彼女を指差す。


「なっ!?」


 彼女はまたも呆気にとられる。


「こら、お前はまたそんなことを言う」


 オレは妹のツインテールを両手で掴み左右前後に動かす。それはそれは、ジョイスティックをガチャガチャやるが如く。


「や、やめて、おにぃ! 髪の毛が取れちゃう!!」


 …ヅラか? ヅラなのか?


「じゃあ、彼女に謝れよ?」


「…わかった」


 しぶしぶ頷く妹。オレはソッと髪の毛から手を離す。


「彼女さん、ごめんなさい」


 ペコッと頭を下げて素直に謝る妹。それに驚いたのか、彼女は戸惑いつつも頷く。たぶん、素直に謝られたために何かあるんじゃないかと警戒しているんだろう。


「よし、素直に謝ったな」


 何かあるにしても、素直に謝ったため頭を撫でてやる。

 妹は嬉しそうに笑みを浮かべる。彼女へと向けて。

 撫でられるのを計算にいれて、羨ませがる作戦だったようだ。


「……」


 それを真正面で見て表情をこわばらせる彼女。


 残念ながらそれに気づかないオレ。


「ところで、いつこたつの中に入ったんだ?」


 彼女が家に来たのはついさっき。それまでオレはずっと部屋にいたし、妹も自分の部屋にいた。なのに、いつのまにか妹はオレの部屋にいた。


「お兄ちゃんが彼女さんを出迎えに行ったとき」


「あぁ、なるほど。なら気づかれずにオレの部屋に入れるな」


 思わず納得するオレ。我が妹ながら、潜入任務に向いているのではないかと思ってしまう。


「すごいでしょ!」


 と、ますます自慢気になる妹。


「で、なぜ部屋に入ってきた?」


 たぶん、邪魔しに来たんだろうな。

 ってか、そうじゃない理由が見当たらん。


「あ、そうそう!豆まきしよう!」


 そう言って、こたつの中から豆が大量に入った升を取り出した。乱暴に取り出したから、カーペットに豆が数粒落ちる。


「豆落ちたぞ」


「テヘペロ……いたぁい!?」


 テヘペロを言った妹の頭に軽くチョップをする。妹は、升を持ってない手で自分の頭をさすり、オレを涙目で見る。


(こんのぉ、ボケおにぃはぁ…。あたしがあのエロ悪魔から救ってあげようとしてたのに…)


 妹から見たら、彼女は大好きな兄を自分から奪った女。可愛らしい顔に、大きな胸、細い指、くびれた腰、綺麗な脚で、色仕掛けで兄をもってったと思っている。


 実際は違うんだがな。っても、あの胸とくびれには惹かれたよ。うん。


「ふぅ…、おにぃ。豆まきは?」


「そういや今日は節分か。じゃあ、豆まきするか。オーケー?」


 と、彼女に同意を求めてみる。


「いいよ。暇だったしね」


 彼女は優しく微笑んで頷く。


「さんきゅー」


 オレも自然と微笑み返す。


「…くっ、あたしがいながらこのラブラブフィールドを発するだと!?」


 妹が苦い顔をして、何か言ったがオレ達には届いていない。

 それに気づき、妹は頬を膨らませて拗ねる。


「鬼は?」


「おにぃ」


『……』


 オレと彼女は2人して固まる。

 こいつ、今ダジャレを言ったか?


(血は争えないわね。)


「え?」


「何にも」


 ニコッと笑って誤魔化される。


 まぁ、いいか。


「お兄ちゃんが鬼でいいでしょ?」


「…まぁいいけど。オレに向かって豆投げるの?」


 豆って結構痛いんだよなぁ。


「そう!こうやって…!」


 妹が升から豆を大量にわし掴みする。


 そして、それを思いきり振りかぶる。


「鬼は外ー!」


「?」


 妹はその場で豆を投げず、オレに接近する。


 そして、悲劇が起きた。


「っ!?」


 妹はわし掴みにした豆を、そのままオレの顔に思いきりぶつけてきた。


「うああぁぁぁぁ!!」


 豆は主にオレの両目に集中して当たっていた。


「目があぁ、目がぁぁぁぁぁ」


 両目を押さえ、痛みでその場にのたうち回るオレ。


「……ネタなのか、ホントなのかわかんないわ。この兄妹」


 あきれる彼女。

 オレを潰した妹は大爆笑していた。


「お前…、折檻してやる」


 痛みが少しずつ引いてきて、落ち着きを取り戻しはじめたオレはゆっくり立ち上がる。


「え」


 妹はなぜか嬉しそうに笑う。


『えっ…』


 オレと彼女も笑ったのを見逃さなかったため引きつる。


 こいつ、Mなのか…

(っていうか、どんだけ兄の事好きなの、この子は…)


「…よし、豆まいて歳の数だけ豆食うか」


「そうね」


 オレと彼女は、妹を放置して豆まきをはじめた。窓を開け、豆を外に投げる。


 そして、豆を歳の数だけ取りだして食べる。


「放置プレイ?それがあたしへの罰なの?おにぃ」


 妹が焦れったそうに聞いてくる。


「口開けろ」


「!…もう、しょうがないなぁ。優しく入れてよ」


 と、その場に膝を着き、頬を赤らめて口を開く妹。


「ほれ」


 妹の口の中へと豆をほうり込む。


「んぐっ!?」


 妹は、豆を入れられて驚いている。


「ぼれびゃばび!(これじゃない!)」


 口を豆でモゴモゴさせて怒る妹。


「何?」


「豆じゃないよ!」


 豆を一気に飲み込み、声を放つ妹。


「えー?じゃあ、何だよ」


「あたしに言わせるの?おにぃはSだね」


 頬に手を当てて体をくねらせる妹。


 こいつ、ホントにオレの妹か?こんな気持ち悪い奴だったか?


 オレは思わず頭を抱える。


「妹ちゃんにくわえさせたりしたら許さないから」


 と、オレの服の袖をつまみ、睨み気味で見上げてくる彼女。


「何を?」


「あんたには、私じゃないと…」


 と、途中で言葉を切ってうつ向く彼女。


「ん?おう、オレはお前だけだよ」


 最後の方が聞こえ辛かったけど、この返事で間違いないはずだ。


「そ、そうよ!あんたのは私がやるわ」


「お、おう」


 うん、なんかオレと彼女の会話微妙にズレてるな。


「…またあたしを無視してイチャつく!バッキャロー!!」


 捨て台詞を吐いて、部屋から物凄い早さで出ていった。


「オレ、あいつが最近わかんなくなってきたぞ」


「…何となくわかるわ」


 2人して肩をすくめ、またこたつに戻る。

おはようございます。

もう2月ですね。卒論ばっかで忙しくて更新できず申し訳ありません。

ですが、今週を抜ければ少しは変わるかもしれません。


とりあえず、月1であげると決めた短編だけでも今のうちにあげさせてもらいました。今月はもう1つあげる予定なのでそちらも読んでいただけたら嬉しいです。


では、ここら辺でノシ

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― 新着の感想 ―
[良い点] お兄さんと彼女さんの作るどこか微笑ましい雰囲気のところに個性的な妹さんが表れて荒らす様子は、お兄さんの視点で書かれた文章の良さもあってとても面白いと思いました。 [一言] これからの短編も…
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