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黒龍の国シリーズ 断罪龍は今日もお腹いっぱい  作者: 下菊みこと


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黒龍様のお世話係なのですが、黒龍様が優し過ぎます

この国には生贄制度がある。他国の人間には、なんてことをするのかと言われることもある。けれど、この国は黒龍の力で栄えてきた。綺麗事ばかりでは生きていけないのだ。


黒龍の好む『魂の穢れた者』を毎月数人捧げるだけで、不毛の大地であったこの国でも食料自給率を上げることができたのだ。


罪人なんて何もせずとも毎月幾人も見つかるので生贄探しにも困らない。特に、公には裁けないが罪を重ねたワケあり貴族の断罪に用いられることが多い。


一応、表向きには国の為に身を捧げた尊い命とされるので残された者たちにとってはむしろ名誉となる。残された者たちに金銭の報酬もある。アフターケアもばっちりだ。王族や貴族は生贄制度の真実を知っているから、陰では色々言われるが。


しかも、冤罪だった場合黒龍の好む『魂の穢れた者』判定から外れるので食べられない。むしろ身の潔白を証明して生還できる。


「他国には色々言われるけど、やっぱり黒龍様はこの国になくてはならない方だよなぁ」


「なにせ裁けないような大罪人を食べてくださるからな」


「我が国には他国にある〝死刑〟も〝私刑〟もほぼないのは黒龍様のお陰だ」


「その意味ではむしろ他国の方が野蛮だよなぁ」


黒龍様のお世話係である俺たちはそんなことを言いつつ黒龍様の私室を掃除する。


黒龍様のお出かけ中に部屋を掃除するのも大事な仕事だ。


最近では黒龍様はセシリア様可愛さに、教会の庭にセシリア様を連れて出ることが多いので掃除が捗るから助かる。


掃除と人間体になった時用の服の洗濯とセシリア様の服の洗濯、セシリア様と人間体になった黒龍様の食事を用意するのが俺たちの仕事。


それと、最後に一つ。


「今日は黒龍様が帰り次第贄を捧げるぞ」


「すげぇ悪いことをしたらしいけど、生還できるかな?」


「冤罪なら生還できるだろ」


「罪人なら…な」


「あの贄の態度的に生還は難しそうだけどなぁ」


黒龍様の贄を直接捧げるのも、俺たちの仕事だ。


それも、一番大切な。


「さ、掃除もこれで終わったな」


「あとは黒龍様のお帰りを待って贄を捧げるだけだな」


「洗濯物ももう取り込んで畳んでしまったよな?」


「それは今日はもう済んだ」


「じゃああとは本当に贄だけだな」


贄の控え室に行く。


屈強な男に無理矢理連行されて来た彼は、太々しい態度を崩さない。


「これから黒龍様の御前にお連れするが、何か言い残すことはあるか?」


「…ない、さっさと喰って終わらせてくれ」


「そうか…そろそろ黒龍様がお戻りになるから、行こうか」


「わかった」
















太々しい態度の割に、抵抗もしない彼を連行して黒龍様の部屋に行く。


セシリア様は図書室に逃げたようだ。


贄を食べるところを見る趣味はセシリア様にはないからな。


俺たちはまあ、仕事だから見守るが。


幸い、黒龍様は贄を丸呑みにするので見た目上はそこまでグロくないが。


「黒龍様、今日の贄です」


「あー、パス」


贄を黒龍様の御前に出したが、黒龍様は嫌そうな顔をしてパスと仰った。


「え、パスとは」


「たまにあるんだ、つまりは冤罪だ」


「そゆことー」


新人のお世話係がぎょっとする。


「そいつ魂に穢れがそんなにないから美味しそうじゃないしいらない」


「は、俺が穢れがそんなにない?さすがは悪食龍だな、そんなに穢れが好きか」


「お、お前!」


「あー、いいよいいよ。悪食なのは本当だし。ただ、残念ながら死にたがりの君はまた死に損なった。これからどうするの?」


「…わからない」


黒龍様は、贄は基本的に無慈悲に美味しく頂くが。


冤罪だった場合、ひどく優しく接する。


「ならさ、俺の鱗をあげる」


「は?」


「一枚だけね、特別だよ」


最近抜けたばかりの貴重な鱗。


それを黒龍様は、この失礼で太々しいが幸薄そうな生還者に差し出した。


「君はおそらく、無実を証明したからと聖人扱いされるだろう」


「は?」


「魂に穢れがそんなにないと証明されたんだから。仕方がないだろう」


「まじか…」


「だから、君は今までと違ってまわりからチヤホヤされるだろうし聖人扱いされる」


黒龍様の言葉に、生還者は困惑した表情を浮かべた。


「ならどうしたらいい」


「好きに振る舞えばいいさ。聖人扱いに応えるのもいい、君を貶めた者へ復讐するもいい。その鱗は、復讐するにしろしないにしろ君を助けてくれるだろう」


「復讐…」


「僕の抜けたばかりの貴重な鱗だ。それは真実を曝け出してくれる。それを使って〝嘘〟を暴くだけで、復讐になるはずだよ。それをしないとしても、聖人扱いされる君には使い勝手のいいものだ」


「………そうか、ありがたく頂く」


太々しい態度はどこへやら。


彼は恭しく鱗を受け取り、教会から出ていった。


お世話係のうちの一人、俺とは別のやつが無実の証明書と共に彼を実家へ送り届ける。


「ふふ、彼はどうなるかなー?」


「どうなると思います?」


「俺?俺は―…」


黒龍様の言葉に、みんなが息を飲んだ。


















「結局、黒龍様の言う通りになったな」


「黒龍様はお腹いっぱいでご満足なさっていたな」


「生還者が上手くやってくれたおかげだな」


黒龍様は先を見通す目を持っていらっしゃるのだろうか?


真実を見通す目は確実に持っているはずだが。


それと、魂を見通す目も。


「まあなんにせよ、黒龍様が満足そうでなによりだ」


「俺たちは黒龍様に仕えるだけだからな」


「黒龍様が満足ならそれに越したことはないよな」


「黒龍様はセシリア様にぞっこんだから、最近は色々安定してて助かるよな」


「それもそうだな」


そんな会話をしつつ部屋を今日も掃除し終えた。


「よし、今日も黒龍様とセシリア様の愛の巣は完璧だな!」


「洗濯物も良し!」


「今日は贄もいないし、これで仕事は終わりだな」


今日も完璧に仕事をこなせた。


ということで部屋から出ようとすると。


「あ、君たち今日も掃除してくれてたの?」


「黒龍様!は、はい!」


「ありがとう、助かるよー」


「こちらこそ、いつも国の繁栄と安寧をありがとうございます!」


「ふふ、そういう約束だからね」


ニコニコ笑う黒龍様の隣で、セシリア様も笑っている。


「皆さん本当にいつもありがとう」


「いえ、当然のことです!我々は黒龍様のお世話係ですから」


「聖女様は日々黒龍様を支えていらっしゃるのです、このくらいは当然です!」


「ふふ、本当に良い方ばかりね」


「俺のお世話係だからね!」


黒龍様が胸を張ってそう仰った。


それだけのことに胸が熱くなる。


俺たちをそんな風に言ってもらえるなんて。


「ところでそこの君」


「は、はい」


黒龍様にご指名されてなんだなんだと驚く。


「恋人と最近上手く行ってないだろう」


「え、あ。お見通しでしたか」


「このままだと君、確実に後悔するよ」


「え」


「今すぐ早退して、今すぐ彼女の家に行きな。じゃないと間に合わないから」


黒龍様にそう言われて、同僚たちにも目線で促されて早退させてもらう。


そして走って恋人の家に向かうと…。


「…ルルシア?そんな大荷物でどこに行くんだ」


「リック…!えっと、これは、その」


「ルルシア…まさかと思うが、俺から逃げる気だった?」


ぎくりと身体を縮こませる彼女に、思わず眩暈がした。


「待って。ちょっと待ってくれ…何も言わずに逃げるほど俺が嫌だった?」


「そんなことない!リックが好き!」


「じゃあなんで」


「…赤ちゃんが、お腹にいるの」


「…え、それって」


俺との子供で間違いない。


ルルシアは浮気なんてする女じゃない。


「やった…やった、ありがとうルルシア!」


「え」


「男の子かな、女の子かな。ああもう、なんでそういうことを早く言ってくれないんだよ!」


「待って、嬉しいの?迷惑じゃないの?」


「迷惑?なんで?嬉しいに決まってるじゃん」


きょとんとする俺に、彼女は泣き始めた。


慌てる俺に、彼女は不安だったことを吐露する。


「迷惑かと思った…!嫌がられたらどうしようって!」


「そんなわけないじゃん。それで一人でお腹の赤ちゃんを連れて逃げようとしたの?」


「うん…」


「馬鹿だな、迷惑なわけないだろ。愛してるよ、ルルシアもお腹の子も」


「うん…!」


俺は今度のルルシアの誕生日のため用意していた箱を鞄から取り出した。


「な、ルルシア。これが俺の気持ち。受け取ってくれるか?」


そう言って傅いて左手を取って、箱から取り出した指輪を薬指に嵌める。


「え…」


「結婚してください」


「リック…!」


そして急遽行ったプロポーズは、ルルシアからのキスと共に無事承諾された。
















「ってわけで結婚するから」


「おめでとう。というか黒龍様の助言がなかったら危なかったな」


「そうなんだよな、助かった」


「おめでとう」


「おめでとうさん」


みんなから祝福されて、いつまでも恋人のことを惚気ていたいがそうもいかない。


「さあ、今日は特に張り切って黒龍様に尽くすぞ」


「そんなに俺の助言が役に立ったの?嬉しいね」


「黒龍様!先日はありがとうございました!」


「いいよいいよ、いつも世話になってるしね」


黒龍様はそう言って微笑んでくださる。


横にいたセシリア様も。


「お話は聞いたわ。おめでとう」


「ありがとうございます、セシリア様!」


「これからは不安にさせないためにも、もっと大切にしてあげるんだよ」


「はい!」


ルルシアをあんなに不安にさせたのは俺の落ち度だ。


これからはもうあんな思い詰めることがないよう、全力で愛して行こう。

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