〜2話
A Iの指示に従い、ネットショップで購入した流行りのオーバーサイズファッションに身を包んだ優斗。通りすがる女性のほとんどと目が合った。
「フフン。俺を見てる」
澄ました顔の裏でほくそ笑んだ。
Changerが呼ぶ。
『もっと背筋をピンと張って顔は前を向く。その顔をみんなに見せるように歩いて。今の君は韓国俳優にも劣らない』
「はいよ」
まるでランウェイを歩くモデル気分で、胸を張って颯爽と歩く。街ブラってこんなに楽しかったっけ。無駄に遠回りする。
待ち合わせの喫茶店。ドアを開けようとした手が止まった。待て。本当にこれでいいのか?相手を騙すことにはならないのか?急に心がざわめく。……とその時、またChangerがブルった。
『モテない自分に戻りたい?彼女はもうそこにいるんだよ』
画面の文字を見た優斗の頭の中に、あの時の自分が現れた。
「大森くんて、歌は超上手いし、性格もいいし⋯⋯顔がああじゃなかったら、付き合ってもいいよね。フフフフ」
学生時代の気になる女子が、女同士の会話の中で放った言葉。たまたま聞いてしまった自分。惨めで、情けなくて、何もかもがぶっ壊れたあの時の自分が。
優斗はゆっくりと首を横に振った。
すると、すぐに次の文字が現れた。
『よし!じゃあ、会ってすぐに、彼女の目をじっと見つめるんだ。目は口ほどにモノを言う。Good luck』
「O K!」
頬を軽く叩いた。
「行くぞ!」
重くなりかけた足を前へ運ぶ。
自動扉が開くと心臓の鼓動が早まった。大きく息を吸って吐く。
「よし!」
目印は、ピンクの花のピアス。手芸が趣味の莉子お手製で、『これを付けてます。世界に一つしかないものだから、分かりやすいかと思って』と、予め画像が送られてきた。
優斗はすぐに莉子を見付けた。白いバックを胸に抱え心細げに席に着いている。ピンクのワンピースは清楚感しかない。手作りの花のピアスとのピンクコーデもセンスがいい。
もうためらう気持ちは、微塵も残っていなかった。
「莉子さんですよね」
「あ、はい」
あわてて莉子は立ち上がった。
二人は見つめ合ったまま、しばらく立ちつくした。
(もしかして、今度こそ運命の出会いかも!)
ジワジワと優斗の胸は熱くなり、これまでとは違う感覚に酔いしれた。
ポケットの中でスマホが呼ぶ。優斗はさりげなくポケットに手を入れ画面を見た。
『いいね。きっと彼女も同じ事思ってるよ』
(ま、まさか。なんでこいつが彼女の気持ちまで分かるんだよ)
画面にはもう次の文字が現れていた。
『座ったら何を注文するか聞いて、ウエイターを呼ぶ。常に彼女を気遣うことを忘れない。Good luck』
「じゃあ、座りましょうか」
「あ、はい」
莉子はバッグからスマホを取り出し、画面を見つめながら席に着いた。そして、スマホをしまうと、優斗を見つめてにっこりと微笑んだ。
「何を飲みますか?」
メニュー表を手に取った優斗は、莉子の前に広げた。A Iの指示通り順調だ。
「ありがとうございます」
太陽のような破壊力の笑顔を見せる莉子。優斗の心臓がドラムのように高鳴る。
「オレンジジュース」と莉子はニッコリ。
「こんな綺麗な方と会うの初めてです」
「まぁ、お上手ね。あなたみたいな素敵な方なら、いくらでも綺麗な女性が付いてくるでしょう」
「いやいや、そうでもないですよ。そもそも俺、顔で判断するような奴が一番嫌いなんで」
「分かります」
「ほう。やっぱり莉子さんも、イケメンからいっぱい言い寄られて大変なんですか?」
「そ、そんなことないですよ。でもやっぱり顔より性格が一番大事ですよね。フフフ」
莉子のその言葉に、優斗は目を細めた。
(どの口が言うかね。ブサイクな俺には一度も返事などくれなかったくせに)
その時、Changerがぶるった。
『復讐しに来たんじゃないぞ。冷静になれ』
(こいつ、マジで俺の気持ちまで分かるんだな)
ストローをくわえた莉子の熱い眼差しが、優斗に突き刺さった。
(そんな顔で見られたら、過去なんてどでもよくなっちまうわな)
優斗も熱い眼差しで答える。
ブルブル。莉子のスマホが鳴った。すぐに莉子はそれを見た。
(さっきもスマホ見てたよな。すぐに確認しなきゃならない相手なのか?)
すると今度は優斗のchangerがブルった。
『そういう詮索はやめておけ』
「フー」
思わず大きなため息がこぼれ落ちた。
「ご、ごめんなさい。一緒にいるのにスマホ見るなんて失礼よね」
「あ、いいえ、そ、そうじゃないです……」
〜つづく〜




