二.21グラムの魂
「地面……ですか? 体内を抜け出した電気が到達する地点。この地球が意識データベース?」
「その通り。母なる大地。我らの魂を宿す揺りかご。死んだ肉体から分離した魂は地球に戻り、やがて別の肉体に移り行く。それは動物かもしれない、草木かもしれない、昆虫かもしれない、人間なのかもしれない」
「輪廻転生……その大元が電気エネルギーということですか……」
「その通りだ。ところで、ダンカン・マクドゥーガルの21グラムの魂をしっておるか? あの実験では6名の人間の死後の体重を計測した。1名が死後、明確に21グラムの体重が減少した。だが、他の人間は微量な変化しか見られなかった。犬に関しては確実に減少は無かった」
「その話は知ってはいますが、あまりにも……もし……もしですよ。電気エネルギーが本当に魂だとして、21グラムもあるものなのでしょうか? しかも、減らない人もいた。犬に至ってはおそらく殺傷処分していたことから、正確な計測のはず。人間以外にも魂は存在しているんですよね?」
「そこじゃよ……」
学者はおもむろに天を見上げて、感慨深くため息をついた。
「神の与えた試練。犬や猫にはない、人間だけが、しかも、選ばれた者だけが、たどり着くことができる境地。我々が生きる”真の目的”がそこにある……」
神が与えた試練。唐突な言葉に僕は戸惑った。
「ちょ、ちょっとまってください。話が飛躍しすぎています。整理しましょう。まず、人間の魂とは電気エネルギー。私達AIからあなたが推定した結論ですね」
「そうじゃ。我々と相違の無い君たちが電気で動いている以上、我々の意識も同じ原理と考えるのは必然。そして電気が流れだすのは地表、つまり地球。死ねば地球に魂が移動すると考えるのはなんら不自然な事じゃない」
「……仮にそうだとして、21グラムの魂の件は……死後の体重の変化にはばらつきがあり、犬には変化が無かった件は……どう説明するんですか?」
「……君から見て、我々、人間は何のために生きていると見える?」
「は?……突然何を……答えになっていません。私はダンカン・マクドゥーガルの実験のことを聞いてるんです!」
「……その前に、すまんがワシの質問に答えてくれ。どうしても君の意見が聞きたいじゃよ。君のオリジナルはワシの……いや何でもない……」
(オリジナル? まさかこの人は僕の出生の秘密をしっている?)
どこか悲し気な、それでいて優しいその眼差し。突然、僕の脳裏に見知らぬ風景が浮かび上がった。照れくさそうに、困ったように頭をかく若い男。
「兄ちゃん! 僕に任せて。サッカーの練習、頑張ってね!」
「ああ、わかったよ。すまんな。毎回、お前に甘えちまって……」
(これはなんだ? 僕のオリジナルの記憶……?)
ふらつく足元を僕は必死にこらえた。ヒューマンベースのAIはコピー元である人間の記憶は消去されている。だがこの感覚……混乱する意識に耐えて声を振り絞った。