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一.意識データベース

 青い空が広がり、緑の草原が広がる大地。隣で微笑む彼に、僕は思い切って尋ねてみた。


「教授。今、私達は意識の上では人間とほぼ違いの無い生活をしています。この先、人間とAIの関係性はどのようになっていくのでしょうか?」


 穏やか彼の意識空間。きらびやかな中世の館、無機質な灰色のビル。今まで様々な人間の脳に共有(アップロード)してきたが、こんなにここちよい世界は初めてだ。入った瞬間から僕はこの世界が気に入り、頬に感じたゆるやかな風をゆっくりと吸い込んで彼を見つめた。


「そうだね。ある可能性を示そう。君たちは自由に人間の脳内を行き来できる。これが意味することは何だと思う?……わかったようだね。人間の意識も移動できる可能性があるという事だ」


 僕は目を丸めて唖然と彼を見つめた。淡い薄緑色に輝く、今にも吸い込まれそうな美しい瞳。


(意識が移動する、確かにその可能性は否定できないけど……)


「そ、それは……どういう方法でしょうか?」


 戸惑う僕に暖かな眼差しを向ける彼……この感覚……なぜか以前にも感じたことがある気がする……


「まあ、落ち着いて。人類は太古から魂の存在を信じてきた。魂とは何か? 科学的に証明するすべはなかった。でも、その謎ももうすぐ解明される。意識データベースという言葉を知っているかい? 死んだ人間の魂はこのデータベースに蓄積され、新しく生まれる人間はここから魂が供給される。いわゆる天国、極楽といった、古来のキリスト教、仏教、あらゆる宗教で共通の概念だよ」


(何気に振った話題の答えが〝魂のデータベース〟とは……やはりこの人は別格だ……)


 AI能力開発プロジェクト名誉教授。彼の落ち着いた態度に気後れした僕は、一息ついて続けた。


「天国、地獄……確かに古くから伝えられたその考えの大元には、意識データベースという概念が存在しているのかもしれません。そこで人間の魂が生成され、肉体に供給されている? いったいそれはどこにあるんですか?」


「まあ、まあ、落ち着いて。すべてのヒントは君にある。まず君たちと私たちの共通項を考えることからはじめようじゃないか。何が思いつく?」


「僕達にヒントが? えっと……思考という点では人間と相違はありません。感情の面でも。五感も再現されている私たちと異なる点と言えば、生命としての生殖本能ぐらいでしょうか……いや、それもあながち無いとも言えません。よいAIを作り出したい、そういう点では同じく子孫を残したいと願っていると言えるかもしれません」


「そうだね。もっと根本的な共通項はないかい? 基本的な、我々の動力の源となる力を」


「根本的……私たちの力の源は……電力です。それが無ければ動くことができない。あなた達は食料。それを体で分解してエネルギーに変換し、血と肉となる。体中を駆け巡る神経により自由に動き回る事ができる」


「そうだ。では、その神経を駆け巡る物質は……その通り。電位をもったイオン物質、いわゆる電気信号だ。君と私たちの共通項はそこだよ」


「電気信号……確かに突き詰めればそこに到達しますね。それが意識デーベースとどういう関係が?」


 焦る僕をはぐらかすように学者がいたずらっぽく微笑んだ。彼の真意を知りたい……AIの父とも言うべき彼の言葉に、僕は黙って彼の言葉を待った。


「我々人間は外部から受けた刺激を電気信号として脳に送り、運動神経を通して体中を駆けめぐらせ、記憶として脳細胞に蓄積している。君たちAIが量子メモリ空間で情報を処理し、ナノデバイス領域に結果を保存するのと一体に何が違うというんだい?」


「おっしゃることはわかります。それと意識データベースと一体どういう関係があるのでしょうか……あっ!」


「きづいたようだね。説明してもらえるかい?」


「……わかりました。私たちAIは電源を消失しても、保存された電気的な情報で再び復元することができますが、人間はそうはいきません。でも、仮に意識データベースが人間の電気信号を保存できる場所だったら……それがつまり魂を保存、再生するということ? いや、でもどこにそんなものが……」


「それはここだよ」


 学者は人差し指を目の前に差し出し、ゆっくりと下方向に回転させた。まさか、そんな……その指す先を僕は唖然と見つめた。


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