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第4話 家族と領地戦01/05。

サンスリーは海を目指し、海を見た後は山を目指す。


安直さに呆れて自嘲してしまうが、山の景色はサンスリーを少なからず癒していた。

過去を振り返れば、こんな穏やかな時間はなかった。

常に何かを学ばされていた。

ふと気がつくと、デッサンなんてもう何十年もやっていない。


あの父はコンセプトに沿って指示を出していた。


兄達には、「領主に相応しい教育」、「領主の座を奪い取る為の教育」を命じ、自分にはただただ知識や経験を叩き込む事をコンセプトにして、料理や絵画、裁縫なんかの知識まで叩き込まれた。


何をやりたかったのだろう?

何でもやれる人間。

何をしても許される人間ならではの発想なのだろう。


サンスリーは山を選んだ事を、悔いて、感謝した。


悔いたのは山の領主が戦争状態にあった事、感謝したのも戦争状態にあった事。


悔いたのは、巻き込まれる事が決まった為、感謝したのは、ここ最近キチンとした戦闘をしていなかった為だった。


街は変な緊張状態でピリピリしていた。

飯屋に入り注文をすると、オーナーは「こんな時に何できた?主人の命令か?」と語りかけながらプレートを出してくる。


サンスリーが食べ勧めながら聞くと、この山の領主は運悪く双子で、領主戦を始めていた。


領主の子供が双子は、災厄の象徴なんて言われる。


兄弟ならば完全に立場が判明しているが、双子にそれは通用しない。

先に出た方が兄なのか、後から出た方が兄なのか、答えなんて出ない。


自身が兄だと言い切る戦い。

領主も誰も決められない。

いっその事、国で決めればいいのに、世界レベルで決めてしまえばいいのに。

神が降臨なされて答えをくれればいいのに。


神も来なければ、誰も決められなかった。

神は世界を見捨てたのか現れない。


人が決められないのは、自身の子が双子だった時、優秀な方を残したかったからだった。


「アンタ、見た感じ傭兵か何かだろ?ここに居たら巻き込まれる。用がないなら、さっさとこの土地から離れろ」

「…そうだな。感謝する」


サンスリーは、そう答えながら手遅れを感じていた。


街に入ってから視線を感じている。

値踏みか警戒か…。

売り込みと思われる可能性もある。


まあ領主戦ならばルールは存在するから、領民はピリつくが被害は少ない。


さっさと食べて次に行こう。


店を出ると、外には兵士達がいた。

殺気だっていて、返答次第では容赦しないという感じがしている。


「何か?」


サンスリーは質問をしながら【自由行使権】を取り出して見せると、「主人の命令で、見聞を広めている」と言って、「領主戦とは知らずにきた。出ていく」と続けて、街の外を目指すが手遅れだった。


「ならば傭兵として雇いたい。手が足りない」


一生遊べる額ではあるが、路銀には限りもある。

自活の為にも金は必要で、金はいくらあっても困る事は無い。それに最近は戦闘らしい戦闘はしていない。どうせならレンズを育てたい気持ちもある。


「金額次第だ」

「キチンと支払うと約束する」


サンスリーは頷くと「ゲイザーだ」と言って、兵士の後をついて行った。



領主戦で街がピリつくのは仕方なかった。

街に被害は出ないようにしていても出る。

勝敗がある以上、勝者の陣営にいれば、その後の代替わりまでは安泰だが、敗者の陣営ならば代替わりまでは苦難の日々が待つ。

昨日まで友達だった者、恋人だった者、親兄弟と殺し合う事にもなる。


親兄弟との戦闘はザラにある。

負けても、勝った方に家族が居れば恩恵と苦難が相殺される。


言い方は悪いが、周りを巻き込んで、人が死ぬ兄弟喧嘩で疲弊したくなかった。

だからこそ傭兵や、金で買われた奴隷が前線に投入されていく。


通されたのは街では弟と呼ばれた方だった。

戦況は散々。既にジリ貧で、負けルートに入っていて、傍目に奇跡を願う状況に「何が金なら払うだ」と呆れてしまった。「私財を投げうってでも勝つしかないから来てくれ」が正解だった。


「今日は休息日か?」

「ああ、明日は山頂の広場で戦闘になる。何とか山の向かい側を目指し、敵を討ち取る事が目標だ」


「まあいい。金が出て装備が支給されるなら結果は出す」


サンスリーは兵舎に通されると、野戦病院に近い感じでうめき声が聞こえてきて、「やれやれ」と呟いていた。


食堂にはまだ健康な連中が何人もいて、サンスリーをみて呆れ笑いや、憐れみの目を向ける者もいる中、1人の少女が「こっち座りなよ」とサンスリーを手招きした。


少女は小柄で痩せていて、ひと目で戦闘奴隷だとわかる。


「へへっ。いらっしゃい新人さん」

「ああ、世話になる」


「どっち?」

「雇われだ」


「へぇ、負け戦だけどどうすんの?逃げる?」

「タダ働きはゴメンだ。勝たせるさ」


「マジで?格好いいじゃん。名前聞いてもいい?私はドルテ」

「ゲイザーだ」


「偽名?」

「芸名みたいなものだ」


「本名は?」

「言えないな」


「ケチ。仲良くなったら教えてよ」

「……そうだな」


サンスリーに、若い子供はダメだった。

どうしてもその歳の頃の自分を思い出してしまう。


ドルテは18前後に見える。

小柄で痩せているせいで幼く見える可能性もあるが、戦闘奴隷は消耗品だから5体満足なら若い可能性もある。


その頃の自分は何を習わされていただろう?

サンスリーが思い返すと、性知識を得させられた頃で、日々抱きたくもない女を抱き、奉仕の仕方、悦ばせ方を叩き込まれていた。


サンスリーには嫌な記憶しかないが、これは殊更嫌な過去だった。

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