ギルド
翌朝、僕はアルベルトに着替えを手伝ってもらいながら今日の流れを確認した。
「さてと今日はギルドに行こうか!ギルドではジョブが登録できたり色んなものが買えるんだよね?」
アルベルトは僕にループタイをつけながら答えた。
「そうですね。仕様さえ変わっていなけれ受け付けの方に説明をもらったあとジョブ登録ができます。ところでレイズ様何のジョブに登録するのですか?」
ジョブかぁ…ジョブねぇ…。いまいちジョブに関して何があるか理解していないんだよな。冒険者だったり魔法使いがあるらしいけど、冒険はしたくないし…
「ジョブの事よくわかんないや。とりあえず受け付けの人?に聞いてみるよ。どんなのがあるのかとかさ。」
僕はメガネを掛け、アルベルトともに宿を出てギルドへと向かった。
「はぇー。ギルド、中と外もでっか…」
僕とアルベルトはギルドに行ったが空いた口が塞がらなかった。大きな木造建築で石造りの大きな門が僕たちを迎え入れる。中は広々としたホールで大きなテーブルを囲み冒険者たちが集まって情報交換をしていた。壁には掲示板がありおそらく依頼やクエストが張り出されている。クエストの難易度によって報酬が変わるらしい。初めての光景にうきうきで辺りを見回しているとアルベルトが苦笑した声が頭上から聞こえた。
「レイズ様。興奮するのはわかりますがまずはカウンターに行きましょう。」
「はぁーい」
受け付けにはベテランそうな笑顔の素敵なお姉さんがいた。僕にはカウンターが思ったより高く、アルベルトに椅子を持ってきてもらい受け付けに挑んだ。
「こちらギルド受け付けカウンターです。依頼関連の受付ですか?それともジョブのご登録ですか?」
「ジョブの登録です!」
「あらあら小さな坊やですね。登録のならこちらの紙に記入をお願いします。」
受付のお姉さんが指を一振りすると紙と羽ペンがが二セットずつ飛んでき、僕たちの前に置かれた。「はい。確認しました。レイズさんとアルベルトさんですね。お二人はジョブのご説明は必要でしょうか?」
「よろしくお願いします!」
お姉さんはジョブ一覧を僕たちに見せてくれた。
“戦士” “魔法使い” “狩人” “鍛治師” “薬師” “商人”
他にも細々としたジョブがあるがとりあえずこの六つについて説明をしてくれるらしい。
「戦士や魔法使いは俗に合う冒険者ですね。主な仕事をは掲示板のクエストや依頼を選びダンジョンモンスター討伐をすることです。他にも貴族様の護衛なども請け負います。狩人はその名の通り狩猟を主にします。魔獣の肉や魚釣り、植物の採集なども請け負います。たまに弓使いとして冒険者達と手を組む場合もありますね。鍛治師や薬師もその名の通りです。ギルドから一週間おきに提示される武器や薬などを納品します。納品数に応じて報酬を得ることができます。商人ジョブは街で何か店を開く場合このジョブを登録することが必須事項となりますね。」
お姉さんはにこやかに説明をしてくれた。なるほど…冒険者もいいしなぁ。狩人も気になる。どうしたものか…
「良さそうジョブは見つかりましたか?レイズ様」
「悩み中なんだよなぁ…どれも良さそうだし。」
ふと僕はジョブ一覧の端っこに視線をやった。そして僕はそこに書かれた一つのジョブに目を奪われた。
“魔道具職人”
「あのお姉さん。ここに書かれてる魔道具職人というのは…?」
「え゛」
「「え?」」
僕の言葉にお姉さんが喉の奥で押し殺したような声で反応し、フリーズをした。え、そんなおかしいこと言ったのかな…僕らが怪訝そうな顔をしていると復活したお姉さんが僕に問いかけてきた。
「レイズさん…魔道具職人になりたいのですか…?」
「いや…端っこに書かれてるから気になって…え?このジョブってなんか禁忌な感じなんですか?」
お姉さんは魔道具職人について説明を始めた。
「魔道具職人というのは魔法の力を用いて道具やアイテムを作る専門家です。魔力を素材に流し込み封じ込んで特別な効果を持つアイテムを作るんです。」
聞けば聞くほど僕は魔道具職人が魅力的に思えてきた。それなのになぜかお姉さんもアルベルトも微妙な反応をしている。
「えっと…なんでそんなに魅力的なジョブなのになんでそんな反応を…?」
お姉さんに変わるようにアルベルトが苦い表情で説明しだした。
「魔道具職人は向き不向きが大きく左右するんです…職人人口もかなり私が知る限り少ないようで。というかダンジョンクリア後の宝箱にも低確率で特殊効果持ちのアイテムが出てくるので…」
ああ。なるほど。職人人口が少ない魔道具職人から買うよりダンジョン産の特殊効果アイテムの方が楽なのか。でも1番心惹かれるジョブなんだよなぁ…よし
「じゃあお姉さん!僕、登録ジョブを“魔道具職人”にします!」
僕は意気揚々と宣言をした。するとお姉さんがとてもびっくりした顔をする。アルベルトは「でしょうね」といった顔をしている。知り合ってまもないのに僕のことをよく理解しているなアルベルト。
「えっ!?正気ですか!?レイズさん!!!!」
「1番心惹かれるジョブなので!」
お姉さんは考え込んでしまった。そしてぱっと顔を上げると僕に言った。
「どうしても魔道具職人になりたいのなら試験をしましょう。」
「「試験」」
僕たちはホールのテーブルに案内され待機させられた。
「試験ってなんだろうね。」
「さぁ…?魔力の診断とかでしょうか?」
しばらく待っているとお姉さんがカゴを手に帰ってきた。
「こちらはギルドが保有している魔道具作成専用キッドの簡易版です。試験ではこのキッドで比較的作るのが簡単と言われてるいる魔道具を作成していただきます。」
そういうとお姉さんは持ってきたカゴを僕に差し出す。カゴの中にはメモ、小さな釜、マドラー、着火素材、大ぶりな水色の石、おそらくアクアマリン、銀、それと型取り材が入っていた。
「魔道具作成が試験なんですね。作るアイテムは何ですか?」
「剣のヒルトのガードを作成していただきます。」
「ヒルト…ガード…?」
僕がわからないという顔をしているとアルベルトが僕に説明をしてくれた。
「剣の柄のことをヒルト、鍔をガードです。ちなみに握るところはグリップ、柄頭をポンメルと言います。」
「その通りですアルベルトさん。今回は水属性攻撃強化のガードをレイズさんに作ってもらいます。恥ずかしながら私は魔道具作成に関して無知なので…先代が残したこちらのメモに作り方が書いてあります。」
お姉さんに渡されたメモを見ながらガードを作っていく。
「えーっとなになに…まずは水の魔鉱石と銀を粉々にする…。」
「こちらですね。」
アルベルトがカゴから大ぶりの水色の石を取り出し、僕に差し出してくる。これが水の魔鉱石か。水の魔鉱石は透き通るような水色でよく見ると水面の波紋のような模様が入っている。光にすかしてみると透明感のある綺麗な輝きを放ち目を奪われ、見惚れてしまう。
「綺麗な模様と色だなぁ。これを粉々にするの少し勿体無いな。」
「レイズ様、魔鉱石と銀を砕くのは私がやりますね。とくに魔鉱石はかなり硬いので。」
アルベルトはニッコリといい笑顔をしながら魔鉱石を袋にいれハンマーでガンガンと勢いよく叩いていく。恨みでもあるのか?その水の魔鉱石に。魔鉱石を砕き終わったあと銀を砕いてもらったが、銀を砕く時は恨みがこもってそうな叩き方ではなかった。魔鉱石に何の恨みがあるのだ本当に。
「粉々になりましたよ。レイズ様。」
「ありがとう。おっわ見事なまでのパウダー状…。えっと次は~“粉々にした魔鉱石と銀を釜にいれ溶かし、魔力を流しながらマドラーで混ぜていく”か。なるほどマドラーを通して溶かした銀と魔鉱石に均等に魔力を流していくのか。」
「お気をつけください。うまく魔力を注がないとこれ爆発します。」
「魔道具職人人口が少ないのってそれが原因なんじゃ…。」
釜の中に砕いた魔鉱石着火素材の上に置きアルベルトに魔法で火をつけてもらう。混ぜようとすると自分たちの周りが騒がしいことが気づいた。いつのまにかのテーブルで情報交換をしていた冒険者が僕たちを囲んでいたようだ。
「はぇー少年、魔道具職人試験を受けてんのかい?」
「はい!水属性攻撃強化のガードを作るんです!」
「そうかい!そうかい!でも上手く作れるのか~?相当難しいぞ。魔道具作成は。」
「うっ…がんばります…」
「おう!頑張れよ!少年!」
冒険者の方々はニッと笑いながら口々に僕に頑張れと応援してくれたり頭を撫でてくれたりした。ただ爆発は怖いのか少し離れた。しかし離れたところから嬉々として見守ってくれている。優しい方々だ。アルベルトは爆発した場合僕を守れるように隣に立っていてくれた。僕は失敗しないよう気合をいれグルグルと魔力を流しながら魔鉱石と銀を混ぜ出した。おっ…と…、これはこれは…。
「…めっっちゃくちゃ魔力を流すのきついな…。」
集中して魔力を制御しないと全部持ってかれそうになる。その上うまく魔力を流さないと魔鉱石が爆発する。そうとうリスキーだ。万が一にでも爆発して周りに被害が出ると思うとゾッとする。ただ…
「…レイズ様?大丈夫ですか?」
「っははは!超楽しい…!」
自分でも口角が上がるのがよくわかる。作っていくうちに気分が高揚してくるのだ。きついはずなのにこの感覚の虜になっていく。癖になるなこの感覚は!!!!
アルベルトが驚いた表情をしているが知ったこっちゃない。魔道具作成が楽しすぎる!!!
魔力が均等に混ざり切ったことを確認し、溶けた液体を型取り素材に流し込んでいく。そして型取り素材ごとアルベルトに冷却魔法で冷やしてもらった。そして固まったガードの真ん中にアクアマリンを埋め込み完成!
「レイズさん…すごいですね一発成功…!?」
お姉さんが信じられないというような顔で出来たガードと僕を交互に見る。
「お姉さん!僕の魔道具職人試験結果はどう!?!?合格!?!?!?」
お姉さんの周りをグルグル回りながら聞いた。
「作れたということは合格以外あり得ませんよレイズさん!」
「やったぁ!!!!!!」
周りからおお~という声や拍手の音がした。小躍りでもしたい気分だ!僕は初めてしかも成功という魔道具作成にテンションが上がっていた。
「アルベルト!!!僕作れた!!!」
「えぇ!つくれましたね!素晴らしいですレイズ様!」
イェーイ!とアルベルトとハイタッチをした後、疲れているだろうと僕の代わりにジョブ登録用紙を書きに行った。生まれて初めてできたガードをうきうきで眺めていると先ほど僕をを撫でてくれた冒険者のお兄さんが話しかけてきた。
「なぁ少年。」
「はい!どうしましたか?」
「その魔道具を銀貨3枚で俺に売ってくれないかい?」
「えっ!?」
銀貨5枚というのは僕たちが宿泊した宿が2泊できる程度だ。銀貨10枚で金貨1枚換算であり、銅貨100枚が銀貨1枚換算となる。ちなみに僕が実家からかっぱらってきた宝石換金は金貨20枚になっている。
「銀貨3枚ですか…?初めて作ってしかもちゃんと性能がきっちりしてるかどうかもわからないのに…」
「失敗はしてないのだろう?それに俺は打たれ強い。多少攻撃をくらってもダウンするほど弱くないぞ。それに少年、俺は君に期待をしている。先行投資だよ。…それでもだめかい?」
「いっ、いえ!とても嬉しいです!どうぞ!」
「ああ。ありがとう。」
初めて売れた。自分の手は正真正銘自分の売上があるのだ。口角が上がるのを止められない。
「うはは!かわいいなぁ少年!」
「わっ!髪の毛ぐしゃぐしゃにしないでください!」
「レイズ様~登録し終わりましたよ~…って何かあったんですか?」
「見て!アルベルト!!!!初めて売れた!!!!」
「えっ。」
「ああ買わせてもらったよ。これ相当出来がいいぞ。」
「ああ…なるほど。レイズ様がいいのならいいのですが…」
「うん!!!」
にぱぁ~!と笑いながら銀貨3枚をアルベルトに見せると優しく微笑んでくれた。
「あっ登録してくれたって言ったね。ありがとう。」
「いえいえ。それではレイズ様、こちらを。」
アルベルトから手渡されたのはギルド認証の魔道具職人証明書だった。
「それと受け付けの方から提案があるそうです。」
「提案?」
僕らは受け付けの方に行った。そこでお姉さんはすっと紙を僕たちに差し出した。
「こちらフィンブライド外れの丘の上にある魔道具工房です。昔の魔道具職人がここを工房としていて。二階建てで一階部分は工房、2階部分は住居です。ちょうどいいですしここを工房としてはどうでしょうか?」
「えっ。でも…いいんですか?」
「えぇ。長い間買い手も見つからなかったですし、もはや誰も買わないんです。」
「…買い手がつかない理由でもあるんですか?」
アルベルトが質問をする。えっ、ここ怪事件でも起きた場所なの…?それならちょっと、いやかなり嫌なんだけど…
アルベルトの質問に焦ったようにお姉さんが答えた。
「訳アリというわけではないんです。一階が魔道具工房として完成されすぎてて…他のジョブの工房とするには難しいし、一般家庭用とするには手狭で。」
「ああ…なるほど。」
「どうします?レイズ様。悪い話ではないですよ。」
「拠点があるのはいいことだし…買おう。」
「拝命しました。こちらお値段は?」
「金貨5枚ですね。」
「はっ!?安すぎませんか!?」
アルベルトが驚いた顔をする。大体の家は金貨10枚以上いることが大半だ。破格の対応が過ぎる。
「かなりの年月買い手がつかなくて…どんどんとレートが下がっているんです。」
「なるほど…では全然一括で払えますね。」
そうして僕たちは晴れて拠点を手に入れた。アルベルトが物件を買う手続きをし、そろそろ終わるかなという頃
ぐ~~~~
「あっ…」
僕のお腹が盛大になった。お姉さんとアルベルトがびっくりし、こちらを見てくる。恥ずかし過ぎる!!!!穴があったら入りたい…
「ごめんなさい…魔力の使いすぎてお腹減った…」
「っふふ。受け付けのお嬢さん。ここら辺でおすすめのご飯屋はありますか?」
「それなら“フレバーズ”という料理屋ですね。おすすめはホッグブーの肉を挟んだサンドウィッチです。」
ホッグブーというのは森でよく狩れる中型魔獣だ。ホッグブーの肉は柔らかくジューシーでとても美味しい。
「それならそこに行きましょうかレイズ様。私もお腹が減りました。」
「うん…」
僕たちはギルドを出てフレバーズを目指し歩き出した。そこで僕はずっと気になっていたことをアルベルトに聞いた。
「ねぇアルベルト。」
「どうかされましたか?」
「水の魔鉱石に何か恨みでもあるの…?めちゃくちゃ叩いてたけど…」
アルベルトは目を細めバツが悪そうに笑いながら答えた。
「ああ…ただの嫉妬ですよ。」
「え、嫉妬?」
「何でもないです。ほら早く行きますよ。レイズ様もお腹が減ってるでしょう?」