フィンブライドへの出発
起きた瞬間目に飛び込んできたのはアルベルトの心配そうな顔だった。おっわ、寝起きにとんでもない美形を食らった。体がだるくゆっくりと起き上がっているとアルベルトが補助をしてくれた。なんて献身的な…自分のせいだとでも思っているんだろうな。
「さて起きた…けどまずこれからどうすべきなんだろうね。」
「そうですねぇ…まずは街に行くべきだと思いますよ。ここから多少走ったところにフィンブライドという街があったはずですよ。」
「一応聞くんだけどアルベルト、それは僕が走ったスピード?それともアルベルトが走ったスピード?」
「私が多少本気で走ったスピードですね!」
「人間からしたらその街絶対確実に遠いよね!?!?」
「ゔっ……、というかレイズ様。街に行く服ではありませんよね?その服。」
話を逸らされた…だけどそういえばそうなのだ。僕は火事った実家から夜中に飛び出してきたせい服やらなにもかも着替えず寝巻きなのだ。
「ブカブカな白いシャツってことでゴリ押せないかな?」
「流石な無理がありますよレイズ様…」
「でもそんなこと言ったらアルベルトだって服ボロボロだよ?」
「ああ。それは問題ありませんよ。」
そういうとアルベルトは微笑みながら指パッチンすると今まで着ていた服を燕尾服に変えた。よく似合っている。
「さてこれで問題ありませんね。」
「何それすごい!!!!!!えっ!!!どうやったの!?!?!?」
むっふんとドヤ顔をしながらアルベルトが答えた。
「契約者がいる吸血鬼なら見た目を割と自由に変えれるんですよ。なんならさっきレイズ様から血をいただいたのでこれくらいならおちゃのこさいさいです。」
契約者がいる吸血鬼ってかなり自由度が高いのか。驚きの事実とを知った。その力で僕の服も変えれないのかな。
「ねぇアルベルト、それ僕にもできない?」
「自分ではないので流石に無理ですね。」
即答かぁ。流石に自分にしかできないようだ。吸血鬼の生態系にも色々あるんだろうな。
「とりあえず私だけ先に行ってレイズ様用の服を買ってきます。幸いお金なら子供服を買えるくらいにはありますし。」
「え、お金持ってたの?」
子供服の相場は知らないが、お金を持っていたなら空腹でぶっ倒れる前にご飯も買えたはずだ。
「まぁご飯買う気もなかったですし…」
おっとアルベルトの目が死んでいき雰囲気が変わっていく。軌道修正をしよう。
「えっと!!!!服を買ってきてくれるんだよね!!!!」
「…ええ。買ってきますね。とりあえず目分量でサイズを測るので手をバンザイしてもらっても?」
「はぁーい」
アルベルトがバンザイした僕の周りをぐるぐると回る。大体の目分量で僕のサイズを測ったのかにっこりと笑った。よくわかるな僕のサイズ…でもまぁよかった。雰囲気が元に戻ったみたいだ。
「すぐ帰ってきますからこの場から動かないようお願いしますね。」
「了解!」
そう告げるとアルベルトは爆走し始め、あっという間に背中すら見えなくなった。え、早…
アルベルトの綺麗な銀髪が靡いて綺麗だろうな~とかなるのかなと思っていたら早すぎてなんにも見えない。人外だ…
宝石見ながら時間潰しておくか…
宝石をがちゃがちゃすること、はや数十分。そろそろ飽きてきたかな~というときにアルベルトは帰ってきた。相当有能な僕の吸血鬼さんだ。
「ただいま帰りました。買ってきましたよ。レイズ様!」
「おわぁ早かったね。おかえり。」
「こちら買ってきた服になります。」
「ん。ありがとう。」
アルベルトが選んできた服は灰色のシャツに黒のズボン、動きやすそうな編み上げブーツ。そしてループタイだった。
「とりあえずで買ってくる服じゃなくない?」
「服を見ていくうちに楽しくなってきちゃって…ただサイズは合ってるはずなので一度着てみましょう。」
アルベルトに促され着てみたが、びっくりするくらいぴったりだった。ほんとに目分量で測ったんだよな?これ…
「よかった。ぴったりでしたね。」
「そうだね。びっくりするくらいね。」
「それとレイズ様。これを。」
「?」
アルベルトから渡されたものは少々大きめのメガネだった。
「メガネ…?どうして。」
「レイズ様は詳しい事情は知りませんが家出をしてきたのでしょう?それなら顔がバレないように多少なりとも顔にアイテムを加えた方がいいかと。」
「ああ~…」
探される心配もないと思ったが、ニコニコのアルベルトに「いらない」と返すのも忍びなく
「ありがとう。」
といい、かけてみた。
「考えもしなかったな。メガネとか。」
「アイテムを出して印象がガラリと変わる方もいらっしゃいますしね。おや、知的な雰囲気が出て素敵ですよレイズ様。よくお似合いです。」
「めちゃくちゃ褒めるねアルベルト。」
「さてと…これから街に行こうか。服も着替えて準備は万端だよ。」
「そうですね。それでは失礼して…」
そういいながらアルベルトは僕と宝石の入ったボストンバックを抱き上げた。
「えっ!?なん、え、なんで僕まで抱っこ???」
「レイズ様には多少街は遠いので…失礼ながら私が抱き上げて移動しますね。」
歩けるよ!!!と抗議しようと思ったが実家からこの森にまで走ったせいか足がガクガクだったのも確かだった。アルベルトの優しさを甘受しよう。そうしてアルベルトは街に向けて歩き出した。
街に行く道中これからのことを話し合った。
「街に行かれてまず何をしましょうか?」
「そうだなぁ…まず宝石を換金しようか。怪しまれない程度にね。」
「大量の宝石を換金するのも怪しまれますしね…事実かっぱらってるみたいですし。」
「そうなんだよなぁ。そのあとは生活基盤を整えないとね。手に職をつけたほうがいいのかな。」
「それならギルドに行きましょうか。色々なジョブを登録できたり拠点を整えたりできるようですよ。」
「そうだね。とりあえず今日中にすることは怪しまれないように宝石換金、宿の確保だね。日暮れ前までには街に着きそう?」
「このままのスピードで行けば余裕でつきますよ。先ほど服を買うついでに街をざっと見てみましたが宿もありました。寝床確保はできますね。」
「じゃあ寝床問題は解決として換金のための作戦αを考えないとね。」
「作戦α…」
作戦αを考えながらしばらく歩いていると、アルベルトの言った通りフィンブライドに日暮れ前までに余裕でついた。
僕たちは宝石を換金すべく宝石換金店に行った。道中僕が出ずから換金するよりアルベルトが行った方が違和感がないという結論にいたり、作戦αを遂行するのはアルベルトの役割になった。僕の役割は愛らしくアルベルトとお手々を繋ぐことだ。
「ごめんください。こちらの宝石たちを換金することはできますか?」
「はい…ってお客様ずいぶん換金しますね…。なにか事情が?」
「あはは…仕えていた家がその…没落しまして…」
僕らが考えた作戦αは没落貴族とその使用人に擬態するという至極単純なものだった。アルベルトの執事服を最大限利用したこの作戦うまくいくかどうか…!
「おや…それはお気の毒に…」
いけたーー!!!!!心のなかで思わずガッツポーズをきめてしまう。
「そちらの子供さんは?」
どうしよう。こっちに話し振られると考えなかった…!やばいやばい
そう思っているアルベルトの手をぎゅっぎゅっとせわしなく握っているとさっと助け舟を出してくれた。
「私が仕えていた家の坊っちゃんですよ。少し事情がありまして私が引き取ったんです。ご挨拶できますか?レイズ様」
「あっ、始めまして!レイズと言います!」
頼む。乗り切れてくれ!
店主はハッと気づいた顔をし僕に目線を合わしてきた。
「…レイズくん、この先辛いことや苦しいことがあっても…決して未来を諦めてはいけないよ…!」
目をうるませながら店主は僕を励ますかのような言葉をかけた。
なんだか過大解釈をされている気がする。側室の子供とかそこらへんをアルベルトは想定してる気がするけど…
ちらっとをみるとアルベルトもまたびっくりした顔をしている。そうだね。その気持ちわかるよ。
その後も店主の励ましの言葉は止まらずしまいには「ここで働くかい?」と声をかけられた。アルベルトが即座にお断りを言ったところに少し笑いそうになってしまった。
なんだかんだとありながらも無事宝石を換金することができた。生活には困らない額は懐に入ってほくほくだ。
なぜか帰り際にアルベルトが店主に耳打ちをされていたが何を言われたのだろうか。
「宝石換金できてよかったね。」
僕たちは取った宿の部屋でゆっくりしながら話していた。
「あそこまで親身になられるとは思いませんでしたけどね…」
「あっはは…でもまぁ資金源は確保できたし明日はギルドに行ってみようよ。アルベルトはギルドに行ったことあるの?。」
「そうですねぇ。ギルドに行くのはウン十年ぶりですね。色々変わってないといいのですが…」
「ギルドかぁ。楽しみだなぁ…そういえば最後店主さんに何を言われてたの?」
「えっと…そうですね…あの店主はくえない人ですね。お人好しではあるんでしょうが。」
「えぇー…どういうこと…」
そんな事を話しながら僕はいつの間にか寝落ちしていた。今日だけでいろいろありすぎたのだ。
「おや、寝てしまいましたかレイズ様…おやすみなさい。良い夢を。」