血の盟約
「私が泣きそう?そんなわけがないだろう。この状況がわかってないのかい?」
「もちろんめちゃくちゃ理解してますよ。今首を絞められそうになってるところですね。」
「そうだね…そうだね…」
アルベルトさんはいつの間にか元の雰囲気に戻っている。そして僕の首から手を離した。手が離れたので僕は自由の身だ。アルベルトさんと向き合って話をしよう。
「びっくりした…急に襲ってくるんですもん。」
「ご、ごめん…急に思考がおかしくなっちゃって…」
「そうだねぇ…明らかに雰囲気が違ってたし。」
「ぐっ…本当に申し訳ない…」
アルベルトさんがしょもしょもと縮こまっている。可愛らしくて少し笑ってしまった。
「何笑ってるのレイズくん…」
アルベルトさんにほっぺたをもちもちされながら少し怒られた。
「やめへよあるへるとさん…も〜、でも急に思考がおかしくなるっていうのは大変だね。そういうことはよくあるんですか?」
「よくあるっていうか…その若干お腹が減ってて…」
「え゛…」
お腹が減ってる…?さっきアルベルトさんめちゃくちゃパンを食べてたよね…
僕のドン引きした視線に焦ったのかアルベルトさんが慌てて弁解を始めた。
「いや!そういうお腹が減ってるじゃなくて!その…」
アルベルトさんが言い淀む。別にもはや大食いだからって引いたりしないのに。
「アルベルトさんが大食いだろうがなんだろうが別に気にしませんよ!!!それ以上にインパクトが強いことあったからね!!!!!」
「申し訳ございませんでした!!!!!!」
「その…血が足りなくて…」
え、血????
「ごめん聞き間違いですか?血???」
「聞き間違いじゃないよ…うん血が足りなくて」
「…貧血とか?」
貧血なら一大事だろう。パンなんか鉄分とれやしない。肉を食べるべきだ。
「私が何の種族かまだ言ってなかったね。私は“吸血鬼”なんだよ。」
「えぇ…」
“吸血鬼”
実際のところ僕もよくわかっていないが…知ってることといえばかなりの長命種であり、超人的な力を持っている。そして変身能力が備わってることくらいか。あと日光に弱くて太陽の光に触れると体が燃えるとかなんとかって書いてあった気がするけどどうなんだろう。
「………ズくん…イズくん……レイズくん!」
「うぉ!!!!」
「大丈夫?ずいぶん考えてこんでいたけど…」
「ごめんごめん。それでアルベルトさんは吸血鬼…なんだよね?」
「そうだね。残念ながら吸血鬼だね。」
「残念って…ねぇ一つ聞いてもいい?」
「答えられる内容なら喜んで答えるよ。」
「太陽にあたっても焦げないの?僕が見た本の中には太陽光に弱いって書いてあったけど…」
「ああなるほど。もう焦げやしないよ。君はずいぶん昔に書かれた本を読んでいたんだね」
「えっ…」
吸血鬼は太陽で焦げないらしい。“もう”や“昔に書かれた”などの発言から昔は焦げてたってことか…
「滅ぼされる少し前にね私たちは日光を克服してたんだよ。」
「そりゃ王族も滅ぼしに行くよアルベルトさん…」
決して滅ぼされていい理由にはならないが当時の王族の考えも理解できる。人間を超えた力を持った種族が1番の弱点を克服したんだ。脅威に感じるのも無理はない。
「…わかってはいるんだよ。でも滅ぼされていい理由にはならないんだ。」
「それはそうなんだけどね…人間は自分たちより強い何かを恨む生き物だからね…」
「レイズくん見た目の割に思考がずいぶん大人びてないかい????」
「そうですかね…ところでねぇアルベルトさん。これからどうします?」
「どう…するって?」
「だってずっとこの森にいるってわけにもいかないじゃないですか。」
「それはそうだけど…」
「ねぇアルベルトさん。僕と一緒に行かない?」
「へっ?」
「だから一緒に行こって。」
「正気!?!?さっき自分を殺そうとしてたやつと一緒に行く!?」
「えっ僕のこと殺そうとしてたの!?でもまぁ一緒に行こうよ。それに一人ぼっちは寂しいよ。……傷の舐め合いをしていこうよ。一緒にいようよ。さっき言ってたじゃないですか“少し似たもの同士”って。だめ?アルベルトさん。」
僕はそっとアルベルトさんの手を掴んだ。アルベルトさんが弱々しく握り返し、僕に聞いてくる。
「一緒にいてくれますか…?」
「いるよ」
「ずっと…?」
「ずっと」
「本当に?」
「本当に」
「…私があなたに血の盟約を求めたとしても?」
「血の盟約?」
僕がちんぷんかんぷんという顔をしていると少し笑いながら“血の盟約”について説明をしてくれた。
1つ【従属する側が忠誠を誓う側に“誓約の言葉”を唱える。この誓約の言葉には魔法的な効力をもち破ることは禁止とされている。】
2つ【契約者の血を吸血鬼が魔力を流しながら飲むことで血の絆が形成され契約が成立する。】
3つ【吸血鬼は契約者を守り、危険から遠ざける義務を負う。契約者が危険に晒された場合、吸血鬼は全力で守ることを誓う。】
4つ【契約した吸血鬼は契約者以外の血を飲むことができなくなるため、契約者は吸血鬼に血を与える義務を負う。】
5つ【この盟約は死ぬまで取り消すことはできない】
「…なるほどね。血の盟約ねぇ…」
「それでも私と一緒にいてくれますか?」
「いいですよ!」
「緊張感を持ってよレイズくん…本当に?後悔しませんか?死ぬまで取り消すことができないんですよ?」
「いいよ。」
アルベルトさんは不安と期待が入り混じっている表情を浮かべていた。
「レイズくん…いやレイズ様、覚悟は…できてますか?」
アルベルトさんの声は低く、しかしどこか魅了するようなな声だった。僕はアルベルトさんに目を合わせゆっくりと頷いた。
「覚悟はできてるよ。アルベルトさん」
僕はアルベルトさんにゆっくりと手を伸ばした。アルベルトさんは微笑み僕の首元を少し緩めた。
「我が名を捧げ、我が魂を誓い、永遠の盟約を結ぶ。この盟約に誓いを立て私、アルベルト・エッジはレイズ様に絶対の忠誠を。」
「…後悔しても、もう絶対に離しませんからね。レイズ様」
僕の首にアルベルトさんの鋭い牙がたてられ皮膚を貫通する。自分の血が吸われる感覚と自分の中に流される他人の魔力の異物感、思わず声を上げ痛さに顔を歪ませてしまう。
「っ…ぐっゔぅ…」
皮膚に刺さっていた牙が抜かれる。傷口から少し垂れる血を名残惜しそうに見ながらもアルベルトさんは僕に微笑んだ。
「終わった…?」
「ええ。これで契約は成立です。消毒しましょうかレイズ様。」
「レイズ様って…」
「晴れてあなたは私の契約者になったのでレイズ様と呼ばせていただきますね。」
「ああ…なるほど…」
「なのでレイズ様も私のことをアルベルトとお呼びください。」
「うん…わかった…」
貧血気味なのかうまく脳が回らない。意識が朦朧としていく中、ただ一つ言えることはアルベルトさん…いやアルベルトがひどく幸せそうに、高揚した笑みを浮かべていたということだけだ。
「ずっと…一生離れないでくださいね。レイズ様」
やっとヤンデレ味が出てきたぞアルベルト・エッジ…