アルベルトの葛藤
[sideアルベルト]
あの日から今まで生き地獄だった。数百年前、王族が我々のサクエル村を滅ぼした。母も父も友人も全てを殺された。我々は何もしていない。ただ人里離れて静かに暮らしていただけなんだ。なんとか命からがら逃げて逃げて時にはバカをしてしまい人にバレ、迫害され、奴隷になった。この世の全てが憎かった。
気づけば私を買った貴族も何十年も経ち体にガタがきていた。これ幸いと貴族を殺し、逃げ出した。己の体力が尽きるまで走り、行き着いたところは謎の森。流石に体を使いすぎたのだろう、木にもたれかかり脱力してしまった。意識が遠のいていく感覚がする。このまま死ぬのだろうか。
とんでもなくお人好しの子供にあった。子供の教育のための寝物語に親が語る怖い化け物の正体だとも気づかずパンを分け与える不思議な子供。世間知らずの箱入りお坊ちゃんだろうかとも思ったがパンをかっぱらったなどの発言からも何か訳アリ子供なのか…?
「こんなに綺麗な人たちを、住んでた場所を滅ぼしたんだ。きっとアルベルトさんのご家族もお友達もとっても綺麗だったんだろうね。」
前言撤回だ。訳アリどころじゃないし、とんでもない殺し文句を放つ子供だった。
長らくバレては迫害され、武器を向けられ、奴隷になっていた私にはこの言葉は火力が強すぎる。この子供から発される言葉が渇ききっていた私の心を潤していく。あまりも幸福だった。
しかし私はそれと同時に恐ろしくなった。出会ってわずかの時間なのにこの子供に、レイズくんに拒絶されるのが怖くなったのだ。それなのに聞いてしまったのだ。怖くないのかと。拒絶されるのが嫌なくせに聞いてしまう、随分と愚かな真似をした。
聞きたくない。やめて拒絶しないで、怯えないで。自ら聞いたくせに脳がそれを拒否する。完全に頭がおかしくなっていた。聞きたくないのなら耳を塞いだり、またはレイズくんの口を塞ぐだけで十分だったはずなのになぜか、私はレイズくんを押し倒していた。
…そうだ。拒絶されるくらいなら、怯えられるくらいならいっそのこと殺してしまえばいい。そう思いレイズくんの細い首に手をかけた。
なのに
なのに
「どうして今にも泣きそうなの?」
なんなんだこの子は。