もう一人消えた
どうにかはるなんから聞き出せた情報を繋ぎ合わせると、今日の夕方、塾へと向かう姿を最後に、ほのちゃんは消息を絶った。
休日だということもあって、日が落ちたとはいえ最寄り駅前にある塾までの道は人通りが多く、時間になってもほのちゃんが帰ってこないについてはご両親も深く考えていなかったそうだ。
何時もより1時間遅くなったところで、ほのちゃんのお母さんが塾へと電話を入れる。
とっくに帰宅しているはずだという塾の講師の言葉を聞いて、お兄さんが塾までの道のりを自転車で探しに行ったそうだ。
コンビニ、スーパー、公園を探すけれども、ほのちゃんの姿は見当たらない。
ここでほのちゃんのお父さんも帰宅し、車を使って探し始めた。
ほのちゃんのお母さんは、片っ端からほのちゃんの友人に電話を掛けた。
ほのちゃんの帰宅予定時間よりも、2時間が経っていた。
警察に通報したご両親とお兄さんが部屋中を探すと、冷蔵庫のボードに走り書きで、こう書かれていたらしい。
ー出ていきます。探さないで。
「とにかく、これがあの呪いによるものなのならば、西嶋さんはまだ無事です。八方除けの御守りの効果が効いている以上、まだ猶予はあります。」
眠っていた露彦さんは、私の話しに飛び起きてくれた。
ほのちゃんの事を聞くと、露彦さんは直ぐに筆を取って何やら書き付けた。
それを格子の外に留まっていた鳥の足にくくりつけると、鳥は直ぐに闇夜を飛んでいった。
「露彦さん。ほのちゃん、助かりますよね?」
「勿論です。絶対に。」
露彦さんの大きな手が、私の肩に添えられる。
ようやく自分が震えていたことに気が付いた。
それから、眠れないまま私と露彦さんは夜が明けるのを待った。
無事を祈ることしか出来ないもどかしさを感じながら唇を噛み締める私に、露彦さんが作ってくれた柚子茶が温かくて甘くて、今度は涙が出た。
あれから私はうとうととして、完全に目を覚ましたのは日が登り始めた頃だった。
「お目覚めですか、わためさん。」
私は起き上がる。タオルケットがかけてあった。
「いや、わためさんが眠った後、お部屋に運ぼうかとも思ったんですけど・・・。パジャマ姿の生女子高生に触れるのはちょっともう完全アウトかと思い止まりまして!代わりにタオルケットをですね!掛けたんですけども!」
「いやほんと気持ち悪いんで一旦黙ってください。」
がっつり引いた私に、露彦さんは苦笑いで続ける。
「あ、少し、いつものわためさんらしい元気が戻りました?」
てへへと笑う露彦さんに、私はハッとする。
いつもの、神様ジョークか!!!!
・・・・・・昨日の涙が勿体なく感じてきたわ!
って、あ。昨日の!
「露彦さん!ほのちゃんは?!」
飛び付くように聞く。
掴み掛かられた露彦さんは少し眉を寄せると、小さく首を振った。
「まだ、お家に戻られてはいないようです。」
「・・・そう、ですか・・・・。」
ずるずると手を離す。
露彦さんが気遣わしげに私を覗き込んだ。
「まだ、事態は何も善くなってはいませんが、昨夜のうちに寒川様の使役神へ、事の次第を伝えました。使役神は僕から寒川様への伝言とお願いを引き受けてあちらへ戻りましたが、先程その使役神が戻って来たんです。寒川様は結界の強化と、使役神を数体貸し出して下さいました。彼らが、織田さん達を直接護ります。これで、少なくとも残りの皆さんが西崎さんのように失踪することは無くなります。」
「本当ですか!」
良かった。あんざいちゃんに続いてほのちゃんまでもが居なくなった。
これで次々に他のみんなも居なくなってしまったらどうしようと、本当に本当に不安だった。
露彦さんは、あの少ない時間で、そこまで考えてくれたんだ。
「ただ、もう失踪してしまったお二人については、依然何も解らないままです。時間が余り無いかもしれない。わためさん。起きられたのなら、少し、お願い事をしても良いですか?」
おっさんのギャグって、めっちゃ苛っとする瞬間に炸裂することってありますよね。
僕も気を付けようとしみじみ思う今日この頃です。