嘘みたいな空(ショートショート)
嘘か。本当か。
そんなの嘘だ。
嘘か本当かで話ができるならそんなに簡単なことはない。
人の立場によって事実が変わるなら
人の立場によって嘘か本当かも変わっちゃうんじゃないかな。
【嘘みたいな空】
「嘘と本当を混ぜて描くと深みが出るよ。」
美術の先生は私の絵を見てそう言った。
綺麗な絵だが深みがないと、先生に言われ
カッとして
「じゃあどうしたらいいんですか」
と逆上すると居残り授業がはじまり、今に至る。
昔から色んな人が私の絵を褒めてくれた。
綺麗だね。上手だね。よく描けているね。
でもどれも佳作ばかりで大賞は取れなかった。
美術の先生が言うには、ほんものっぽく描けばいいわけではないらしい。
人が惹きつけられるのは嘘みたいな空だ。
嘘みたいに晴れている空。
嘘みたいに雷が暴れる空。
嘘みたいに差した光。
本物の曇り空には惹かれない。
悔しくて先生に毎日指導を受けながら
美術部でもないのに絵を描いた。
そんな様子を羨ましそうに「あの子」がいつものぞいていた。
私はそれを気に求めずに描いて描いて、ある賞に応募した。
2週間ほど経つと結果が届いた。
美術の先生に呼ばれて受け取った知らせには
私が大賞だと記されていた。
大賞が取れた。
「私が」大賞を取った。
でも表彰式の壇上には私の他にあの子がいて
私は不機嫌な顔のおじさんに壇上から降りるよう叱られた。
その日は眠れなかった。
ショックで表彰式の会場で大声で泣き喚いた私は会場外へ放り出され、しばらくして諦めて帰路に着いた。
「私が」大賞だったのに…。
あの子はなんなのだろう。
どうしてあの子が大賞になっているんだろう。
それから毎日毎晩、私は悔しさと訳の分からなさで寮で暴れ泣き喚き続け、
ついには精神科へ無理やり連れて行かれた。
精神科のお医者さんは私の話を頷きながら聞き、素早くタイピングしていった。
様子を見たいから、一度学校を休んで
また来週精神科へ来るようにと言われた。
翌週、精神科へ行くと、お医者さんからお話があった。
お医者さんが言うには、私があの子で
あの子が私らしい。
普通、人は自分の後ろ姿は見えていなくて
自分の視界で動いているらしい。
私はいつからかずっと自分があの子だと思い込み、あの子の背を追って生活していたらしい。
お医者さんは前回私の話を聞いた後、私の学校へ連絡をし、学校での様子や事実の確認を行なったという。
すると休んでいるはずの「私」は登校している上に、寮暮らしではなく実家暮らしだという。
調べていくうちに、精神科へ連れてこられた寮暮らしの女子生徒は「私」ではなく「あの子」
であるということもわかったという。
こんな患者は初めてで大変興味深いが同時にとても心配だから入院することを勧められた。
意味がわからないので拒否したが、
なんだかんだで入院することが決まった。
入院してから、しばらく鏡を見ていないことに気がついた。
鏡に映った自分の顔は思っていたものとは程遠く、醜い顔がのぞいていた。
それからカウンセリングをしたり
鏡を見る練習をして
「私」は「あの子」だったのだと思えるようになった。私は見た目も絵も褒めてもらえたことはなく、見た目も絵も褒めてもらえる「あの子」に憧れ、追い求めているうちにストレスの中で自分がわからなくなったという。
私が思っていた私の人生はすべて「嘘」だった。
私はこれから「本当」を生きてゆかねばならない。
窓の外には嘘みたいな空が広がっていた。
終
最後までお読みいただきありがとうございます。
みなさんの空は本物ですか?