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帰り道

作者: 山葡萄

うぐいすが鳴いたあの日を覚えているかい


まだ春になったばかりの柔らかい日差しが


僕たちの枕元に降り注いでいたね


あの頃はどうしようもなく幸せで


ずっと一緒に微睡んでいると思っていたよ


君はとっても明るくてまっすぐな目をしていたね


きつめに縛った髪が馬のしっぽみたいに跳ねていた


僕はそれを眺めながら朝にコーヒーを飲むんだ


君は私の分も淹れてよと笑って


なんでもなかったように朝ごはんをつくっていたね


今度お花を見に行こうと誘って二人でピクニックに行った


桜の下は白い海で風で散る花びらに僕たちはすっかり溺れていた


帰り道は手をつないで「また来年も来よう」と約束した


僕は今半分だけ冷たいベッドに腰かけている


君がいなくなって何年たった


朝のコーヒーは相変わらずだけど


一緒に飲む相手がいない


気が付いたら冷めているんだ


冷めたコーヒーはまずくて飲めたもんじゃない


ある日、君はしかめ面してそう言った


「酸っぱくてなんか嫌なの」


どうして僕は今になって思い出したのか


君が出ていったあの日


白鳥が空を飛んでいた


冬が来たと騒いでいたのがついこの前


白い息をきらして走っていったね


追いかけたけど届かなかった


君はどこへ行ったんだ


部屋の荷物もそのままに


駆け足で去っていく後ろ姿


「面倒だから髪を切ったの」


短くなった黒い髪をよく覚えている


別れのきっかけは何だったか


僕ははっきり思い出せない


いつも一緒だと信じていたのに


枯れ葉が散った散歩道で


君は一人で泣いていた


「なんでもないのよ」


理由を聞いてもそればかり


僕に話してくれなかったね


二人で拾ったモミジの葉


「しおりにして使おうよ」


そう言う僕に君はなんて言っただろう


困ったように笑うだけだったね


明るい瞳が好きだったのに


すっかり暗くなってしまった


太陽のせいだと思っていたよ


暖かくなったらまた同じになれると


夢ばかり追いかけた僕に疲れて


君は遠くに行ってしまった


「そろそろ現実を見てよ」


花火の音でかき消された君の声


あの夏が少し恨めしい


君の隣で僕は笑っていたのに


僕の隣で君は静かに泣いていた


すれ違っていたことに


どうして今になって気づいたんだ


なんでもない帰り道


君を思い出している





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