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リヴィニア恋歌  作者: ゆえこ
一章・幼年期編
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6.感謝

王子と会ってしまったあの日以降も王子から花束が届けられた。

会わせろ等言われていない。だからわたしは会っていない。

王子はわたしの様子を聞いて花束を渡して帰るらしい。


このまま会わなくていいのかな?


会いたいかと聞かれれば「NO」だが偶然とはいえ一度会っているのに、わざわざ来てくれた王子に何も言われないからと言って会わずに帰していいのだろうか…。いや、ダメだろう…。ダメだろう…けど…。


会いたくない。


とても人前に出れる容姿ではないのだ。

それなのに。

それなのに。



「お前は誰より美しい」



ヒイィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!

ダメ!!思い出しちゃダメ!!


熱を持ち赤くなった頬を両手で抑える。

わたしはあの日以降、あの王子を思い出しては落ち着きをなくしている。


もお!何なの?いったいアレは何なのよぉ!!


わたしはそのまま机に突っ伏した。これが漫画やアニメならきっとプシューっと蒸気を噴き出しているだろう。

ふと目に入った花瓶に目をやると、今日王子から届いた花が目に入った。


よし!


わたしは決意を新たに、机の引き出しを開け、便箋を取り出した。


せめてお礼を書こう。


お気に入りの羽ペンを手に取り










一日中便箋とにらめっこした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そんな精神面とは裏腹に、リハビリは絶好調だった。

王子と会ったあの日、咄嗟にとはいえ歩けた事で何とか足を踏み出せるようになった。一歩踏み出せばまた一歩とつかまり歩きだけど歩けるようになった。

それを見た家族、使用人達は泣いていた。その日はお祭り騒ぎで御馳走が出た。わたしも柔らかく煮たものなら食べれるようになっていたので家族揃って楽しく美味しくいただいた。

こうしてみるとわたしは沢山の人に支えられて生きているんだなって実感する。

アリアーシュ・セラトリアとしての第二の人生だけど、両親も弟も温かく優しいしこの家族の元に生まれ変われて本当に良かった。

多少動けるようにもなったし何か家族に贈りたい。感謝の気持ちを伝えたい。


お菓子でも作ろうかな?アルバートはおやつが大好きだし。


そう思って厨房に向かった。が、当然と言えば当然か…厨房には車椅子で入れない。しかもルリアには「貴族のお嬢様は普通料理は致しません。厨房に足を入れる事もございません」と言われてしまった。それなら行く前に行ってよ!コックのみなさんめっちゃびっくりしてたじゃない!

わたしは本職のコックさんの邪魔をしたいわけじゃない。無理なら無理でそれでいい。

わたしはお菓子作りを諦めた。


う~ん…。他にわたしに何ができるかな?

諦めたのはお菓子作りであって家族へのお礼を諦めた訳ではない。

諦めた訳ではないのだけど、わたしにできる事が思い浮かばなかった。


「ねえルリア、何かいいものはないかしら」

困ったときのルリア頼みだ。

「そうですね、刺繡なんてどうでしょうか?」

刺繍?そういえば淑女の嗜みよね、刺繍!

わたしは刺繍なんてやったことないけどアリアーシュならできるわ!

「さすがルリア、頼りになるわね」

早速わたしは刺繍セットを用意してもらいアリアーシュの知識と経験で刺繍を始めた。


「いたっ!」

もうこれで何度目だろうか…指を刺すのは…。

違う、これはわたしが不器用ではなく、もちろんアリアーシュも不器用ではなく、きっと指先がまだ寝たきりの後遺症で動きにくいだけなんだわ!そうよ、だってわたしはアリアーシュ・セラトリアよ!不器用で刺繍が苦手とかありえない!あり得ないんだから!


「やはり…お嬢様は刺繍が苦手でしたね」

わたしの指に包帯を巻きながらルリアは言った。

ルリア!?その言い草は知ってたわね!?知ってて刺繍を勧めたわね!?

「しかし旦那様も奥様もアルバート坊ちゃまも、お嬢様が苦手な刺繍を頑張って施された知ると大変お喜びになられると思いますよ」

ぬぐぐ、そこで家族を出されると頑張らないわけにはいかない。

「誰も刺繍を止めるなんて言ってないわ。ちゃんと最後まで仕上げてみんなにプレゼントするんだから」

「さすがお嬢様です。しかしもう刺す指がなくなってしまったので今日はここまでに致しましょう」

どうして指を刺す前提で話をするのかしら。

でもまあ仕方ないわね、ルリアがそこまで言うのなら今日のところはここまでにしておきましょう。

刺繍…前途多難だわ。


刺繍はちゃんと最後まで仕上げる。仕上げるけど仕上がるのがいつになるのか分からない。

だから刺繍以外にも何か渡したい。

ほら、いきなりメインディッシュにいくんじゃなく前菜というか軽く一発ジャブを挟みたい。

困ったときは本に聞け。いつだって知識は本のなかにある!

わたしは本を手に取り栞の挟んであった頁を捲った。


そうよ!これよ!これなら!

やはり本は頼りになる!これでわたしのジャブは決まった。

数日は材料集めに費やした。


「ふん♪~ふふふ~ん♪ふん♪ふ~ん♪」

材料が集まりわたしは機嫌よく鼻歌を歌いながら作業を始めた。

「お嬢様、何を作っていらっしゃるのですか?」

「これよ!」

じゃじゃーんと掲げたのは本に挟む栞である。

「栞ですか?」

「そうよ、これなら指を刺すことなく作ることができるもの」

庭師に積んでもらったうちの庭のお花を栞にして家族にプレゼントする。

これがわたしのジャブだ。

そしてこれが上手く作れたら…。


わたしの目線の先には今日も王子から贈られた花束を活けている花瓶がある。


王子にもお詫びに贈ろう…。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



手紙は書いた。

栞も入れた。

これで良し!

わたしは王子が来たら手紙を渡すよう頼んで日課の読書に励んだ。


………


だめだ!集中できない!

王子は今日来るのだろうか?会わないのに手紙は受け取ってもらえるのだろうか?その場でビリビリに破られたらどうしよう…。

そんなことばかり考えて全然読書に集中できない!

こそっと覗きに行く?

だめよ、見つかったらどうするの。

それならいっそ堂々と見に行く?

いやいや、会いたくないからの手紙なのにそれじゃ意味がない。


わたしは見に行きたい衝動を抑え、ベッドにバフンとダイブした。


まだまだ骨と皮のこの体、こんな姿で人前に出たくない。

それに…正直王子に会うのは怖い。

一度優しくされたからって植え付けられた恐怖はそうそう拭えない。

なんと言っても相手はあの傲慢暴虐唯我独尊王子だ。次会った時は以前の用に罵られ、暴力を振るわれるかもしれない。アリアーシュの心も体も、刻み込まれた恐怖で王子のあの冷酷な瞳に射抜かれると竦み上がる。


なのに


コンコンと部屋の扉がノックされ、ルリアが入ってくる。

「お嬢様、ヴィクトル王子殿下にお手紙をお受け取りいただけました。」

「そう」

良かったとも嬉しいとも言葉にしなかったが内心ガッツポーズである。

王子に拒否されなかった。ただそれだけでとても嬉しく思うのだった。




その翌日、王子から花束と手紙が届いた。

王子の手紙にはこのような事が書かれてあった。


親愛なるアリアーシュへ


手紙と栞をありがとう。アリアーシュが息災で何よりだ。

俺は最近また魔力量が増え、制御に苦戦している。今はラッセル・ユルギオスという前魔法師団団長だったやつに制御の仕方を教わっている。このじじいがめちゃくちゃ強いんだ、別に俺は負けてないけど。負けてないけど完璧に魔力制御できるようになって絶対勝つ。俺はヴィクトル・ペルダナグだ、自分の魔力くらい余裕で制御してラッセルのじいさんにも勝ってみせる。

アリアーシュはどんな本が好きなんだ?今どんな本を読んでるんだ?面白い本があれば教えてくれ、アリアーシュが面白いと思ったものを俺も読んでみたい。その時にアリアーシュが贈ってくれた栞を使おうと思う。栞、大切にする。ありがとう。


ヴィクトル・ペルダナグより



ラッセル・ユルギオスですって!?先の大戦時一人で敵の戦力の3分の1を削ったと言われる大魔法使いでその活躍は文献となりわたしも読んだ。そんな方が存在されていた!そんな偉大な魔法使いに教わることができるなんてさすが王子だわ。それにラッセル様をじじいって…そりゃ終戦から数十年経っているしおじいちゃんかもしれないけれど。いいな、王子は。わたしもお会いして文献に書かれている事いない事色々お聞きしたいわ。うちの本にサインもらえないかしら。


そういえばアリアーシュの記憶では、王子はアリアーシュといる時、近況や自分の事など話した事がなかったわね。まあ、そもそも会話がなかったわけだが…。

アリアーシュもわたしも王子の事を知っているようで何も知らなかった。

魔力制御が苦手だったとか、負けを認めない負けず嫌いなところがあるとか、たったこれだけの手紙で知らなかった王子を知ることができた。

そして王子もわたしの事を知ろうとしてくれている?どういう心境の変化か知らないけれど、これって歩み寄ろうとしてくれているのかな?

王子は毎日来てくれるのにわたしに無理に会おうとせず会いたくないと言うわたしに合わせてくれている。手紙にも顔を見せろとは一言も書かれていない。

王子の事はまだ怖いけど、王子がわたしと向き合おうとしてくれているのなら、わたしも王子と向き合わなきゃいけない。

顔を合わせれば委縮して何も話せないけど手紙なら思っている事を伝えられそうな気がした。


よし!王子に返事を書こう。

意を決し羽ペンを持った。今度はスラスラと返事が書けた。




すぐに途絶えると思っていた王子と手紙のやり取りは最早文通と言って良い程続いている。

あの王子が筆まめだったなんて知らなかった。新たな発見である。


手紙の王子は言葉悪く罵ったりしないし、それどころかわたしの薦めた本を読んでいるらしく感想を言い合っている。


………仲良しか!?


これ、本当に王子が書いているのか?代筆で誰か書いているんじゃないか?と疑うほど手紙の王子は穏やかだった。

近況報告と本の感想。ただそれだけの事が楽しかった。


誰にも会いたくないと言って人と会うことを拒絶したのはわたしなのに、王子との手紙のやり取りが楽しくて、だから…。

だから、王子と会って話し合えたらもっと楽しいんじゃないかと思い始めていた。

お読みいただきありがとうございます♡♡♡


面白いと思っていただけたり、続きが気になったり、お気に召されましたらブックマークや☆にて評価いただけますと幸いです。

大変励みになります(`・ω・´)ゞ

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