表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴィニア恋歌  作者: ゆえこ
一章・幼年期編
6/36

5.後悔~sideヴィクトル・ペルダナグ~

会うつもりはなかった。

今日もいつも出迎えてくれるあの執事に花を渡して帰るつもりだった。


見舞いに行く。この行為自体ヴィクトル・ペルダナグらしくない行動だ。

だが今まで作ってきたヴィクトル・ペルダナグを壊してでも、俺はアリアーシュとの繋がりを切る事ができなかった。


俺は王位継承権第一位を持つ。故に色んな奴らが顔色を伺いながらすり寄り、また他の派閥の奴らは俺を蹴落とそうとする、時には殺されそうになった。


実に煩わしい。

だから俺は誰も近寄りたがらない振る舞いをするようになった。

すると効果は覿面で、必要最低限しか関わってこなくなった。

安心したのも束の間。婚約者という実に面倒臭い問題が出てきた。

正直どうでもいい。

どうせ国が決めた相手と結婚するのだ。誰が来ても一緒だ。

適当に相手をして終わらせよう。そう思って顔合わせの場に赴いた。

そして出会った。アリアーシュ・セラトリアと。

凛とした佇まい、意志の強い瞳、今まで出会った誰よりも高貴で美しい。

心を奪われるとはこういう事を言うのか?

自分のモノにしたい。

望めば何でも手に入る俺が、初めて心から望んだ。


アリアーシュは優秀だった。王妃教育を施す者は皆、アリアーシュに賞賛を贈った。

そう、アリアーシュは優秀だった。公爵令嬢として非の打ちどころがなく、どんな時も笑顔を絶やさない。

作り物の笑顔を張り付け、心にもないおべっかを使う。まるで俺に取り入ろうと群がってきたあの気色の悪い大人と同じだった。


だから、だったら俺の取る行動は一つだ。

今度は俺から離れる為じゃなく、あいつの気持ち悪い仮面を剥いでやる為に動く。


ああ、アリアーシュは優秀だ。

俺はアリアーシュの本心が知りたかったし、作り物じゃない笑顔が見たかった。だけど俺がどんなに罵倒しようが、嫌がらせをしようが“俺の前”では仮面を剝がすことはなかった。

なあ、アリアーシュ。俺が何も知らないと思ったか?俺が何も気付いてないと思ったか?


いつしかアリアーシュは『申し訳ございません』としか言わなくなった。

そんな時だった。茶会を開いてアリアーシュを招待しろと言われたのは。


俺はアリアーシュの為に父上に頼んでロイヤルガーデンを開放してもらった。

俺はアリアーシュの為に最高級の茶葉を用意した。

俺はアリアーシュの為に高級な菓子、流行りの菓子を用意した。

俺はアリアーシュの為に最高峰の楽団を招いた。

全部全部全部全部アリアーシュの為に。


その日もアリアーシュは美しかった。もちろん鮮明に覚えている。

鮮やかなラピスラズリの髪をハーフアップにし、純白のレースのリボンで結わえていた。

ドレスは裾に向かって濃くなっていくエメラルドグリーンのAラインドレスでアリアーシュによく似合っていた。


この宝石は俺だけのモノだ。


なあ、アリアーシュ。いい加減その気持ち悪い仮面を剥がせよ。

怒れよ、泣けよ、みっともなく喚けよ。

俺の前で裸のお前を曝け出せ。


◇◇◇◇◇


何…が…起…こった…?


俺がアリアーシュに菓子を食わせた後、アリアーシュは異常な程藻掻き苦しみだした。

そしてピクリとも動かなくなった。


アリアーシュ?

いつまで演技をしているつもりだ?

もう十分騙されてやったから目を開けろ。

今なら笑ってゆるしてやるから目を開けろ。


「アリアーシュ!!」


抱き抱えたアリアーシュの体から体温が消えていく。

幸い、ここは王宮。王城には有事の際に備え医師が常駐されていた。

すぐに駆け付けた医師の到着がずいぶん長く感じた。

医師は二人がヒールをかけ、一人が症状から毒を識別し、その場で解毒剤を調合していく。


解毒が間に合い、アリアーシュはなんとか一命を取り止めた。

だが顔色は蒼白いままだ。何より…。


何より、あの美しく鮮やかなラピスラズリの髪は見る影もなく白く脱色していた。


どこで間違えた?何を間違えた?

こんなはずではなかった。

こんなはずではなかった。

こんなはずではなかった。

こんなはずではなかった。

こんなはずではなかった。


こんなはずではなかったはずだ。俺はこんな形でアリアーシュを奪いたかった訳じゃない。

こんなはずでは…。


一命を取り止めたアリアーシュは容態が安定するまで王宮で療養することになった。しかしアリアーシュは目覚めることはなかった。

容態が変わることがないのでセラトリア公爵がアリアーシュを連れて帰ると言ってアリアーシュを連れて帰った。セラトリア公爵は何が起こったか知っているだろうに、俺を責めることはなかった。いや、できなかったのだろう。俺が…王子だから。


あの日、アリアーシュに食わせた菓子は俺の皿に載っていた。

つまり犯人が殺したかったのは俺で死んでいたのは俺だったかもしれない。

公には俺が食わせたわけでなく、アリアーシュの食べた菓子に毒が含まれていたことになっている。

俺は絶対犯人を見つける。絶対許さない。

俺からアリアーシュを奪おうとするやつは神だって殺してやる。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




アリアーシュが目を覚ましたと教えてくれたのはセラトリア公爵だった。そして、約一年も眠り続けたアリアーシュは衰弱し体を動かすことができず、食事も摂れないと聞かされた。

それでも俺はアリアーシュが目を覚ました事に安堵した。


アリアーシュがセラトリア家に戻ってから見舞いに行こうとしたが、まだ目覚めていないと断られ続けていた。会わせたくないのだと俺にだって察することができる。

だからアリアーシュが眠っている間は我慢した。だけど目を覚ましたのなら話は別だ。

アリアーシュなら俺が見舞いに行けば必ず会ってくれる。

そう思って見舞いに行った。


俺が初めて見舞いに行った日、セラトリア公爵を筆頭に大勢に出迎えられた。中に敵意剝き出しのガキがいたがあれがアリアーシュの弟だったのか。


「アリアーシュは『会いたくない』そうです」


アリアーシュが会うと言わなければ俺が王子でも会わせることができないと言われた。

そして俺が来たことを伝えに行ったメイドが公爵にアリアーシュの返答を伝え、俺に帰ってきた答えだ。


俺はアリアーシュに拒まれた。

こんなのは初めてだった。

アリアーシュはいつだってなんだって笑いながら俺を受け入れた。今まで受け入れ難い事だって受け入れてきたのに、高々会うという要求が拒否された。

会わせろ、と無理を通す事も考えた。

だけど、俺に会いたくないと言うアリアーシュに会ってどうする?またアリアーシュを苦しめるだけではないか?


脳裏に浮かぶのはあの日のもがき苦しむ姿や、蒼白い顔で眠り続けるアリアーシュだ。


俺は持ってきた花束を公爵に渡し、公爵家を後にした。


それから毎日セラトリア邸に足を運んだ。どうしたら会えるのか分からず、ただ通う事しかできなかった。

しかし一年経ってもアリアーシュに会うことは叶わなかった。

それでも俺は、諦めることができなかった。


◇◇◇◇◇


その日も公爵邸に向かっていた。門を開けてもらい、邸まで馬車を進める。

邸まで少しというところで、馬車の窓から空に舞う帽子が見えた。

「止めてくれ」

いつもならそんな物には気を止めず、前に進んでいただろう。

しかしなぜだろう、こちらに行けと呼ばれたような気がした。

俺は馬車を降り、声に従い庭に足を踏み入れた。


手入れの届いた美しい庭。キラキラ輝く噴水の傍のガゼボにそれは居た。

まるで妖精の如く可憐で美しいその姿。見間違えるはずもない。


「アリアーシュ?」


うたた寝をしていたのだろうか?ゆっくりと翡翠色の瞳が露になる。

まだ覚醒しきれておらず、ぽやっとした表情も可愛い。


しかしその翡翠色の瞳が次第に驚愕に見開かれる。


「ヴィクトル殿下?」


声が震えていた。喜びではなく恐怖で。

アリアーシュは俺を恐れている。そんなのは一目瞭然である。

恐怖で震える体を落ち着けようと、ギュッと手を握り、白い手を更に白くさせていた。


「すまない、会うつもりはなかった」

だけど会いたかった。


「これを執事に渡したらすぐ帰る予定だった」

こんなに震えて…。

そこまで俺の事を怖がっていたんだな。そりゃあ会いたくないよな。


俺はアリアーシュの膝に花束を置くと、すぐに立ち去った。

俺を引き止めるアリアーシュの声が聞こえたが、立ち止まれば帰れなくなる。

しかし小さな悲鳴が聞こえ、振り返るとアリアーシュが転ぶところだった。

俺は咄嗟に身体強化と風魔法でアリアーシュの元に駆け、抱き止めた。

因みに、俺は細かい魔力操作が苦手なのでアリアーシュに向けるより自分に使った方がアリアーシュには安全なのでこの方法を取った。


抱き止めたアリアーシュの体は小さく細く軽かった。

以前のアリアーシュを抱きしめた事などなかったが、ここまで細く軽くなかったはずだ。


俺を下敷きにしている事に気付いたアリアーシュは、慌てて俺の上から退けようとした。

退けようとしたのか?アリアーシュは転がった。

文字通り転がった。

コロンと。


「…何をしているんだ?」

そう尋ねると、アリアーシュは真っ赤になり可愛い顔を両手で隠してしまった。

体に力が入らない。自分で立つことができない。アリアーシュはそう言ったがその細い体を見れば納得である。

だが俺に怯え動揺し慌てていたとはいえ転がるか?

コロンて…コロンて…コロンて…

もうホント何?この可愛い生き物。持って帰っていいかな?


一応笑うのを堪えていたつもりが笑っていたらしい。

ふとアリアーシュを見ると、アリアーシュも俺を見ていたようで、美しいエメラルドと目が合った。


ああ、もう何なんだよ。目が合っただけなのに心臓が苦しい。


自力で起き上がれないアリアーシュを車椅子まで運ぶため、抱き上げるとアリアーシュに目隠しをされた。

「こんなに醜いわたくしを誰にも見られたくないのです」

そう言ったアリアーシュの声がワントーン落ちる。

よし、殺そう。今すぐ殺そう。アリアーシュを醜いと言ったやつを一人残らず全員殺そう。

そう一瞬殺気立ったがアリアーシュの思い込みのようで殺気は引っ込めた。


俺はアリアーシュ程気高く美しくそれでいて可愛らしい存在を知らない。

だが今はアリアーシュが見られたくないと言うならばそうしてやるしかない。


抱き上げたアリアーシュは震えていなかった。

ヴィクトル主体でお話が進みましたがいかがでしたでしょうか?


面白いと思っていただけたり、続きが気になったり、お気に召されましたらブックマークや☆にて評価いただけますと幸いです。

大変励みになります(∩´∀`)∩

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ