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リヴィニア恋歌  作者: ゆえこ
一章・幼年期編
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4.接触

あ…。

ああ…。


助けて!!

誰か助けて!!


ルリア!!早く戻ってきて!!


なんで王子がここにいるの?今日は王子の訪問がある日だったの?聞いてない、そんなの聞いてない!!


拒否反応、拒絶反応…。


体が恐怖で震える。

あの日、何があったか、何をされたか、心と体が記憶している。忘れる事なんてできない。


「すまない、会うつもりはなかった」


????????????????

ナニ?イッテルノ?ナンテイッタノ?


すまない?すまないですって!?

王子が…あの王子が謝った???

どういうこと?


驚きのあまり震えが止まった。


と、いうか王子…会うつもりはなかったって言ったのにどうして近付いて来るんですか?


再び体が震え始めた。

「これを執事に渡したら、すぐに帰る予定だった」

そう言って王子はわたしの膝の上に花束を置くと、踵を返して行ってしまった。


「おっ、お待ちください!!殿下!!」

王子がわたしに渡した花束はとても見慣れたものだった。

毎日毎日送られるので、送られた花の種類は覚えてしまった。


そう、お父様が贈って下さっていると聞かされていた花束は、王子が持ってきた花束と同じだった。


しかし王子はわたしの言葉に耳を貸さず去っていく。


「殿下!!お待ちください!!」

わたしは車椅子から立ち上がり、王子を追いかけようと一歩前に踏み出した、

無我夢中だった。一歩、一歩、足を前に踏み出す。

しかし…。


「きゃっ!?」

いきなりそう上手く歩けるはずもなく、転倒してしまう。


「…い…いた…くない?」

わたしは誰かに抱き止められていて地面に転がることはなかった。

誰かなんて、ここに居るのは彼しかいないのに分かりきっている。

サーっと血の気が引いた。

「も、申し訳ございません殿下!!今すぐ退けますので!!」

わたしは王子を下敷きにしていた。


殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される

殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される

殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される


早くどかなきゃ殺されるし、どいたらどいたで殺されるし、どっちにしろ殺される。

しかしわたしがこの体制から自力で起き上がるなんて無理な話で。

それなら…。


わたしはコロンと転がった。

文字通り転がった。

転がって王子の上から退いた。


「…何をしているんだ?」

呆れを含んだ目で王子に見られる。

ですよね。さすがにあまりの恥ずかしさに両手で顔を隠した。

「申し訳ございません、殿下から退けようとしたのですがわたくし、まだ体に力が入らず自力で起き上がる事ができないので、…転がりました」


………


……



あれ?何も言われない?


わたしは顔を覆っていた手を下ろし王子を見た。王子は肩を揺らし声を殺して笑っていた。

そしてひとしきり笑った王子とパチッと目が合った。王子もわたしが見ていると思わなかったのだろう、気まずげに顔をそらした。

「ん゛ん゛っ、自力で立てないって事は自力で車椅子まで戻れないんだな?」

「え?あ、はい…」


王子は起き上がると、ひょいっと軽々わたしを抱き上げた。

抱き上げた?

………


抱き上げたああああああああああああ!?!?!?!?!?


これは所謂お姫様抱っこと言うやつでは?

ちょちょちょちょちょちょちょちょちょちょっと待って!!

待って!!もう本当にキャパオーバーなんですけどぉぉぉぉぉぉ!!


「さっきも思ったけど軽いな」


!?


わたしったら!!

わたしは思わず王子の目を手で隠した。

「おわっ!?っぶねえ、急に何するんだよ!?」

「申し訳ございません、すみません、ごめんなさい!!!!!!!

その…見られたくなかったものですから…」

「はあ?とにかく車椅子まで運ぶから手を退けろ」

「………」

「手を退けろ」

「………」

「アリアーシュ」


ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい

殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される

殺されるくらいなら見られた方がましか…。


「あの…できれば見ないでください」

「何を?」

「わたくしを…です」

「はあ?どうしてだ?」

「っ…こんな醜いわたくしを誰にも見られたくないのです」

「誰かに醜いと言われたか?」

「言われなくても自分が一番よく分かっております。こんな姿…」


前のアリアーシュならまだいい。っていうか見せびらかしたいくらいに可愛いし綺麗だし一言で言うなら高嶺の花だ。

だけど今のわたしは薄く肉が付き始めた骸骨だ。醜い、不気味、気持ち悪い。

誰にも見られたくないし見せたくない。そう思って当然でしょ?


しかし王子の言うことを聞かなければ殺される。

わたしは諦めて王子の顔から手を退けた。


ハァ、と頭の上で溜息が漏れる音が聞こえた。すると、ひょい、と王子に縦抱きにされた。

わたしの胸のあたりに王子の顔があるので確かにこれでわたしの顔を見られることはない。

見られることはないんだけど、ないんだけど…


いったい何が起こっているのか?いや、果たしてこれは現実か?わたしはまだ夢の中にいるんじゃないか?

イミガワカラナイ


王子が…わたしのお願いを聞いてくれた?

ああ、明日世界が滅びるんだな…

そう現実逃避してしまうほど、今日の王子の行動には驚かされてばかりだ。


王子はわたしを車椅子に降ろすと後ろを向いた。

わたしが見られたくないと言ったからか?

そう言えば王子にこの姿を見られたら罵倒されると思っていたけれど

なんていうかその真逆で…


優しい?


「アリアーシュ」

「は、はい!」

「今日は本当にすまなかった。お前は俺を許さなくていいし本当に会うつもりはなかったんだ」

「殿下…」

「でも、お前の元気そうな姿が見れてよかった


お前は…












誰より美しい」


は?


え?


脳が考える事を放棄した。

だって意味が分からない。本当に意味が分からない。


誰が何ですって?わたしは何を言われたの?

根本、あなた誰ですか?

わたしの知るヴィクトル・ペルダナグと1mmも被らないのですが…。

あなた誰ですか?


「アリア姉さま!!」


わたしが王子の言葉に困惑していると帽子を持ったアルバートが戻って来た。

アルバートはわたしを守るようにわたしと王子の間に入った。

「どうしてヴィクトル殿下がここにいらっしゃるのですか?また姉を殺しに来たのですか?」

アルバートは今まで聞いたこともない冷たい声色で言った。


ちょちょちょアルくん!?それはダメ!

「申し訳ございません殿下!弟の非礼をお詫び申し上げます!どうかお許しを…」


どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう

アルバートがわたしのせいで殺されちゃう!どうにかして、何とかしてアルバートを守らなきゃ!

でもどうやって?どうやって守ればいいの!?


いい案なんて思い浮かばず、わたしはアルバートの手を握りしめた。


「俺は後ろを向いていて誰が言ったのか分からない。分からないことは裁くことができない。」

王子はそう言うとわたし達の前から去っていった。


た…助かった。

ホッとして力が抜けて倒れそうになったところをアルバートに抱き止められた。

「大丈夫ですか!?姉さま。あいつに何か酷いことをされませんでしたか?お怪我はありませんか?」

さっきの声は聞き間違いだったのだろうか?いつものアルバートに戻っている。

「大丈夫よ、ちょっと力が抜けただけ。でもダメよアルくん、ヴィクトル殿下は偉い人なの、偉い人にはあんなこと言っちゃいけません」

「偉い人でも姉さまを虐める人は悪い人です!僕は姉さまを虐める人は嫌いです」

ううっアルバート、なんて優しいいい子なの。

「ありがとう、アルくん。でもね殿下には逆らっちゃいけないの、殿下に逆らってアルくんが捕まったり傷付けられたりしたら姉さまは悲しいわ」

「ごめんなさい」

「うん、アルくんはちゃんとごめんなさいが言えて偉いわね」

わたしは素直でいい子のアルバートの頭をいい子いい子するように撫でた。アルバートは少し照れたように俯いたがそれはそれでまた可愛い。

とりあえず何事もなくて良かったわ。

「少し疲れたしお部屋に戻ってお茶を飲みなおしましょうか」

わたしはアルバートに車椅子を押してもらい、部屋に戻ってアルバートと楽しく過ごした。



わたしはその日、お父様に王子が見舞いに来たことを報告した。


お父様の話によると、初めて王子が見舞いに来てくれたあの日、王子はわたしが「会いたくない」と言ったことを知ると、捨ててもいいから、と見舞いに持ってきていた花束をお父様に渡すと帰って行ったらしい。

お父様も王子の事だから有無を言わさず乗り込んでくると思っていたから拍子抜けしたみたい。


ちなみにその日、王子が持ってきてくれた花束は、わたしに渡ることはなかった。

お父様がわたしが王子を連想させるものを目に入れさせない為に処分してしまったとの事。

しかし、王子は毎日見舞いに来た。

わたしに会わせろと言うこともなく、執事に花束を渡しては帰って行った。

さすがのお父様もわたしの為に足繁く通う王子と、毎日捨てられる花束に罪悪感を感じ、花束は王子から贈られた事はわたしに伏せ、届けられた。


「そう…だったのですか…」

いったいどういう事だろう?

アリアーシュが持っている記憶の王子はどれもあのお茶会の時のような、傲慢、唯我独尊、暴虐な態度だった。

わたしの事なんて、ううん、わたしだけじゃない、王子は周りにいる人全員煩わしく思っている様な、自分の傍から遠ざけようとしている様な、そんな風にも見て取れた。

だからお茶会での王子のアリアーシュへの仕打ちは通常運転のようなものだ。

それが死の淵から戻ってみれば、王子は知らない人、まるで別人のようになっていた訳で…。


本当に訳が分からない。

お父様もわたしが王子に何もされなかったかとても心配していた。

もちろん何もされなかった、花束を貰っただけだと言っておいた。

「では、殿下が見舞いに来られたらお会いするかい?」

そりゃそうだ、わざわざ毎日花束を持って面会に来てくれていた王子を会いたくないの一言で面会を断り続けていたのだ。

しかし、アクシデントとは言え王子に会ってしまった。もう面会を断るのは無理だろうなあ。

それでもやっぱり会いたくない。今の醜いわたしを誰にも見られたくない。

「殿下に会いたくないのかい?」

なかなか答えを出さないわたしをお父様は察してくれた。わたしは頷くことでしか答えることができなかった。

「そうか、分かった。リチャード、殿下が来られても引き続きアリアーシュに会わせられぬと伝えてくれ」

お父様付きの執事でこの邸を取り締まっている執事長のリチャードが仰々しく礼をした。

「話は以上だ。今日は疲れただろう、ゆっくり休みなさい」

「はい、お父様。お休みなさい」


わたしは部屋に戻りるとルリアに寝支度を整えてもらい、ベッドに入るとお父様の言う通り疲れていたのだろう、すぐに深い眠りについた。


お読みいただきありがとうございます♡♡♡


面白いと思っていただけたり、続きが気になったり、お気に召されましたらブックマークや☆にて評価いただけますと幸いです。

大変励みになります(≧▽≦)

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