30.甘く蕩けて
「ふわあ~~~~~極楽♪極楽♪」
王子に抱えられたまま晩餐会場を後にしたわたしは馬車に乗せられ王宮へ帰ってきた。
「アリアーシュお疲れ様。今日はゆっくり休んで」
そう言うと王子は出迎えのメイド達に指示を出し、わたしはお風呂まで連行されてしまった。
普段は自分でできると言って一人でお風呂に入り入浴後にマッサージを受けているのだが今日は有無を言わさずあれよあれよと言う間にひん剥かれ、頭からつま先まで洗われ、浴槽にインしてからヘッドスパを受けている。手際の良さはさすが王宮勤めのメイド達である、あまりの気持ちよさにこのまま眠ってしまいそうだ。
今日は色々あったからなあ…。王子のお披露目会と晩餐会というだけでもハードスケジュールなのにアリアーシュの婚約解消騒動に聖教教会の魔石事件。
それに、それから。
王子はわたしはアリアーシュじゃないと言ってもわたしを好きだと言ってくれて…
ひっ…
ひやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
ちよ、ちよ、ちよ、ちよ…
ちょっと待って!!!!ちょっと待って!!!!落ち着いてわたし!!これが落ち着いてられる?落ち着けるはずないじゃない!!
わたし!王子に!告白!された!?
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!色々ありすぎて普通に晩餐会に出席したけど…多少普通じゃなかったけど…
どうしよう…どうしよう…どうしよう…どうしよう…
これから王子にどんな顔をして会えばいいのかわからない。わからない、だけど王子に会いたくないわけじゃない。むしろ王子に会いたい。さっきまで王子と一緒にいたのに、もう王子に会いたくなってる。
王子は何してるかな?もう寝ちゃったかな?
……………………。
はっ!!こうしちゃいられない!!
「あのっ!お願いがあるのですが…」
わたしはお世話してくれているメイドに頼みごとをひとつした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
コンコン
「ど…どうぞ」
「失礼します」
少し緊張したような王子の声に促されて扉を開けた。
サプライズで失敗したので今度は事前に王子の部屋に伺う事をメイドに伝えてもらった。
まだ寝てなくてよかった。
「こんな時間にどうしたの?」
「お誕生日おめでとうございます、殿下」
「…これは…」
そう言ってわたしは王子の前に少し小さめのバースデーケーキを差し出した。
本当はサプライズで渡すために用意してたんだけどね…。
「殿下のお誕生日をお祝いしたくて今朝作ったんです。受け取ってもらえますか?」
「これを俺に?」
「はい」
…王子に顔を背けられてしまった。
王子、ケーキ嫌いだったのかな…。バングルを砕かれたトラウマか王子がケーキを捨てるところしか想像できない。
わたしのバカ!贈る前にちゃんと調べておきなさいよ!!
「申し訳ございません!捨ててきます」
「違う!待って!それは俺のだろ?」
えーっと…どう言う事だろう?
「ありがとう、アリアーシュ。めちゃくちゃ嬉しい」
よ…よかったぁ。捨てられるんじゃないかとヒヤヒヤしたけど喜んでもらえたみたい。
「こっちへおいで、一緒に食べよう」
王子に誘われるまま側に行くとひょいと抱えられそのままソファーに着席された。今日はお馴染みの格好、横抱き座りである。
一緒に食べるんですよね?これじゃあわたし食べづらいのですが…。
王子はケーキを一口掬うとわたしの口元まで運んだ。もう何をしたいかわかる。
「はい、アリアーシュ」
うん、とってもいい笑顔ね、王子。すごくご機嫌さんだわ。
でもだめ。その一口はわたしが食べるものじゃない。
わたしは王子からフォークを奪うと、今度は反対にわたしが王子の口元にケーキを運んだ。
「殿下のお誕生日なのにわたしが食べさせていただいてどうするんですか?殿下が食べて下さい」
わたしにフォークを奪われて驚いた王子の顔がみるみる赤く染まる。
「はい、殿下、あーん」
「…っ」
戸惑いながら口を開き、王子がケーキを食べてくれた。
か、かわいいいいいい!!照れながらもぐもぐしている王子がめちゃくちゃ可愛いんですけど!?
「お味はどうですか?」
「美味い」
照れて素っ気ない返事も可愛い。
「では、もう一口どうぞ」
差し出したケーキをフォークを持つわたしの手を取って自ら口に運び、そのままフォークを奪われてしまった。
「二人で食べたいからアリアーシュも食べて」
まだ気恥ずかしさが抜けず赤い顔のままの王子はわたしから奪ったフォークでケーキを掬い、わたしの口元に運んだ。
残念。もう少し可愛い王子を眺めていたかったなあ。
先に照れた王子を見たせいか、多少恥ずかしさはあるものの落ち着いて口元に運ばれたケーキを食べることができた。うん、我ながら美味しくできたんじゃない?
「殿下は苺はお好きですか?」
「ああ、嫌いではないけど…」
お行儀が悪いけど王子にフォークを奪われてしまったので手で苺を摘み王子の口元に持っていく。
「はい、どうぞ♡」
王子は口を開き苺を…ってひえっ!わたしの指ごと食べられてしまった。
王子の口がちゅっと指に吸い付き、口から指を離す間際ぺろりと舐められた。
わたしの顔は爆発でもしたんじゃないかと思うほど一瞬で熱を持ち、思考回路はショートし考える事を止め、動揺が度を越して体がピクリとも動かなくなった。
「アリアーシュ?」
「!?」
王子に声をかけられ現実に戻って来たけれどこれあかんやつーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
アウト!!アウト!!余裕でアウトーーーーーーーーーー!!!!!!!
逃げ出したいのに王子に抱かれているせいで逃げ場はなく、王子の胸に縋りついて顔を隠す事しかできない。
「あのね、アリアーシュ。俺だって男なんだよ。好きな子にあんなことされたら我慢できなくなるし…止まらなくなる」
王子に胸から顔を剥がされ上を向かされると赤い顔の王子と目が合った。
照れるでも恥ずかしいでもなくこの顔は…
王子の顔が近づき唇が触れた。わたしの手は王子に指を絡められ囚われてしまった。
息ができず絡められた手に力を入れると王子の唇が離れた。
空気を求める様に肩で息をするわたしに今度はちゅっ、ちゅと何度も短いキスを降らせた。
頭がぼーっとする。何も考えられなくて、ただ王子が与えてくれるキスが気持ちいい。
無意識に口を開き王子の舌を迎え入れる。よくできましたと褒める様に王子の舌がわたしの上顎を撫でる。
その後もくちゅくちゅと舌を絡められ頭の中が気持ちいいでいっぱいになってわたしは…。
「?アリアーシュ…?」
心も思考もオーバーヒートして意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
…眠い。まだ頭がぼーっとする。
一応目を覚ましたもののまだメイドが起こしに来ないので二度寝することを決め寝がえりを打った。
寝返りを打った先で壁にぶち当たった。壁?ベッドって壁に付けられていたっけ?
「ん~~~?」
目を瞑ったままペタペタと手探りで壁を押すもびくともしない。
するとクスクスと上から笑い声が降ってきた。
「ん?」
重い瞼を開け上を見る。
「おはよう、アリアーシュ」
「はれ?でんか?」
…………………………
………………………
……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
「でででででで殿下ぁ!?」
がばっと飛び起き反射的に王子から距離を取る。眠っていた脳が一気に活性化する。
え!?何で!?わたし何で王子と…。
それにここ…ここってわたしの部屋…じゃない!!
「面白いけど落ち着いて、アリアーシュ。それだけ動けたら体は大丈夫そうだね」
「かかかかかか…体ぁ!?」
確か昨日王子とケーキを食べて…食べて…
王子にキスをされた事は覚えている。触れた唇の硬さも、間近で感じた吐息も。余りに甘く官能的でとろとろに蕩けさせられて…だけどその後の事は覚えていない。
体…体って…
一体何をしたのわたしぃぃぃぃぃ!?
「あ…あの…殿下?」
笑い声が聞こえ王子の方を見ると、王子は肩を震わせ笑いを堪えていた。
やられた…。
「もう!!朝からからかわないでください!!」
「ごめん、ごめん。アリアーシュが可愛過ぎるからつい」
「ついでからかわないでください!!」
これはもう完璧に王子に遊ばれている。
「ごめんアリアーシュ。機嫌治して?」
王子はわたしの体を後ろからぎゅっと抱きしめ甘えてくる。
「そうだ、今日は街に行こう。アリアーシュの気になる店を回ってカフェで美味しいご飯を食べて夜は劇場に行こう」
わたしは王子に甘い。自覚はある。なので王子から魅力的な提案をされる前にぎゅっとされて謝罪された時点でとっくに許していた。みなまで言わなくても分かってる。ええ、そうよ、わたしちょろい…。
もうこれは惚れた弱みだから仕方ない。からかわれたくらいならすぐに許してしまう。
「きちんとエスコートして下さいね、殿下」
「もちろん。誠心誠意エスコートします、我が姫」
急に王子とのデートが決まった為、メイド達のやる気と気合がぐんと上がった。
クローゼットを全開にし、まるで舞踏会に行くようなゴージャスなドレスを引っ張り出してくるメイドを制し、大きな宝石の付いたアクセサリーをジャラジャラ付けようとするメイドを制し、首がもげそうな盛に盛られた帽子を被せようとするメイドを制し、気合の入りまくった髪型にしようとするメイドを制し、こってこての化粧を施そうとするメイドを制し、歩きにくそうな高いピンヒールの靴を履かせようとするメイドを制し、わたしの部屋はわたしとメイド達の戦場となった。
まあ、メイド達に力が入るのも無理はない。王子とスラム街に向かったのはノーカンだから実質これが初デートになる。
王子が婚約者と初デート。王子の婚約者として恥じない様に仕立てる為、メイド達も気合が入るわね。空回りしてたけど…。
そんなこんなで、お出かけコーデが整い、いざ、王子と初デート!!
王子が用意してくれた馬車はわたし専用に作ってくれていたらしく本日初お披露目、まさしく新車である。馬車の中は広く、ソファもふかふかでさぞ座り心地がいいんでしょうね?ええ、そうです。わたしはこの座り心地がよさそうなソファの座り心地を知りません。なぜなら…
こんなにも広い、二人くらい余裕で座れる車内なのになぜかわたしは王子に抱かれていた。
「アリアーシュ今日の装いも可愛いね、俺の事を考えながら用意してくれたの?だったら嬉しいな」
うひぃいいいいいいい!!みみみみみみ…耳元で囁かないでえええええ!!
もう、何?何なの?昨日から王子の甘さが糖度MAXの天井を突破して止まる事を知らず上がり続けてるんだけど!?
急に近づきすぎた距離にどうしていいのか分からない。そりゃあ…そりゃあ、わたしだって王子が好きだしわたしの事を好きだって言ってくれたことは嬉しい。大好きな王子とくっついていられるのも嬉しい。だけど前世アラサー、歴代彼氏人数1人の恋愛偏差値ド底辺の恋愛雑魚のわたしには王子のアプローチを余裕の笑顔で受け入れるキャパがないの!!
「俺の為に着飾ってくれたアリアーシュを他の誰にも見せたくない、このまま俺の腕の中に閉じ込めておきたい」
も、もう無理いいいいいいいいいいいいいいい!!アリアーシュのHPはもうゼロよ!
このままではわたしがダメにされてしまう。密室で二人きりはダメだ。なんとか適度な距離を取りたい、だけどがっちりホールドされて離れることができない。
はっ!!このままではひょっとしたら街についても抱っこされて街を歩くのでは…。
「アリアーシュ?顔色が悪いけど大丈夫?」
少し前まで王子から離れようともがいていたわたしが、王子に抱っこされて街を歩き、さっきみたいに耳元で甘く囁かれ、それを見た周りからはドン引かれ、白い目で見られる想像をして青ざめているわたしを見て王子は心配そうに顔を覗き込んだ。
「殿下は…わたしを(社会的に)抹殺なさるおつもりですか?」
「アリアーシュ?」
「このまま街に出て大勢の前でわたしを辱しめるおつもりなんでしょう?」
「え?何?何言ってるの?アリアーシュ」
「殿下にお誘いいただけて嬉しかったのに…わたしだって殿下とのお出かけが楽しみだったのに…っ」
そんなにわたしを辱しめて楽しいですか!?そう言いかけてぐっと言葉を飲み込んだ。相手はこの国の王子だ感情的になって言っていい言葉ではない。
今までだって耐えてきた。耐える種類が違うだけ、これからだって耐えればいい。
「ごめん、アリアーシュと恋人になれて初めてのデートで浮かれ過ぎた。そんな顔をさせたかったわけじゃない、辱しめたいわけでも抹殺したいわけでもない。ただ…いちゃいちゃしたかっただけだ」
「いちゃいちゃ…ですか…」
「いちゃいちゃだ」
それは恋愛偏差値ド底辺のわたしにはハードルが高すぎます。
「殿下のスキンシップは激しすぎていきなりは無理です」
ガーンと擬音が聞こえそうなほど王子の顔にショックが浮かんだ。
「だけど今の殿下のスキンシップが激しすぎて恥ずかしすぎてわたしの思考と心が付いて行かないだけで…い、嫌ではないのでかなり手加減していただけるとありがたいです」
「嫌じゃない?」
「はい」
「俺の事嫌いになってない?」
「はい」
「アリアーシュ、俺の事を嫌いになる前に嫌な事はちゃんと言って、アリアーシュが嫌がる事はしないから、だから嫌いのならないで」
まるで懇願するようにそっと王子に抱きしめられた。だけどその腕は抱きしめると言うには弱々しく、その声は叱られた子供の様で、その瞳は迷子の子供のように不安に揺れていた。
こんなに思いを寄せてもらっているのにわたしは同じだけ思いを返せない。
「嫌いになんてなりません!そう仰るならわたしだって殿下の思いにお応えできないつまらない女で、いつ殿下に愛想を尽かれてもおかしくありません…」
「何言ってるのアリアーシュ、俺が愛想を尽くはずないだろ。恋人になってもこんなに恋焦がれるのはお前だけ、好きだよ、アリアーシュ。ずっと俺の傍に居て」
「わたしも…わたしも殿下が好きです」
急展開で少しギクシャクしてしまったけれど、王子と思いを確かめ合い、馬車はいよいよ街に到着した。
お読み頂きありがとうございました♡♡♡
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