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リヴィニア恋歌  作者: ゆえこ
一章・幼年期編
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2.王子と天使

わたしはこの世界で生きていくに当たり、とりあえずこの世界のことを知らなくてはいけない。

ありがたいことにわたしにはアリアーシュの知識がある。


わたしはアリアーシュ・セラトリア。なんと15歳くらいだと思っていたらまだ10歳だった。発育いいし話し方もしっかりしているからそんなに幼いとは思わなかった。

それもそのはず、アリアーシュは公爵令嬢で礼儀作法など淑女に必要なことは物心が付く頃から講師を雇い教わっていた。

そんなアリアーシュには婚約者がいた。その婚約者というのがこの国、ペルダナグ王国の第一王子ヴィクトル・ペルダナグだ。

そのヴィクトルが王宮で開いたお茶会で出されたお菓子に毒が入っていてそれを食べたアリアーシュは死んでしまった。


公爵令嬢?10歳で婚約者?相手は王子様?王宮?お茶会?

ダメだ、住んでる世界や文化が違いすぎて理解できない。だってこんなのおとぎ話の世界じゃない?アラサー庶民のわたしにどうやって生きて行けと…。


わたしは考える事に疲れて目を閉じると自然と眠りについた。


◇◆◇◆◇


わたしの目に映るのは一人の少年だった。

一目見てピンときた。


ああ、この子王子様だ。


シルバーブルーの髪、まだあどけなさの残るアメジストの瞳、子供なのに堂々とした王者の風格、心を引き付けられる程の強い魅力。

なのにそのアメジストの瞳は何も映さないような虚無に見えた。

「ヴィクトル・ペルダナグ?」


わたしは無意識に彼の名を呟いた。

わたしの呟きは声にならず、王子に届くはずもないのに、まるでわたしの声が届いたかのように彼はわたしの方を振り返った。


「喜べアリアーシュ、本来ならばこのロイヤルガーデンに王族以外立ち入ることは許されない。それをこの茶会のためだけに開放してやった。感謝しろよ」

ヴィクトルと思われる少年は腕を組み見下すようにこちらを見て言った。

「しかもこの茶会のために国内外から滅多と手に入らない茶葉や菓子を取り寄せてやった。このような茶会は世界中どこを探しても俺にしかできないだろう?俺の婚約者で良かったな!」


うわぁ…これが…王子様…。

一目見た時のわたしの王子様像がドッシャンガラガラと音を立てて崩れ去った。


「ヴィクトル殿下、本日はわたくしのためにこの様な素晴らしい場を設けていただき恐悦至極に存じます」

わたしは自分の意志とは関係なく体も口も動き、王子に対しカーテシーを行った。


どういうこと?わたしは動いてないのに…。

わたしは自分の意志で自分の体を動かすことができなかった。アリアーシュとして存在しているのにわたしはただ目の前の出来事をみていることしかできなかった。


そんなわたしに向かって王子は近くにあったグラスを取り近づいてきた。そして……。



わたしの前まで来るとグラスをひっくり返し、頭から水を浴びせられた。


「アリアーシュ、誰が喋っていいと言った?」

その声は研ぎ澄まされた刃のように冷たく、アメジストの瞳は冷酷にわたしを見下ろしていた。


「も…申し訳…ございません…」

まただ。また勝手に口が動いた。

「ふん、興が覚めた。…そうだアリアーシュ、お前何かしてみせろ」

王子の口は笑っているのに目は笑っていない。


「俺が満足できたら許してやろう。俺は優しいからな」

王子の威圧の含んだ声に体が動かなくなる。


「どうしたアリアーシュ?お前は誇り高き公爵令嬢様だろう。それでも俺の婚約者か」

「申し訳…ございません…」

絞りだした声が震える。

わたしにはこの体を動かすことはできない。

だけどこの体が恐怖を感じていることは分かる。この体に起こった感覚が伝わる。


「謝ればいいってものではないし俺は謝れとも言ってない。なあアリアーシュ、お利口さんのお前なら俺の言いたい事、分るよなあ?」

「申し訳…『バリィィィィィン!』…」

謝罪を述べている途中で王子の持っていたグラスが割れた。いや、王子がグラスを割った。


「アリアーシュ、上辺だけの謝罪なんていらないんだよ。そうだ、理解できていないその口は塞いでやらなきゃなあ」

王子はそう言うと自分に用意された皿からお菓子を掴み、わたしの口に無理矢理ねじ込んだ。


「んぐぐ!?」

口いっぱいに詰め込まれ窒息しそうになる。

お菓子に口の中の水分を全部持っていかれて上手く咀嚼できない。


「ハハハッ!いいぞアリアーシュ。やればできるじゃないか!」

藻掻き苦しもわたしを見て王子は喜んでいる。


「んん…んぐっ………はぁ…はぁ…はぁ」

何とか飲み込めたが苦しくて肩で息をし、涙が出てくる。


「ぐっ!?…ぐあああああああああああああああああああ」

苦しい、呼吸ができない、なんだこれは?


お菓子を飲み込めて落ち着いたはずなのに呼吸ができない苦しみが襲ってきた。

立っていられず倒れてもなお、藻掻き苦しむ。


しかし苦痛の時間はそう長くは続かなかった。

手足を動かすことができなくなり、呼吸も止まる。


「アリアーシュ!!」

目の前が黒に染まる直前、揺れる藤色が見えた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





はあ…はあ…はあ…はあ…

い、生きてる?

今のは夢?夢にしてはやけにリアルで…なんていうかこれは…

デジャヴ?わたしは一度このことを経験している。そう思えるほど鮮明に、リアルに感じた。


そう言えばアリアーシュはあの時なんて言ってたっけ…。

わたしとアリアーシュがひとつになる時、アリアーシュは自分が命を落とした事件の事を話してくれて、でもわたしも混乱していたし、アリアーシュはアリアーシュであまりに簡潔に淡々と話すものだから半分くらい聞き流していたけど、あの時確か王宮やらお茶会などわたしには縁遠い単語が出てきていたような…。

ということは、今見た夢はアリアーシュに起こった出来事なのだろうか?


アリアーシュは毒入りのお菓子を食べて死んだって言っていた。確かに毒入りのお菓子を食べたけど、正しくは食べさせられてじゃない!

しかも食べさせたの婚約者の王子だし…。あの王子、良かったのは見た目だけじゃない!?

無茶振りして出来ないアリアーシュを見て喜ぶような、あんな子供の玩具にされるくらいなら婚約者辞めたい…。アリアーシュも辞めたかったのかな?婚約者。

王子だって毒入りのお菓子を食べさせるほどアリアーシュの事を嫌っていたんでしょ?

だったら婚約なんて辞めてしまえばいいのに…。この事件を機に婚約を解消することはできなかったのだろうか。


あの事件が起きたのは一年前の事である。

アリアーシュは毒入りのお菓子を食べさせられた後、一年間眠りについていたのだ。

だから眠っている間の事は分からない。起きて数日、誰も王子の事も婚約の事も話題に出さない。

ひょっとしてアリアーシュを殺した罪で裁かれたのだろうか…。


分からないことが多すぎて調べたいんだけどわたしの体は動かない。一年間眠り続けたアリアーシュの体は筋肉が落ち、自力で動くことができず、こわばった指すら動かすことができない。

顔は目が窪み、頬はこけ、全身骨と皮だけ。まるで骸骨のようになっていた。


そして特徴的な鮮やかなラピスラズリの髪は苦しみからか白くなっていた。


アリアーシュは死ななかった。わたしがアリアーシュとして生きるから。

わたしの第二の人生…といってもこれはアリアーシュの人生の引継ぎだ。

幼い頃から王妃に成るべく、厳しい王妃教育を叩き込まれ、弱音も吐かずあの暴虐王子の婚約者を務めていたのだ。

アリアーシュとして生きていくなら、アリアーシュの今までの努力を無駄にしないためには、王子と結婚して王妃になることが正しい道なのだろう。


はあ~~~

ド庶民のわたしには前途多難な第二の人生だなぁ。


わたしが人生に悩んでいると、部屋の扉がノックされお母様が入ってきた。

「気分はどうかしら、アリアちゃん」

お母様は涼やかなアクアブルーの髪に、蜂蜜のような琥珀色のくりくりの丸目をしている。一言で言えば大変可愛らしい。母を見た感想が可愛いとはいかがなものかと思わなくはないが、可愛いものは仕方ない。


「姉さま、大丈夫ですか?」

「ええっと…アルバート?」

お母様と一緒にやってきたのは一つ年下の弟のアルバート。

アルバートはアリアーシュと同じラピスラズリの髪に翡翠色の瞳をしているがお母様同様ぱっちりと大きい目をしており天使のごとき可愛らしい顔をしていた。

決して姉バカではない、うちのアルバートは本当に天使なのだ。

わたしが目覚めても面会ができなくて今日ようやく面会が許されたらしい。


アリアーシュは姉は弟を守るものと殊更アルバートを大切にしていた。

昔はどこへ行くにも「姉さま、姉さま」とアリアーシュの後ろに付き、何をするのも二人一緒だった。


ヴィクトル・ペルダナグの婚約者に決まるまでは。


王子の婚約者になってからは王妃教育のため、アルバートと過ごす時間が減っていった。

多忙を極める中、唯一癒されたのが睡眠前のアルバートとの語らいの時間だ。今日の出来事など何でもないことを報告しあった。

そうやってアルバートから元気をもらい、厳しい王妃教育も頑張ってこれた。

アリアーシュにとってアルバートは何物にも代えがたい大切な弟なのだ。


アルバートは瘦せ細り、骸骨のようになったわたしを見ても気味悪がることなくベッドの側までやって来た。

「姉さまが生きていて良かった。姉さまが目を覚まして良かった。姉さまが僕の名前を呼んでくれて良かった」

「アルくぅん」

アルバートを抱きしめたいのに、頭を撫でたいのに、わたしの体は動かない。


「姉さまどこか痛いの?」

アルバートはポロポロと涙を流すわたしの手を取り、心配そうに覗き込んだ。

「ううん、姉さまもまたアルくんの顔が見れて嬉しいの、アルくんの声が聞けて嬉しいの」

「ねえ、姉さま。早く良くなってまた一緒に本を読んだり、お庭を散歩したり、一緒におやつを食べましょうね」

アルバートが天使の如き笑顔でわたしを癒してくれる。

「そうね、良くなったらアルくんのしたい事全部しましょうね」


「良かったわね、アルバート。今日は姉さまと約束ができたからもうお部屋に戻りましょうね」

「えー」

アルバートが不満の声を漏らすも、実はわたしも体力の限界だった。

お母様はその事に気づいてアルバートを帰そうとしてくれた。

「アルくんごめんね、姉さまお休みの時間なの。また明日来てくれる?」

「うん!明日も明日の明日も、毎日来るよ!」

「ふふふ、ありがとうアルくん。大好きよ」

「僕も姉さま大好きです!」


可愛い天使の大好きをいただいてわたしは眠りについた。

お読みいただきありがとうございます♡♡♡


面白いと思っていただけたり、続きが気になったり、お気に召されましたらブックマークや☆にて評価いただけますと幸いです。

大変励みになります( *´艸`)

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