25.憎悪と愛情
更新遅くなって申し訳ございません(;´・ω・)
前半:アリアーシュパート
後半:ヴィクトルパート
となっております。
読みにくかったらすみません。
王子に失望された。
あんなに怒る王子をわたしは知らない。
『俺がこんなもので喜ぶとでも思ったのか?』
喜ぶとは思ってないけど喜んで欲しかったんだよ!
だったら何が欲しかったのよ。
…わかってるわよ、そうじゃないって。
王子が怒ってるのはわたしが黙って狩りに行ったことだって。
王子はわたしが窮屈な思いをしないようできる限りの自由をくれていた。
なのにわたしは王子に黙って狩りに出た。王子にしてみればわたしの取った行動は裏切りだ。
『もう少し利口な女だと思ったんだがな…残念だよ、アリアーシュ』
王子によって簡単に砕かれた魔石をはめ込んだバングル。
バングルなんかなくても王子は自分の身は自分で守れる。
少し考えればわかる事なのにわたしだって魔石を贈れるって自慢気になっていた。
王子が何が欲しいか分からないって言いながら、価値のある物を贈れる事を喜んでいた。
自分の欲を優先させて、王子の事は理由付けで…。
確かに、あんな物壊されて当然だわ。
こんな事になるのなら刺繍のハンカチにしておけばよかった。
嫌われたかな?
嫌われたよね?
最後に見た王子の顔が思い出せない。
このまま婚約解消やら婚約破棄になってしまえばアリアーシュの人生を引き継いだわたしの存在意義がなくなってしまう。
アリアーシュは公爵令嬢である事と王子の婚約者であるという事に矜持を持って、王子の傲慢暴虐唯我独尊に耐えて頑張っていたのに。
わたしは何のために生まれ変わったのだろうか…。
「本当におバカさんね」
「誰?」
わたしはこの声聞いたことがある。わたしはこの声を知っている。
「あなたの人生なのだから好きに生きればよかったのに、どうしてヴィクトル殿下の婚約者を続けたの?わたくしが受けた仕打ちの記憶を見たでしょう?人間の本質は変わらないわ。所詮あの人は自分の感情に任せて壊すだけ。物だろうが人だろうが関係ない、気に入らないものは排除するのよ」
「アリアーシュ…なの?」
「ごきげんよう、わたくし。気分は如何かしら?」
「如何も何もここは一体?」
「あなたももうお気付きではなくて?ここはわたくしとあなたが初めて会った場所、わたくしとあなたの魂が交わる場所ですわ」
わたしとアリアーシュが初めて会った場所、真っ白くて何もない所。
だから見覚えがあったんだな。
「でも、どうして?」
わたしは王子の誕生パーティが行われている宮殿にいたはずなんだけど…。
「さあ?詳しい仕組みはよく分かりませんわ。わたくしだってあなたの中で消えるものとばかり思っておりましたのに消えることなく表に出る事もできましたもの」
アリアーシュにもわからないのか…。
もう、何がどうなっているのかさっぱりだ。
「これは憶測ですけれど…」
アリアーシュ曰く
王子への罪悪感やプレゼントを壊されたショックでわたしの心が絶望に沈んで、わたしの中で消えないで魔力を貯めていたアリアーシュが表に出れたんだろうと。
「あくまで憶測ですけれどね」
アリアーシュが表に出れたと言う事はわたしはもう用済みなのだろうか…。
そうだ、わたしは偽物だ。アリアーシュが表に出たのならわたしはもうここにはいられない。
「あなたはよくやってくれたわ、わたくしになろうとあのヴィクトル殿下の婚約者を続けてくれたんですもの。でも、もう大丈夫」
王子を怒らせて、王子に失望されて、このままではわたしの所為で婚約が危ういのではないだろうか?
王子との仲が危ういというのに、アリアーシュはどこか嬉しそうで…。
「何をする気なの、アリアーシュ」
「わたくし、これからは聖教教会で聖女になりますの。やっとあの忌々しいヴィクトルから離れる事ができますわ!」
「聖女になるですって!?あなた、教会がどういうところか知らないの!?」
「そんなはずないでしょ?ずっとあなたの中にいたのよ、もちろん存じていますわ」
「だったらどうして?」
「どうして?どうしてですって?そんなの決まっているじゃない。それだけわたくしがヴィクトルを嫌いでヴィクトルといるくらいなら死んだ方がマシだと思っているからですわ」
アリアーシュの告白を聞いても不思議と驚きはなかった。
薄々は感じていた。アリアーシュは王子を嫌いだって。
ただ公爵家に生まれて、幼い頃に王子の婚約者に選ばれて、家の為に王子の婚約者であろうと努力した。公爵令嬢の義務を果たそうとした。
そこにアリアーシュの気持ちはなかった。
そんなアリアーシュに王子の取った行動は、憎しみを植え付けるには十分すぎた。
一度嫌ってしまえばその気持ちは好意に変わる事はない。
アリアーシュは憎しみを表には出さず、王子の婚約者の仮面を付けていた。
王子はアリアーシュの仮面を剥がそうと行動し、アリアーシュは婚約者の仮面を剥がされまいと心を閉ざした。
アリアーシュと王子、二人の気持ちが交わることはなかった。
だけどそこにわたしが現れた。
アリアーシュの受けた仕打ちを知りながら、だけど変わろうとわたしに優しくて、いつでもどんなときでも傍に居て守ってくれた王子にわたしは惹かれた。
わたしの名前を呼ぶ王子の声が好き。
わたしの頬を撫でる優しい手が好き。
わたしを抱きしめてくれる腕が好き。
わたしにだけ甘える可愛い我儘な王子が好き。
騎士に混ざって訓練するカッコいい王子が好き。
人付き合いが苦手で不器用な所が好き。
褒めてもらいたい時視線の数が増える癖が好き。
出来ない事にちゃんと向き合って出来るまで努力する姿勢が好き。
何よりキラキラの眩しい笑顔が大好きだ。
王子がどんな気持ちで婚約のやり直しを言い出したのか分からないけれど、あの婚約は公式のものではないけれど、あの婚約はわたしとしたものだ。
「アリアーシュの気持ちは分かったわ。だけどわたしは王子が好き。あなたがどれだけ王子を憎もうがわたしの気持ちは変わらない」
会いたい。
王子に会いたい。
逃げないでちゃんと気持ちを伝えたい。
それで拒絶されれば諦められる。
わたしはまだ何も王子に伝えられていないんだから。
「だから何?」
聞いたことのないアリアーシュの冷たい声。その圧力は本物の公爵令嬢で…。
黒い靄がわたしを包む。その靄はまるでアリアーシュの心のようで、わたしの心を黒く憎悪に塗り潰そうとする。
「あなたの気持ちなんて関係ない、これからはわたくしが表に出るんですもの。これは復讐よ、あなたはそこで大人しく見ているとよろしいですわ」
「やめて、アリアーシュ!!わたしは王子を恨んでいない!!恨みたくない!!」
アリアーシュの王子に対する憎悪がどんどんわたしの中に入ってくる。
嫌だ
わたしは王子を憎みたくない
嫌いたくない
王子が好き
これがわたしの気持ちだ
この気持ちは誰にも譲らない
たとえアリアーシュが王子を憎んでいてもアリアーシュは
わたしは王子が好き
「無駄だというのが分からないの?あなたはわたくしにはなれなかったの。所詮は偽物…まあいいわ、精々ここで足掻いていなさい」
その言葉を最後に、わたしの意識は暗い闇に吞まれていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アリアーシュ、私はお前の意志を尊重してきた。これからだって出来る限りそうするつもりだ。だが、教会に行くことだけは許さない。今すぐ戻りなさい」
「お父様…期待に応えられない不出来な娘で申し訳ございません。殿下の婚約者でいられなくなった今、わたくしに出来るのは聖女となって民の力になることだけ…。教会に行ってもお父様、お母様、アルバートのことは愛しております。親不孝な娘で申し訳ございません、どうかお元気で」
公爵の制止も聞かず、教会の奴らと宮殿を去ろうとするアリアーシュを引き止めようと二人の前に護衛の騎士たちが立ちはだかった。
「わたくし自らの意志で行くのです、そこをお退きなさい」
引き止めても無駄だと思わせる芯の通った強い声。
引き止めたいのに声が出なくて
引き止めたいのに足が出なくて
一度も振り返ることなく去って行くアリアーシュの背を、俺は茫然と眺めることしかできなかった。
アリアーシュが去り、一連の流れを見ていた招待客たちがざわざわと騒ぎ出した。
「皆様いかがでしたかしら?毎年同じお披露目会では飽き飽きするでしょ?今年は工夫を凝らしてみたのですが少し刺激の強い余興になってしまいましたわね」
そう言って扇子で口元を隠しクスクス笑う母上。さすが国王の妃、今の出来事もほんの一言で沈めて見せた。
「それでは皆様、晩餐会までご自由にお過ごしくださいませ」
半ば強制的にお披露目会を終了させる形で俺達は奥に下がった。
◇
アリアーシュが俺を捨てた。
アリアーシュに捨てられた。
「まるで自分が被害者の様な面じゃな」
「泣きたいのはあーちゃんでしょうに」
「あーちゃんはちゃまの為に頑張って狩りをしてちゃまを想って魔法付与してちゃまの事を考えてバングルを贈ったんじゃよ」
「貰ったバングルを破壊するほど気に食わなかったのか?あーちゃんのサプライズが」
「あーちゃんはただ坊に喜んで欲しかっただけなんじゃよ。自分のことでいっぱいいっぱいになっとらんで少しはあーちゃんのことも見てやらんかい」
いつもはさらっと受け流す爺さんたちのお小言が、今はずしりと重く圧し掛かる。
聞けば爺さんたちが狩りに行くのをアリアーシュに唆したそうじゃないか。しかもアリアーシュの手作り弁当でピクニックだと!?王宮に来てからも料理してたのか?
アリアーシュは料理なんてやってる素振りは見せなかったし俺、まだ弁当作ってもらってないんだけど…。
アリアーシュと一緒に居る時間が増えてアリアーシュを知った気になってたけど、俺、アリアーシュの事全然知らないんじゃないか?
独占欲だけでアリアーシュを縛り付けて、アリアーシュが自分の物になったと勘違いして、肝心のアリアーシュの事を見ていなかった。
アリアーシュ…
バングルを砕いた時、泣きそうな顔をしていた。
俺はまたアリアーシュを傷つけてしまった。
『あなたの大切なアリアーシュ・セラトリアはあなたが砕いた贈り物と共に消えてしまいましたわ』
アリアーシュが消えた?どういうことだ?
まるで他人事のように話しているが彼女がアリアーシュだ。間違いない、断言できる、彼女はアリアーシュだ。
だったら
と言う事は
アリアーシュは二人いる?
おいおいおい、自分で言っておいて意味が分からない。アリアーシュはアリアーシュだけだ、二人もいればハーレムだ。いや、違う、そうじゃない、そうだけどそれは置いといて…。
でもなぜだろう、アリアーシュが二人いると考える方がしっくりくる。
「とにかく!いつまでもこんなところでグダグダ言ってないでさっさと迎えに行きなさい!」
「は、母上?」
「いいこと、ヴィクトル。きちんと二人して余興でしたと言える状態で晩餐会までに戻って来なさい」
え、ちょっとそれ少しハードル高くないですか?
「それとも、このままアリアーシュを教会に送って婚約を解消するつもりですか?教皇や枢機卿や大司祭なら孫ほど違うアリアーシュでも伴侶に欲しがるでしょうね」
なん…だと…
「婚約は解消も破棄もしません!!アリアーシュをクソ爺の慰み者にするなんてもってのほか!!絶対アリアーシュを連れ、戻りますから!!」
そうだ、まずはアリアーシュの身の安全だ。アリアーシュを教会に行かせるわけにはいかない、絶対に連れ帰る。
それでたとえ口を利いてもらえなくなったとしても、アリアーシュを守れるのならそれでいい。
「爺さんたち、アリアーシュを迎えに行きたい、力を貸してくれ」
「仕方ないのう、あーちゃんのためじゃ」
すまない、アリアーシュ。俺はお前を手放せない。
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