21.ピクニック
ピクニック当日、朝からお出かけする王子を見送ってお弁当作り開始だ。
厨房ではすっかり顔馴染みになったコック達が材料を揃えてくれていた。
とは言ってもわたしが作れるのはお弁当の定番ばかりだ。
サンドウィッチはたまごサンド、ハムとトマトとレタスのサンド、ローストビーフサンド、メンチカツサンドの四種類。おかずにハンバーグを作るのでついでにメンチカツも作ろうと予定になかったメンチカツサンドを加えた。
おかずは卵焼き、唐揚げ、ウインナー(腸詰め)、ハンバーグ、スパゲティ、ポテトサラダ、胡瓜と葉物野菜のサラダ、と肉肉しいメニューだけどこれは皆さんの「肉」というリクエストを受けてのものだ。
お爺ちゃんなのに皆さんとってもパワフルだ。
デザートは作ってる時間がないのでフルーツの盛り合わせ。でもちゃんとりんごはウサギに剥いた。
お弁当を作るに当たり生ものや卵が出せないと言えばサイラス様が冷却の魔法陣を付与した保冷バッグの様なものを作って下さり、保冷剤代わりの魔石まで下さった。
サイラス様のおかげで食材の傷みを気にせず作れたけど、サイラス様直々に簡単にほいほい魔法を付与していいんですかね?
お昼前、出来上がった六人分の昼食が入った大きなバスケットを保冷材の入った保冷バッグに入れ王城に向かった。
今日のわたしはアドルフ様の元で特訓する事になっており動きやすいパンツスタイルだ。
孫守り部屋に行くと既に皆さんが集合されていた。
「いらっしゃい、あーちゃん」
「皆様、今日はよろしくお願い致します」
バスケットは自分で持てると言ったけれどランドルフ様がレディに重い物は持たせられないと持って下さり、サイラス様が設置した転送陣で孫守り部屋からあっという間に目的地に着いた。
ピクニックとは…。ってなるけど今は仕方がない。自由に動けるようになったらちゃんと移動しよう。
ちなみに目的地は魔物が住む森の近くの小高い丘で皆さんで色んな所に足を運んで決めたそうですけど…。
サイラス様、これって転送陣の無断使用になりませんか?
目的地に着くと早速皆さんがランチをするための設営に取り掛かった。
テーブルや椅子などを運ぶのは力持ちのアドルフ様の担当らしい。
遠征に出向かれることの多かったアドルフ様はこういった設営にも手馴れてらっしゃる。
あっという間に小高い丘に昼食会場が出来上がった。
わたしはテーブルにクロスを敷いてお皿やカトラリーをセットした。
皆さん待ちきれない様子でソワソワしてらっしゃる。見た目は可愛いおじいちゃんだ。
「おおおおおおっ!」
バスケットを開けると皆さん覗き込んで感嘆の声を上げた。
何でもできるサイラス様に保冷バックの魔法陣をおかずが暖めれる加熱バッグに魔法陣を書き換えてもらい、サラダ類とは別にして唐揚げやハンバーグなど暖めてもらった。
「野菜は少ししかないのでお肉だけでなくきちんと野菜も食べて下さいね」
いくらパワフルでもおじいちゃんはおじいちゃんだ、食事はバランスよく取ってもらいたい。
「あーちゃんはいいお嫁さんになるのう」
「ええ、若にはもったいないくらいです」
「このカラアゲというのは最高だな、外はサクッとしているのに中は柔らかく噛めば肉汁が溢れてくるぞ」
「サンドウィッチも絶品じゃな!このメンチカツにかかっているソースがまた絶妙じゃ」
「うま…うま…うま…うま…」
皆さんのお口に合ったようでよかった。ラッセル様に至っては「うま」しか言っていない。
デザートのバスケットを開けるとこれまた皆さんウサギリンゴに感動されていた。
あっという間にこの胃もたれメニューを皆さんペロリと食べてしまわれたんだけど皆さん…ホントにおじいちゃん?
「よし、腹も落ち着いたことだしそろそろ森に行くか」
「前衛はアドルフ、遊撃はサイラス、ラッセル、後衛はセオドアとわしでどうじゃ?前衛一人では荷が重いか、アドルフ?わしも前衛に回ってやろうか?」
「魔物如きに遅れを取るはずなかろう、前線を退いて何十年にもなるお前なんぞ足手まといだ、ワシ一人で十分だ」
あの!!伝説の五英傑がパーティーを組んでいる!!
わたしは今、歴史的瞬間に立ち会っている!!
この感動と興奮をどう言い表せばいいのか!!
生きてて良かった、王子の婚約者で良かった、神様ありがとうございます。
魔物を討伐に行くのはこれが初めてではない。アドルフ様、ラッセル様の合同演習で王子、グレイリヒト、マティアス、わたしの四人でパーティーを組み、草原に出没するうさぎっぽい魔物やきつねっぽい魔物なんかを狩りに行ったことがある。
行ったことがある。んだけど前衛を務めた王子とマティアスが強すぎて何もさせてもらえなかった。
つまりこれって討伐に行ったことがあるが実戦経験ゼロって事よね?
そう考えると滅茶苦茶緊張してきた。わたしは魔物を攻撃したことも攻撃されたこともない。
ちゃんと上手くできるかな?魔石、取れるかな?
森の中を歩き、出くわした魔物をアドルフ様が一振りで倒していくも、魔石持ちの魔物とは出くわさず、時は一刻一刻と過ぎて行った。
「皆止まれ、前方二時に三匹…来るぞ!!」
ラッセル様のサーチに魔物が引っ掛かった。
飛び出してきたのは三匹の大きな蜘蛛の魔物。
「ひっ!!蜘蛛!!」
わたし大抵の虫は平気でも蜘蛛だけは駄目なの!!それなのにあんな大きいなんて無理無理無理無理!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
わたしが腰を抜かしてる間にアドルフ様がまたしても一振りで一匹
「アイストルネード」
ラッセル様が氷の刃のトルネードで一匹倒して下さった。
残りは一匹なんだけど…。
「大丈夫ですか?あーちゃん。最後の一匹…あの大きさ…おそらく魔石持ちでしょう」
あの蜘蛛が…魔石持ち…。
おそらくこれが魔物を狩るラストチャンスだ。これを逃せば魔石は手に入らない。
王子に自分で手に入れた魔石を贈るんだ!!覚悟を決めろアリアーシュ!!
わたしは立ち上がりぶら下げていたショートソードを抜いた。
だけど…
「あの魔物相手にまだあーちゃんは接近戦は早いから攻撃は魔法にしなさい」
わたしの魔法の師、ラッセル様に言われてしまった。剣術の師、アドルフ様が何も言わない所を見るとそういう事なのだろう。
この蜘蛛の魔物は口から吐く糸で獲物を捕らえ捕食する。一度捕まれば並大抵の物では逃げる事は難しいと言われている。
弱点は火や水による攻撃。大抵の魔物は首を落とせば死んでしまう、この蜘蛛の魔物も例に漏れず首を落とせばいい。
「ロックショット」
ラッセル様は岩の塊を蜘蛛の魔物の口に打ち込んだ。
「はあああああああああ!!せい!!せい!!せい!!せい!!でりゃあああああああああああああ!!」
その隙にアドルフ様が素早く魔物の足を切り落とした。
「止めを刺せますか?あーちゃん」
ここまでお膳立てしてもらって出来ないとは言えない。
身動きの取れない魔物に、わたしはただ止めを刺すだけ。
相手は蜘蛛の魔物なのに、止めを刺す、命を奪うという事が妙にリアルでそれがなんだか怖い。
だけどこれは誰かじゃない、わたしがやらなきゃいけない。
集中しイメージする。それは研ぎ澄まされた刃。
「ウォーターカッター」
わたしが放った水の刃は蜘蛛の魔物の首と胴体を綺麗に切り離し後ろの木々までも切り倒した。
魔物を倒すなんて初めてだし力の加減が分からなかった。
「うむ、初めてにしては上出来じゃな」
「お、終わった~」
わたしはホッとして力が抜けてその場に座り込んでしまった。
「休んでる時間はありませんよ、さあ、魔石を取り出しましょう」
素材取りという事で張り切っているセオドア様に魔物の前まで連れられた。
ああ、そうだ。この方々は優しいけれど甘くはない、スパルタだったのだ。
「今回必要な素材は魔石だけなので皮、肉、血、臓器などに気を遣わず腹に刃を入れてから手を突っ込んで抜き取ってください」
へっ?………………
「魔石を傷つけてはいけませんからね、肉の壁に切れ込みを入れて内臓のあたりは手を突っ込んで探してください」
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理。
そんなのできないよ!!
「あーちゃん。あなたも来年からアカデミーに入学しますね?アカデミーでは親に頼れず自分で何とかしなくてはいけません。魔物を狩って素材を売る、これも一つの手段です。切る、削ぐ、剥ぐ、抉り取る、今一番きつい抉り取るを経験すれば後の作業なんて何とも思わなくなりますよ」
無理なものは無理…なんだけど、どのみちしなきゃいけなそうよね…。
王子…わたし頑張るね!!
セオドア様の指示に従い魔物の腹に切れ込みを入れる、問題は次だ、この中に手を入れる?
「うう~~~~~~~~~~~」
先程まで生きていたので中はまだ温かい。
「うう~~~~~~~~~~~」
まだ奥に突っ込まなきゃダメ?
何処にあるのよ魔石いいいいいいいいい!!
その時、何か固い物が指先に触れた。それを掴み引き抜いた。
うう~、腕がベトベトする。
握った拳を開くと、そこには小さな紫色の宝石があった。
「これが…魔石…」
「よく頑張りましたね、あーちゃん」
セオドア様が洗浄魔法のクリーンを掛けて下さり、魔物の血で汚れた体が綺麗になった。
「皆様ありがとうございました。魔物を狩るのも、魔物から素材を採取するのも初めてでしたが皆様のおかげで魔石を得る事が出来ました。本当にありがとうございました」
「あーちゃんが頑張ったからじゃよ、坊のためにあーちゃんが頑張ったと聞けば坊も喜ぶじゃろ」
「それでは明日、魔石に魔法付与を行いましょうか。今日は帰ってゆっくり休んでください」
わたしは宮殿に戻ると初めての魔物討伐、初めての素材採取という経験をし疲れ果て、次の日のお昼まで寝過ごしたのであった。
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