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リヴィニア恋歌  作者: ゆえこ
一章・幼年期編
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1.目覚め

目が覚めて初めて目に映ったのは知らない天井……。

ではなかった。

天蓋付きの豪奢なベッドはわたしが昔から使っているベッドだ。


昔から?


「旦那様!!奥様!!お嬢様が…お嬢様がっ!!お目覚めになられました!!」


大声で叫んでいるのは侍女のルリアだろう。

わたしが起きただけで大袈裟である。


「…ゥ……リァ……」


ルリアを呼ぼうと口を開けるが喉が張り付いたように声が出ない。


「アリアーシュ!!」

血相を変えて部屋に入って来たのは、普段は穏やかなお父様だった。


普段?…お父様?

わたしお父様なんて呼んでたっけ?


「ああ…アリアちゃん…。目を覚ましたのね、良かった…本当に良かった」

お父様に次いで部屋に入って来たのはお母様だった。

お母様はわたしが目覚めたことに涙を流して喜んでいた。


お母様?


ズキズキ

うっ、記憶を擦り合わせようとすると頭が割れる様な激しい痛みと、思考が焼き焦げる様な気持ち悪さに襲われた。

頭の中に色んな景色が流れ込んでくる。


「う゛っ…ぐああああああああああああああああ」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


「ぎゃあああああああああああああああああああ」

苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい


「アリアーシュ!?どうしたアリアーシュ!?」


どんなに泣き喚き叫んでも苦痛から逃れる事ができなかった。

流れ込んでくる映像は消えない。


「鎮静剤を打て!」


本能で分かる。

ダメだ。これ以上、この映像を入れては…。




わたしが壊れる





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ここは?」


次に目を覚ますと痛みも苦しみもなかった。


「目が覚めた?大丈夫?」

鈴が鳴るような凛とした声が響いた。


まず目に入ったのは鮮やかな瑠璃色。そこにいたのは十五歳くらいの少女だった。

ラピスラズリの髪に、アーモンド形のエメラルドの瞳。高い鼻梁にぽってりした唇。

まるで人形の様な少女だった。


「初めまして、わたくしはアリアーシュ・セラトリアと申します。あなたになる前のアリアーシュです」


アリアーシュ・セラトリア。聞いたこともない名前なのになぜがしっくりくると言うかスッと自分の中に入り込んできた。

しかし少女の言っている意味が良く分からない。


「まだ混乱されているようですね」


理解の追い付かないわたしに、アリアーシュはゆっくりと説明してくれた。


どうやらアリアーシュは事件に巻き込まれ命を落としたらしい。

その魂の抜けたアリアーシュの体に別の世界で死んだわたしの魂が宿った?入った?ようで、わたしはアリアーシュ・セラトリアとして目覚めた。

ただアリアーシュは完全に死んではおらず、魂の欠片が残っていた為、二人分の記憶を処理するのに脳がオーバーヒートを起こしたのでは?との事。


「わたくしはもう、アリアーシュ・セラトリアとして生きていくことができません。わたくしができることはアリアーシュ・セラトリアの記憶を持ってあなたの中にいることだけ。わたくしがあなたの中にいる事で必要な記憶があればいつでも思い出せるはずです」


わたし…死んだの?生きているせいで実感がない。

だけどわたしがアリアーシュ・セラトリアとして生きていく。

これだけは決定事項。


わたしはこれから年齢、姿かたち、国、文化、ありとあらゆる全てにおいて全く別の人生を歩んで行かなければならない。


「わたしはアリアーシュ・セラトリア」


なぜだろう?わたしはアリアーシュ・セラトリアではない。なのにアリアーシュ・セラトリアとして生きていくことが当然の様な感覚。


「そう難しく考えなくてもいいわ。あなたにとって第二の人生よ、自由に、好きなように生きてくれればいいから」


もう少女の姿は見えなくなっていた。

だけど…。



わたしの中に彼女がいることを確かに感じた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





目に映るのはいつもの天井だった。

大丈夫。痛みも苦しみもない。

アリアーシュの言った通り、どうやら記憶を共有しているおかげで頭が破裂しそうな苦痛はない。


記憶…わたしの記憶。

家族は4人。寡黙だが優しかった父。しっかりしているようで少し抜けている料理が上手な母。漫画やアニメ、ゲームが好きな兄。そしてわたし。

大学入学を機に家を出て一人暮らしを始めた。家族に少しでも負担をかけないようにバイトをしながら大学に通った。

初めて彼氏ができたのも大学だった。同じ講義を受けていて落としたペンを拾ってもらったことが出会いのきっかけ。

わたしは大学を卒業していくつか受けた会社で唯一内定をもらった会社に就職、彼は就職した会社の他県に配属になり遠距離になった。毎日連絡は取り合ったし休日にはデートもした。でも、そんな関係は長く続かなかった。

仕事の疲れやストレスで次第にわたしは閉じこもるようになる。自分から連絡することもなくなり彼からの連絡も無視。

いよいよ破局かと思っていた頃だった。いつもの時間、いつもの電車、だけど何かどこか違う。少し疑問に思い考える。いや、考えるまでもなかった。

あ…今日休日だ。…次の駅で降りて帰ろ。

休日なのに出勤してしまい一気に気分も足取りも重くなる。帰る電車に乗り換えしばらく走ると…。


キィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!


突然轟くブレーキ音。

たぶんほんの一瞬の出来事。

乗っているわたし達には何が起こったのか分からない。

恐怖も痛みも一瞬で、わたしの記憶は途切れた。


あ…この時わたし死んだんだ。

死んだ実感がないのは今生きているからだろうか?

生きているとは言え知らない世界、知らない土地、知らない人、知らない自分。これからどうすればいいのか…。


会えなくなって会いたくなったのは自分の家族。

残した家族に最後に会ったのはいつだったか。お母さんとは電話はしていた。電話がかかってくる度心配して今年こそ帰っておいでと必ず言われた。

お父さんは寡黙であまり会話という会話をした記憶がない。だけど進学の時だって就職の時だっていつだって「お前の思うように、後悔しないように進みなさい」って背中を押してくれた。

お兄ちゃんとは趣味は合わなかったし興味がないって言ってるのに毎度毎度自分のハマってるものや推しを早口で熱くプレゼンされた。こんなことなら一回くらいちゃんと話を聞いてあげればよかった。

実家には帰ろうと思えば帰れた。いつでも帰れる、そう思っていたから帰らなかった。だってこんなに早く死ぬなんて思いもよらないじゃない。死んでからホームシックになるなんて…。


「アリアちゃん…」

わたしをアリアと呼んだのはアリアーシュのお母さんだとアリアーシュの記憶が教えてくれる。アリアーシュはお母様って呼んでいた。

お母様は優しくそっとわたしの手を包み込んだ。

「大丈夫、大丈夫。今度は何があってもお母様が守ってあげますからね」

ホームシックに陥っているところに母の優しさが身に染みる。


どうすればいいかなんて分からない。

知らない世界、知らない土地、知らない人、知らない自分。だけど知らなければ知ればいい。だってわたしは生きている。わたしはこの世界で生きていかなきゃいけないのだから。

お読みいただきありがとうございます♡♡♡


面白いと思っていただけたり、続きが気になったり、お気に召されましたらブックマークや☆にて評価いただけますと幸いです。

大変励みになります(^_^)v


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