17.王子と従者~sideヴィクトル・ペルダナグ3~
「アリアーシュ!!」
突然倒れたアリアーシュを咄嗟に抱き止めると、アリアーシュは顔面蒼白で生気を失っていた。
魔力の枯渇か!?
まだ魔力量もそれ程多くないのに、いきなりあんな超級広範囲魔法なんて使ったらそりゃ魔力も枯渇する。
魔力は生命の源だ、魔力が枯渇すれば人は死ぬ。
俺はアリアーシュの手の平に自分の手の平を重ね、俺の魔力をアリアーシュに流し込んでいく。
魔力の枯渇を起こしているアリアーシュにこの方法では効率が悪い。魔力を譲渡するには粘膜を合わせるのが一番手っ取り早い。
だけど、そうすると絶対アリアーシュに嫌われる。間違いなく嫌われる。嫌われる一択だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、それだけは絶対嫌だ。
しかし…もたもたしていたらアリアーシュが死んでしまう。
それは駄目だ。アリアーシュは死なせない、殺さない、絶対生かす。
アリアーシュが死ぬくらいなら、嫌われた方がマシだ。アリアーシュが生きてさえいてくれればそれでいい。
「ごめん、アリアーシュ」
俺は一言詫びを入れて、アリアーシュの唇に唇を重ねた。閉じた唇を開き舌を侵入させる。口腔内を探り、見つけたアリアーシュの舌に自分の舌を絡め、魔力を送る。
やはりこちらの方が効率が良い。
重ねた手から魔力を循環させると、呼吸が平静になり徐々にアリアーシュの体温も戻りつつある。
そろそろいいか…
名残惜しくも、俺はアリアーシュから唇を離した。
ここではアリアーシュをゆっくり休ませてやれない、一度セラトリア邸に帰るか…。
そう思案していると
「アリアーシュは無事か!?いったい何があった!?」
別のテントを回っていた公爵がアリアーシュが倒れた報告を聞いて、慌てた様子で飛び込んできた。
どうやらアリアーシュの魔法は、このテントだけでなく公爵のいたテントにも及び、患者全員の傷を癒したらしい。
俺はこのテントで起こった経緯を公爵に報告し、一度アリアーシュを連れ帰る提案をすると、公爵はまだこの地ですることがあるので先に戻っていてくれと言われた。
「殿下は…アリアーシュを手放す気はございませんか?」
「ない」
何をいきなり当たり前のことを?いらなければとっくに手放している。
むしろ俺はアリアーシュしかいらないし、アリアーシュ以外いらない。
「今日起こった事は村全員目撃しております。早かれ遅かれ奴らの耳に届くでしょう。常人であれば王太子の婚約者に手出しはしないでしょうが奴らは神の威を借る狂人集団、どんな手を使ってでもアリアーシュを捕えようとするはずです」
「聖教教会か」
ペルダナグ王国の信仰する神は愛と豊穣の女神ユーリディアだが奴らは独自の神を信仰している。独自の神とか言ってる時点で胡散臭さ満載だ。
回復系魔法を神の力とし、ハイヒール以上を使える魔法使いを多数入会させている。その入会方法は自ら志願する者も居ればスカウトも居る。ここまでは合法だが断った場合拉致されたと言う話も聞く。
一度入会してしまえば死ぬまで脱退する事が出来ず、一度も家に帰れず家族にも恋人にも会えず、一生教会内で暮らさなければいけない。
そんな奴らが広範囲のメガヒールを使ったアリアーシュの話を聞いて黙っているはずがない。
「俺からアリアーシュを奪おうとする奴は誰だって容赦はしない。教会が相手だと言うのなら教会ごとぶっ潰してやる」
奴らの本部は隣国ツぺべギリア帝国と接する南側にあり、悪い噂が絶えない。国は何度も調査に出向いているが未だ尻尾すら見えていない。
真っ黒寄りでグレーを装っている奴らだ、アリアーシュに手を出そうとすれば気兼ねなくぶっ潰せる。
「こちらで教会の動きを探らせ、アリアーシュには護衛を付ける。かまわないか、公爵」
「はい、殿下のお傍がおそらく一番安全と思われますので。どうか娘をお願い致します」
「ああ、何か分かれば報告するし公爵は領の復興に力を注いでくれ。領が復興すればアリアーシュもきっと喜ぶ」
「殿下…ありがとう存じます」
一通り話し合いが終わり、俺たちは先にセラトリア邸に戻る為、馬車に乗り込んだ。
馬車の護衛にエルドレッドとマティアスが付き、グレイリヒトが俺と共に馬車に乗った。
俺はアリアーシュを抱き抱えたまま手を合わせ魔力を送り循環させていた。
「なあ、グレイ。嫌なことは先に知るのと後で知るのではどっちが傷が小さい?」
「お話が見えませんが先、でしょうか?後から知ると何故早く教えてくれなかったのかとなりますので」
「そうか…」
「先程の教会の事でしょうか?」
「否…アリアーシュにした魔力供給の事だよ、あれは人工呼吸みたいなものだ、言わば医療行為だ。そう思ってくれればいい、だけどそう思わなかったら?嫌いな奴にファーストキスを奪われたと思ってショックで死のうとするかもしれない!!だったら言わない方がいいんじゃないか?」
(殿下のお傍に仕える様になって分かったことがある。他人の感情、周りの空気は敏感に察知できるくせにアリアーシュ様の事になると途端にポンコツになる。突っ込みどころ満載なのに殿下が相手ではどう突っ込んでいいのか分からないのでホントやめていただきたい)
「アリアーシュ様は殿下の事を嫌ってはいないと思いますが…」
「どこをどう見たら嫌ってないように見える!?お前はアリアーシュの優秀さを分かっていないな!アリアーシュは何があってもどんなことがあっても俺の婚約者の仮面を張り付けて上手く演じる事が出来るんだぞ!態度や表情から見た感じじゃ嫌われてない証拠にならないからな!」
(何がどうしてこうなったのか存じ上げないが、殿下のアリアーシュ様への自己評価が低すぎる。最早底辺だ。アリアーシュ様は殿下を嫌っていらっしゃるのだろうか?その様には見えないのだが…)
「仮に、あくまで仮ですよ、仮にアリアーシュ様が殿下のことをお嫌いでいらっしゃるとして…」
「ぐっ…」
「殿下にお命を救われたことに変わりはないので死ぬほどのショックは受けないと存じますが、それに殿下がおっしゃられていたように医療行為なのでキスにはカウントされません、ノーカウントです」
「だよな、やっぱりキスはちゃんと起きてるときにしたいよな」
(今はそういう話ではないのでは…。兎に角殿下の世界の中心はアリアーシュ様で、アリアーシュ様を中心に回っている。では、アリアーシュ様はどうだろうか?私から見た感じでは殿下を嫌っている様には見えない、だけど好意もない。何と言うか義務というか業務と言うか、当たり障りなく婚約者をこなしている。その辺りも婚約者として優秀と言えざるを得ないのか…)
「よし!アリアーシュが起きたら事情を説明してちゃんと謝ろう」
「あ、謝られるのですか!?」
(王太子が謝罪!?非を認めるなと学んでも謝罪する事は学ばないと聞いていますが…)
「悪いことをしたら謝るってアリアーシュが教えてくれたんだ。ちゃんとごめんなさいが出来てえらいって褒めてくれたし」
「し、しかし殿下がそう簡単に頭を下げるものではないかと」
「お前は俺に、アリアーシュに頭を下げるなと?」
(殿下の纏われていた空気が一瞬で!!失言だった!!殿下の中心はアリアーシュ様だと分かっていたのに!!)
「いえ、その様なことは…私の失言でした、申し訳ございません」
「俺だってわかっている。アリアーシュ以外に下げる頭など持ち合わせていない」
(無茶苦茶だ。だけどそこが面白い。優秀なのにポンコツで、ただアリアーシュ様の為だけに努力し、なのにアリアーシュ様への自己評価がド底辺で、どうやったら好かれるかではなくどうすれば嫌われないかと藻掻いている。この方のお傍について、お二人のこれからを見守っていきたい)
アリアーシュが目覚めたらちゃんと謝ろう。アリアーシュは隠し事をされるのと嘘が嫌いだ、だからちゃんと事情を説明して謝れば許してくれる。
セラトリア邸に付きアリアーシュを自室に運んだ。自室に向かう途中アリアーシュが顔を俺の胸にすりすりとすり寄るものだから驚きと可愛さと感動で動けなくなった。生きててよかった。
ベッドに寝かせた後、部屋を去ろうとしたが握った手を離すことが出来ず結局その場に居座ってしまった。
顔色が良くなっている、規則正しく呼吸も出来ている。もう少しすれば目覚めるだろう。
幼い寝顔も可愛くて好きだけどやっぱり起きているアリアーシュに会いたい。
傍にいてくれるだけでいい、聖教教会だろうがなんだろうが誰が来たって渡さない。
全部、全部俺が守るから、だから俺から離れないで。
「好きだよ、アリアーシュ。大好き」
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