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リヴィニア恋歌  作者: ゆえこ
一章・幼年期編
16/36

15.転送陣

「ん…」

何?

頬を何かに噛まれている感触がしてわたしは目を覚ました。

目の前には笑っている王子が居て………。


「殿下!?」

「おはよう、アリアーシュ」

目を覚ましたのに王子はまだわたしの頬を抓ったままだ。いい加減放して欲しい。

「ゆっくり寝かせてやりたいが、そろそろ準備の為、メイド達がやってくる。起きれるか?」

「大丈夫れす、それよりお手をお放しいたらけましぇんか?」

「ああ、すまない。触り心地のいい頬だったから、つい」

ついじゃないですよ、伸びて戻らなくなったらどうしてくれるんですか?

起こしていただけるのはありあたいのですが普通に起こしていただけませんかね?


王子に起こされて程なくし、メイド達が準備にやってきた。わたしと王子はそれぞれ別室に連行され、支度が整うとリビングで一緒に朝食を取りながら今日の行程を話し合った。

わたしとしてはなるべく早く領地にたどり着きたいが、橋が流されていたり、落石で道が塞がっていたりとかなり迂回が必要らしい。


王子は行程の話し合いに別室に行き、メイド達は旅が長引くという事で買い出しに出て、わたしは一人一人ポツンと部屋に取り残された。


これじゃあわたしもお荷物と変わらないじゃない。


出来る事もすることもなく、窓辺にもたれかかり外を眺めていると、勢いよくドアが開いた。

「アリアーシュ!!」

なにやら興奮した様子で王子が現れた。

「今、セラトリア公爵の伝令が着き、公爵が転送陣を設置してくれたらしい!これで迂回せず直接セラトリア領に行けるぞ!!」


転送陣とは離れた場所に行く時に目的地に設置していれば一瞬でそこに行けるという優れた魔法陣だ。

だけど転送陣の利用には色々制約があり、宮廷魔術師団が管理していて、おいそれと勝手に利用する事が出来ない。

しかしお父様は王城でもお偉いさんなのでここぞとばかりに権力を使ったに違いない。

わたしが行くことをあんなに反対していたのに…。


「メイド達が戻ったらすぐに出発しようと思うがアリアーシュは大丈夫か?」

「はい、わたくしは大丈夫です」

なにせ準備等はメイド達に任せきりで私自身する事がない、今すぐ行けるか聞かれたって行けると答えただろう。

「では、俺はこれから転送陣の設置を見てくるからもう少し待っててくれ」

わたしは部屋から出ようとする王子の服の裾を思わず掴んでいた。

「あ、あの、わたくしもご一緒してはいけませんか?」

「いいよ、行こう」

王子は少し驚いていたが了承してくれた。


荷馬車などもある為、転送陣は宿屋の庭に設置されることになった。

設置と言っても転送の魔法陣に魔力を通して起動するだけなのだが…。

「やあ、若様、あーちゃん」

「サイラス様!?」

そこに居たのはこの国一の魔術師、サイラス様だった。

「まったく、君の父君も無茶を言ってくれる。私はもう宮廷魔術師団ではないんですがね」

困ったものですと、サイラス様はちっとも困った顔をせずに言った。

たぶんお父様は転送陣利用許可を陛下から取り付け、宮廷魔術師団を通さず直接サイラス様に頼んだのだろう。なにせ転送陣を作ったのはサイラス様だ、魔術師団を通すより話が早い。

しかも今回はこの宿屋に設置する転送陣はわたし達をセラトリア領に送った後、消去する事になっていた。

サイラス様は転送陣の設置、起動、消去に一番適した人物だった。


サイラス様はまずセラトリア領に転送陣を設置する為、お父様と共にセラトリア領に向かい、転送装置を設置後、わたし達のいるアーギスに来て下さった。

「わたくしが我儘を申したばかりに申し訳ございません」

「私はただ転送陣を設置しにきただけですよ、謝る必要はありません。それに、対価は父君からいただいていますので」

「対価…ですか?」

「ええ、父君はランチにあーちゃんお手製の()()()を持参しているようなのでそれをいただく事が今回の対価です」

お仕事に行くお父様のお弁当は確かにわたしが作っている。お弁当と言っても日替わりサンドウィッチと簡単なおかずだ。

しかしなぜそれをサイラス様がご存じなのか?


「父君の娘の手作り弁当自慢は有名な話だがあーちゃんの耳には届いてないのかな?」

何やってるのお父様!?は…恥ずかしい…。

「俺もその話は知らないなあ、手作り弁当とはどういう事だアリアーシュ?」

今まで黙っていた王子がいきなり話に食いついてきた。王子、目が本気と書いてマジと読むみたいな目で怖いです。そこ、食いつくほど重要なことですか!?

「どういう事も何も、お仕事に行くお父様の昼食を作っているだけなのですが…」

え?何?そんなに父親にお弁当を作るのがおかしい事なの?あ、貴族の娘は料理なんてしないんだったわね…。貴族の娘は料理なんてしないのに、みんなお父様の話を信じてるの?

「あーちゃんお手製のお弁当がいただけるなんて、転送陣を設置することなんて容易いことですよ」

わたしのお弁当>転送陣って比較おかしくないですか?サイラス様…。


「俺は…俺も…」

王子は王子でさっきとは打って変わってこの世の終わりみたいな顔でうなだれているし…。

「ああ、気にしないで下さい。若様は婚約者の若様より先に私があーちゃんの手料理をいただくことが許せない気持ちと、婚約者なのにあーちゃんが料理が出来る事を知らなかったショックでああなっているだけなので」

「うるさい、俺の気持ちを代弁するな」

つまり当たっているってことなんですね。


しかしわたしは王子が食べる様な豪華な料理は作れない、それに王子って他人の手作りの物なんて口にしていいのかしら?何が入っているか分からないものは口にしちゃだめよね?だから簡単に王子の分も作りますなんて言えない。その事も王子は分かっていると思うのだけれど。

「アリアーシュ…」

目は口程に物を言うとはよく言ったものだ。名前しか呼ばれていないのに、その顔にはお願いと書いてある。

「わ、わたくしは殿下が召し上がられるような物はお作りできませんので…」

「アリアーシュが作った物なら何だって食べるよ」

「ですが…」

「分かった…アリアーシュがそこまで拒むなら無理にとは言わない…。だが…俺の地位の所為でアリアーシュの手料理が食べれないなんて…こんな地位…欲しくなかった…」


ちょっと、王子!本気じゃないにしてもなんてこと言うんですか!?

王子なら美味しいもの好きなだけ食べれるでしょ?

どんだけショック受けてるんですか…。


王子には今回とても助けてもらったけれど何のお礼もできてないし、作るだけなら…作るだけなら…。

「畏まりました。殿下のランチもお作りさせていただきます」

こんなの受けるしかないじゃないか…。

でも、没収されても知りませんからね。

「ですが、お父様と同じ内容になりますがそれでもよろしいでしょうか?」

「いい!!全然いい!!」

ぱああああああっと効果音が響きそうなくらい王子はいい顔をしていた。

何だこの茶番と思いながらも王子の嬉しそうな顔を見ると、それほど悪くは思えなかった。


茶番劇が終わった頃、買い出しから帰ってきたメイド達が準備を終え、荷馬車に荷物を積み込んでいた。

荷馬車の準備が整えば、転送陣でセラトリア領に行く。

わたしは出発前にサイラス様から声を掛けられた。

「あーちゃん、領民を心配する事は悪い事ではないし、自分にできる事をしようとする事は悪い事ではないよ。ただ被災地というのは幼い君が見ればトラウマになるような悲惨なところだ、父君は自領でそんな思いをさせたくないと思い行くことを反対したんだろうね」

「はい、お父様はとてもお優しいお方なので」

わたしが行くことに反対していたのに、こうやって手を差し伸べてくれる。お父様は優しい人なのだ。そんなお父様の役に少しでも立ちたい。


転送陣の準備が整い、次々と馬車が陣を潜る。

「サイラス様、この度は誠にありがとうございました。また、王都に戻った際にはよろしくお願い致します」

「頑張るのはいいけれど無理と無茶はしない事。向こうに着いたらきちんと父君の言う事をきくんだよ」

まるで孫を見送るおじいちゃんの様にサイラス様は仰った。

「はい、では行ってまいります」

わたし達はサイラス様に見送られ転送陣を潜り抜けた。

お読みいただきありがとうございます♡♡♡


面白いと思っていただけたり、続きが気になったり、お気に召されましたらブックマークや☆にて評価いただけますと幸いです。

大変励みになります٩( ''ω'' )و

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