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リヴィニア恋歌  作者: ゆえこ
一章・幼年期編
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13.視察へ

王子に護衛と側近が付き一年が経ちわたしも王子も十三歳になっていた。

最初のころは口には出さないが近づくなオーラ全開だった王子だけど、空気の読めないマティアスがグイグイ迫り王子が押し負けていた。

マティアスには計算も悪気もない。ただただ真っ直ぐ向かってくる。

王子もそんな相手には嘘や誤魔化しは言えずたじろいでいた。


エルドレッドは王子の専属騎士なので基本王子の傍にいる。

マティアスは専属見習いのため、騎士団でみっちり揉まれその後礼節を学び、王子が五英傑の方々の元で学ぶ時は一緒に参加するハードな日常を送っていた。

王子はまだ殆ど公務に付いていない。なのでグレイリヒトはマティアスとは逆で王子が五英傑の方々の元で学ぶ時に一緒に参加するしかすることがない。ただ、王子に王城の書庫への出入りを許してもらったらしくよく書庫に行っている。


五英傑の方々の元で一緒に学ぶ事は王子にとってもいい方向に向かっていた。

特にランドルフ様の元での陣取りボードゲームは三人ともただの少年の様にワイワイ楽しそうにしていて、王子も徐々に心を開いていった。


アドルフ様の元ではグレイリヒトはわたしと同じ別メニューだけど王子とマティアスは競い合う様に修行していた。同年代で打ち合える相手ができて王子も楽しそうだった。


セオドア様の元では国が管理している森での素材の採取に行くこともあった。わたしには鑑定できる力があるので識別できるけど王子とグレイリヒトもきちんと識別できていた。

自分たちが採取した素材で薬を生成するんだけど、魔力制御の苦手な王子は大分苦労していた。そんな王子をグレイリヒトは上手くサポートしてくれた。


サイラス様の元では王子とグレイリヒトはもう魔法陣を生成して物に付与する段階に差し掛かっていたが、わたしとマティアスはまだ魔法陣を生成するところで躓いていた。わたしも少しは魔力操作に慣れてきたと思ったけれどまだまだなんだよね…。


ラッセル様の元ではラッセル様vs王子、グレイリヒト、マティアスパーティーの対戦が主だった。

前衛が王子とマティアス、後衛がグレイリヒト、中々いいバランスなんだけどたった一人のラッセル様には敵わない。

負ける度、ああでもない、こうでもない、ああしよう、こうしようと話し合う姿を見ていると王子も変わったなあと思う。

一時はどうなる事かと思ったけれど、同年代の子供と楽しそうに過ごしている王子を見ると一緒に遊ぶ友達ができてよかったと思う。


そんな何事もなく平和に過ごしていた頃、王城でお仕事をしているお父様から執務室へのお呼び出しがあった。





「先日セラトリア領で大雨が降り、土砂崩れが起き、川が氾濫し、周辺の村がのまれたらしい。私はすぐに領地に向かう、被害状況によってしばらく帰って来れぬかもしれん」

セラトリア領は水の都とも称される美しい街だが、その水源のある山付近の村が川の氾濫で壊滅状態にあるらしい。

「お父様、わたしも行きます!わたしにも出来る事があれば何かしたいのです!」

わたしには前世の知識がある。少しでも役に立てるはずだ。

「駄目だ、子供の遊びではないのだ、お前を連れて行くわけにはいかぬ」

子供…そうだ、今のわたしはただの子供だ。むしろ被災地で邪魔になるだけのただの子供。

貴族なのに領民が苦しんでいる時に何も出来ないただの子供だ。


何も出来ない自分が悔しくて唇を嚙み締めた。

「公爵が連れて行かないなら俺が連れて行こう」

「「殿下!?」」

王子、いつからいたのだろう?お父様も気付いていなかったようで親子そろって驚いた。

「俺もこの国の王太子としてセラトリア領の被害状況が気になるからな、報告と実際自分の目で見るのでは違うかも知れん。俺の婚約者として視察に同行するか、アリアーシュ」

まさかの王子からの援護射撃。


お父様ごめんなさい。

「はい、殿下の視察に同行させていただきたく存じます」

「アリアーシュ!!」

「公爵、状況把握の視察だけだ。公爵の邪魔はしない。視察が終わればすぐ連れ帰る」

王子にこうまで言われてしまえばお父様も了承せざるを得ない。

「畏まりました。殿下がそこまで仰られるのであればこれ以上引き止めは致しません」


こうしてわたしは王子と一緒にセラトリア領に向かう事となった。


◇◇◇◇◇


王都からセラトリア領まで、何事もなければ馬車で三日で着く。

先に出たお父様はうちの騎士団を連れて馬で向かったから二日で着くだろう。


セラトリア領まで道がどうなっているか分からない、なので計画では初日は距離を稼ごうとフェフィニア領のアーギスまで行くことになった。

フェフィニア領はフェフィニア侯爵が治める領地でペルダナグ王国で五番目に大きな領だ。

その中心地アーギスには王侯貴族御用達の宿泊施設があり、わたしたちはそこで一泊する事になっている。


「ここがアーギス…」

わたしは王都から出たことがない。アリアーシュの記憶も幼い頃から王都暮らしだった為、王子の婚約者に決まるまで年に一度帰っていたセラトリア領以外の記憶が薄い。

アーギスの街は王侯貴族御用達の宿があるくらいには栄えており、活気があった。

「今日は少し無理をしたから疲れていないか?」

「はい、大丈夫です」

馬車は宿屋の前で止まり、王子にエスコートされ馬車を降りた。

王子の視察には騎士団の他にルリア他わたしのメイド、王子のメイド、護衛のエルドレッド、側近のグレイリヒト、見習いのマティアスも同行し大所帯だった。

王子が視察するとなるとそうなるのね。アリアーシュの知識では分かっていても長年の庶民の感覚がなかなか抜けない。

そして宿屋を見てやっぱり驚いた。


宿屋は王侯貴族御用達だけあり大きな貴族の邸くらい大きかった。これが宿屋…という呟きを飲み込んだわたしを褒めてほしい。

わたしと王子は二階の奥の部屋に通された。まず部屋に入るとくつろげる大きなソファがありテーブルには果物が置かれていた。たぶんここがリビングなんだろう。

わたしたちがソファに座るとウエルカムドリンクが運ばれてきた。良く冷えた果実水が喉を潤す、知らず知らずに気を張っていたのだろう緊張がほぐれどっと疲れが込み上げてきた。

「夕食まで時間がある、少し休むか?」

わたしの様子に気付いた王子が優しく声を掛けてくれた。

そう言えばわたしまだ今回のお礼を王子に言っていない。言ってないんだけど…。

「アリアーシュ?」

疲労感に逆らえず、わたしは意識を手放した。


「……ゅ…………アー…ュ……」

んん…

誰か呼んでる?

ぼんやりと目を覚ますも体が怠い。まだ起きたくない。

「アリアーシュ、目覚めたか?夕食の時間だが食べれそうか?」

王子がサラリとわたしの前髪を撫でた。

王子がいる…これは夢だな。王子と夕食だって、どんな夢よ…

夢と現実の区別がついていないわたしは起きているつもりでもう一度目を閉じた。

「寝た…のか?少し無理をさせ過ぎたか、アリアーシュが起きたら食べれるようにしておいてくれ」

王子と一緒に居る時間が長くなったからかな?夢にまで王子が出てくるなんて。

不思議だな、夢で逢ったのに夢じゃなく現実で王子に会いたいって思えてくる。

ホント…不思議……




ここはどこだろう…。

目を覚ますと見たこともない部屋で眠っていた。広い部屋にベッドとサイドテーブルしか置かれていないこの部屋は寝室なのだろう。

ああ、そうだ、被災したセラトリア領に向かうため王子の視察に付いてきていたんだった。

それで早朝から馬車に揺られ疲労困憊で宿屋に着くなり眠ってしまったんだ。


ルリアを呼ぼうとベルを探したがベルがない。これは呼べばいいのかな?

わたしがルリアを呼ぼうとした時、丁度部屋のドアが開いた。


え…

えええええええええええええええええええええええええええ!?


「ででででで殿下!?」

「起きたのか、アリアーシュ」


濡れた髪をタオルで拭きながら王子が入ってきた。

恰好からしてきっとお風呂上がりだ。


え?なんで?この寝室わたしの寝室じゃないの?わたしが王子の寝室で寝ていたの?

王子が寝るならとにかくわたしは出て行かなきゃ…。

「申し訳ございません!!すぐに出て行きますので」

「待て、どこに行く」

「自分の部屋ですけど…」

「お前の部屋はここだぞ」

………………

……………

…………

………

……


は?

ここ?

今、王子はここと仰いましたか?


いやいやいやいや。

婚約者とはいえ未婚の男女が寝所を共にするというのは如何なものでしょうか?

王族にとってはこれが普通なんでしょうか?


落ち着いて、落ち着いてわたし。

王子はまだ子供よ、一緒に寝る事に他意はないはず。

わたしが意識しちゃダメ、ここは平然と、何でもないように振舞わなくては…。


「ああ…すまない。お前は俺が苦手だったんだよな、俺は隣の部屋のソファで眠るからアリアーシュはここを使え」

「いえ、いけません!殿下がこちらをお使いください!わたくしでしたらソファで大丈夫ですので」

「お前をソファで寝かせるわけないだろう」

「殿下をソファで眠らせるわけにはいきません」

王子の言う事は聞かなきゃきけない、だけど聞ける事と聞けない事がある。


お互い譲らずどちらがベッドを使うかで揉めていると

ぐぅ~~~~~~~

わたしのお腹の虫が鳴いた。そして絶対王子に聞かれた!!

もう!タイミング!!空気読んで私のお腹!!

恥ずかしい、泣きたい、消えたい…。


「夕飯…食べるか?」

「え?」

「アリアーシュが起きたら食べれるようにしてある」

王子…いい子…

王子は時々こうやってわたしを感動させてくれる。

「い…いただきます」


王子がメイドたちを呼び部屋に夕食が運ばれてきた。

夕食と呼ぶには遅い時間の食事なのであまり量はいらないと行ったところ、パンとサラダとお肉をとろとろになるまで煮込んだシチューの様なものとカットフルーツが用意された。


王子の分も。

王子…先に夕飯食べたんじゃないの?王子もお腹空いたのかな?食べ盛りだもんね?

まさかわたしが起きるまで待ってたなんてことないよね?

それはわたし…そこまで自惚れてはないですよ。


自惚れてはないけど、一人でご飯を食べるのは味気ないので王子が一緒に食べてくれるのが嬉しかった。

「美味いな」

王子も言葉通り美味しそうに食べていた。

「アリアーシュと一緒の食事は美味い。待っててよかったよ」

「わたくしが起きるのを待ってて下さったんですか!?」

驚いた、まさか本当に待っててくれていたなんて。

「あ、ありがとう存じます」

やだ、ちょっと嬉しい…いや…かなり嬉しい…かも…。


でも待って、王子も食べてなかったのにわたしのお腹が鳴るってどういう事?

淑女失格じゃない。でも王妃教育ではお腹が鳴らない方法なんて教えてくれないし、今後あるかないかわからないけれど、長旅の時はクッキーとかマドレーヌとかちょっとしたものを忍ばせて行こう…。


王子と遅い目の夕食を取った後、わたしはメイドを呼んで入浴準備をしてもらった。

王子には先にベッドで休んでもらうように言ったけどきっと聞いてもらえてないだろうな。

ホント、変な所で頑固なんだから。


さすが王侯貴族御用達のお宿。わたしと王子の部屋にはお風呂が付いている。部屋についているお風呂なのでそこまで大きくはないが大人が二人くらい余裕で入れそうなほど広い。

わたしはもちろん一人で入れるのだが、連れてきたメイドを遊ばせるな、とルリアに言われ髪だけ洗ってもらった。

入浴後の肌と髪のケアも丹念に施され、旅の途中だというのに艶々プルプルもちもちだ。

さて、どうやって王子をベッドで寝かせようかな?


わたしが浴室とリビングが繋がるドアを開けるとやはり王子はソファで寛いでいた。

しかし、わたしはもう王子と不毛なやり取りをするつもりはない。

わたしは王子の前に手を差し出した。

「殿下、寝室までエスコートしてくださいませんか?」

お読みいただきありがとうございます♡♡♡


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大変励みになります(*ノωノ)

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