ep.50 悪魔の侯爵
体から煙を出しながら、プーパとビベレは地面に座り込んでいる。
結局あの後、二匹は追加で三回ほど雷に打たれていた。
反省の色が見えないプーパと、共同責任で打たれ続けるビベレ。
流石に限界を迎えたのか、ぐったりした二匹を監視しながら、燕はミントと連絡を取り合っている。
「どうだった?」
「上に確認中だって」
「はっ。どうせ結果は分かりきってんのにな。核を破壊して消滅させる。それしかないだろ」
時雨の言葉を聞いて、プーパとビベレが互いにくっつきながら震えている。
「もう少しの辛抱だよ。連絡が来たらすぐに済ませて、みんなでアパートに帰ろう」
「そりゃ無理な話だと思うぜ?」
唐突に響いた声と、その場に充満する禍々しい気配。
空間を割いて現れた手が、燕に向かって伸ばされるのを目にした瞬間──思わず飛び出していた。
「おっと」
「燕!」
燕を抱えて地面に倒れ込む。
時雨が燕の名前を呼んだのと、ほぼ同時の出来事だった。
腕の辺りに痛みが走る。
目を向けると、破れたローブから流れてくる赤い液体が見えた。
「おいおい、危ねぇな嬢ちゃん。もし俺様が攻撃を逸らしてなかったら、そんな怪我じゃ済まなかったぞ」
「睦月ちゃん、腕が……っ!」
「このくらい大丈夫」
褐色の肌にくすんだ白髪。
初めて見るその悪魔は、以前出会った悪魔よりもさらに壮絶な空気を放っている。
愉快そうな顔でこちらを眺める悪魔の目を、私はしっかりと見返した。
「へえ。嬢ちゃんは新人の死神って聞いてたんだがな。意外と根性あるじゃねぇか」
「それはどうも」
今にも飛び出していきそうな時雨を腕で制し、悪魔の挙動を注視する。
先ほど燕がいた場所には、鋭い槍のようなものがいくつも突き刺さっていた。
おそらく、その一つが腕を抉ったのだろう。
「あ、貴方様は……!」
「こうしゃくさま!」
「よおプーパ。お前の失態で、レインが黒焦げになってたぞ」
「はわ……! ごしゅじんが、くろこげに……!」
どうやら、プーパとあの悪魔は知り合いだったらしい。
呆れた顔で話す悪魔に、プーパはしょんぼりと俯いている。
「侯爵ってことは、かなりの高位悪魔じゃねぇか。しかもあの気配……」
「……だね。暗黒将の悪魔だと思う」
「暗黒将?」
今の状況が極めて悪いことは分かっていた。
少しも気の抜けない空気が漂う中、時雨が悪魔から目を離すことなく、私の問いかけに答えてくれる。
「魔王の次に力のある悪魔たちのことだ。全部で六将いる」
「正解だぜ小僧。当てた褒美に教えてやるよ。俺様の名はアヴァリー。魔王様に最も近く仕える悪魔であり、侯爵の位を持つ悪魔でもある」
アヴァリーはそのまま地面に降り立つと、こちらを見下ろしながら話しかけてきた。
「で、だ。俺様は回りくどいのが嫌いでな。簡潔に話してやるから、よーく聞いとけよ」
こちらを見るアヴァリーの目には、間違いなく私が映っている。
つまり、この悪魔の狙いは──。
「そこにいる死神の嬢ちゃんを、魔界へ連れていく。俺様がここに来た目的はそれだけだ」




