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死神の猫  作者: 十三番目
第二招 Second Voice 真実は裏返る
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ep.48 恋のいざこざ ー Ⅰ / Ⅱ


「体中が痛い……」


「お疲れ〜。今日はここまでにしておこうか」


 ぐったりとテーブルに突っ伏した威吹(いぶき)の肩を叩くと、明鷹(あきたか)は自身のモニターで何かを確認している。


「そういえば、霜月がこっちに戻ってきてるんだけどさ。今回は睦月ちゃんと別行動みたいなんだよね。威吹は何か聞いてたりしない?」


「いえ、特に何も。というより、戻ってきてるのも今知りました」


「あー、うん。そっか。そうだよね。……ゴメン」


 気まずそうな顔で謝ってくる明鷹に、威吹は慌てた様子で手を振った。


「いつものことですし、俺も気にしてないんで!」


「威吹ってさ……、ほんと良い子だよね」


 感動で目頭を抑えた明鷹は、「他の隊員もこんな感じだったらなぁ〜」などと呟いている。

 しかし突然、何かを(ひらめ)いた顔になると、威吹に向けてにっこりと笑みを浮かべてきた。


「せっかくだし、会いにいってきたら?」


「え? それは、その……霜月にってことですか?」


「そーそー」


 威吹の表情が明るくなっていく。


「あの、俺! 今から行ってきます!」


「帰りはそのまま退勤していいからね〜」


 勢いよく頭を下げると、そのまま駆け出していく威吹を見て、明鷹は小さく笑みを浮かべた。


「若いねぇ」


 さっきまで疲れ果てていたのが嘘のように、威吹の後ろ姿はあっという間に視界から消え去っていった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 情報管理課の空間(エリア)にある一室を、リーネアは急いで飛び出した。

 珍しい死神の来訪に、情報管理課では様々な(うわさ)が飛び交っている。


 けれど、今のリーネアにそんなことを気にする余裕はなかった。

 ただ来訪者に会いたい一心で、入り口付近の空間(エリア)へと駆け込む。


「霜月くん!」


 名前を呼びながら近寄るリーネアに、同じ所属課の死神たちがぎょっとした表情を浮かべている。


「久しぶり。元気にしてた?」


「……」


 頬を紅潮(こうちょう)させ話しかけるリーネアに対し、霜月は無言で、そちらを見る気配さえも感じられない。


 興味がないというより、まるでそこに居ないかのような態度を取る霜月に、周囲の死神からはやっぱり……という空気が流れていく。


「あの……、霜月くん?」


 周りの様子には気づいていないのだろう。

 さらに話しかけようとするリーネアを、同僚の死神が止めようとした時だった。


「おーい! 霜月!」


 その場に、明るい声が響き渡る。

 風のように駆け寄ってきた威吹は、霜月を見るなり満面の笑みを浮かべた。


「久しぶり! ってほどでもないか。元気にしてた?」


「……」


 無言な点は変わらないものの、見たら分かるだろと言わんばかりの霜月の態度に、周りの死神から驚いた声が上がっていく。


 ほとんどの死神がリーネアのような反応をされる中、威吹に向ける態度がいかに珍しいものか。

 ニューフェイスの登場に、情報管理課の面々は固唾(かたず)を呑んで見守っていた。


「そういえば、霜月はここで何してんの?」


「ミントを待ってる」


「え? 待ってるって……」


 霜月の視線の先を辿(たど)った威吹は、専用ルームと書かれた部屋の扉に、プレートが出ているのを目にした。


「作業中。絶対に開けるな……ミント」


 思わず口に出して読み上げた威吹だったが、それで大体の事情は把握できたらしい。


「じゃあさ、終わるまで一緒に待っててもいい?」


「……好きにしろ」


 霜月が許可したことにより、周囲で大きなどよめきが起こった。


「あの死神、どこの所属?」


「新しく特別警備課に入った死神がいるって聞いたけど」


「たしかに見た目の特徴も一致するな……」


 口々に話し始めた情報管理課の面々は、新たな話のネタに浮き足立っているようだ。

 威吹を観察しながら、情報網を駆使(くし)している。


「ぐすっ……」


「へ?」


 すぐ近くで聞こえた泣き声に、威吹は声のする方へ視線を下ろした。

 霜月を挟んだ向こう側で、小刻みに震えるリーネアが立っている。


「あー、えっと。久しぶりだなリーネア。候補生以来か?」

 

「……っ、ううう〜」


「ええー!?」


 泣き出してしまったリーネアに、威吹は慌てて謝罪をした。


「ごめんリーネア! まじで気づいてなくてさ。ほんとにごめん!」


「……ぐすっ。いえ、いいんです……。私の方こそすみません……」


 ひとまずは泣き止んだリーネアを見て、威吹の口から安堵(あんど)のため息が漏れる。


 

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