ep.44 天使たちの憂慮
「現世に、不可解な行動をとる悪魔が現れたらしい」
「え〜! 今日のお仕事はもう終わりでしょ? まさか行くなんて言わないよね?」
「指示は来ていないから、その必要はないだろう」
「だよねー。良かったぁ」
上空に浮かぶ二つの人影。
彼らの背中には、それぞれ一対の翼が生えている。
「にしても、悪魔ってほんと見た目のバリエーション多いよねー。ま、あたしは主様と似た姿の方が、絶対に良いんだけど」
「魔界の王は、純粋な神というより邪神に近いからな。絶対的な主を持たない世界だと、姿形も自由になるんだろう」
ツインテールの髪を揺らしながら、指を双眼鏡のようにして覗き込んでいた天使は、「やっぱ天界が一番だよねー」などと呟いている。
隣では、凛とした顔立ちの天使が、「全くその通りだな」と頷いていた。
突然、指の輪を覗き込んでいた天使から、息を呑む音が聞こえる。
「……ユーリ。悪魔と一緒に、死神がいる」
「死神が悪魔といるのは、そう珍しい光景でもないだろう?」
何せ、死神は悪魔の天敵だ。
死後の魂を管理する死神に対し、悪魔はそれを狙う邪魔者。
魂を巡って両者がぶつかる光景も、現世では度々見られている。
しかし、ユーリの言葉には答えず、ツインテールの天使は真剣な顔つきで覗き続けたままだ。
相棒のそんな姿に、ユーリも何か異変が起きていると察したらしい。
「リリー。まずは天官庁に戻ろう。あそこなら、誰か対応できる方がいらっしゃるかもしれない」
「たしか今日は、天日様と暁光様が来られてるって聞いてた気が……」
「太陽を冠する方々に指示を仰ぐのは分不相応なのだが……。そうも言っていられる状況ではなさそうだな」
ただでさえ、今の死界は信用ならない部分が多い。
あの愚かな行いが起きた日以降、死界の多くは穢されてしまったのだから。
死神側の問題であっても、後々大きなリスクに繋がる可能性は否めないだろう。
互いに頷き合った二柱の天使は、翼を広げると、そのまま空の中へ溶けるように消え去っていった。