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死神の猫  作者: 十三番目
第二招 Second Voice 真実は裏返る
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ep.42 偶然の作戦


 ほのかに柔軟剤の香りがするぬいぐるみは、おそらくあの少女が落としていったものだろう。

 少女を追いかけてみたが、それらしき人影は見当たらない。


「これ、どうしようかな」


 落とし物として預ける手もあるが、止めておいた方が良さそうだ。

 見た目はぬいぐるみだが、まるで呪いのように禍々(まがまが)しい気配が(にじ)み出ている。


 不思議なのは、これを落とした少女が()()()()()だったということだ。


「どこかで焼却とか──」


「ぶれいもの!」


 お()き上げ感覚で呟いた独り言に、誰かの声が重なる。


「おろかなむすめめ! ぷーぱをだれだとおもっているんですか!」


「プーパじゃないの?」


「いかにも! ぷーぱはいだいなるあくまはくしゃく、れいんさまにおつかえするゆうしゅうな……」


 誇らしげに語っていたプーパだが、途中で何かに気づいたように声が小さくなっていく。

 少しずつこちらに移動してくる視線は、プーパの心情を表しているかのようだ。


 互いの視線がかち合ったことで、気のせいではないと分かったらしい。

 プーパは半ばやけくそな態度で、再びこちらに向かって話しかけてきた。


「どうやらぷーぱのこえがきこえているようですね! ぎたいはかんぺきだったはずなのですが……まあいいでしょう。いいですかむすめよ! いまからいうことをよくきくのです!」


 舌ったらずで幼い声だが、話す言葉は随分と立派だ。

 黙って聞いていると、プーパは奥にある人通りの少ない道を指してきた。


「ぷーぱをあそこまでつれていくのです! わかりましたか? わかったならはやくむかうのです!」


 とうとう手まで動かし始めたプーパに、ぬいぐるみのふりはいいのだろうかという気持ちになる。

 周りにはまだ人が行き交っている上、もし見られでもしたら良くない気もするのだが。


「まわりのにんげんはしんぱいいりません。ぷーぱがなにをしようと、いまはぎたいのこうかでただのぬいぐるみにしかみえないはずですからね!」


「話したり動いたりしても、認知されないってこと?」


「そのとおりです! ぷーぱはゆうしゅうなので、げんせでのにんむもよくまかされるのですよ!」


 確かに、すれ違う人たちがプーパの方を気にする様子は見られない。

 私と目が合った人たちも、すぐに視線を逸らすか、顔の色を赤く変えるくらいだ。


 多分、ぬいぐるみに話しかけるおかしな人間だとでも思われているのだろう。

 えへんと胸を張っていたプーパは、「さあはやくむかうのです!」と急かしてくる。


 どうしたものかと考える私の背後で、名前を呼ぶ声が聞こえた。


「睦月ちゃん!」


 人だかりの隙間をぬいながら、こちらに駆けてくる燕の姿。

 その後ろには、同じように駆けてくる時雨の姿も見える。


「ちっ、もうばれましたか。しかたないですね。びべれ! ぷらんびーでいきますよ!」


「了解ですプーパ様!」


 突然、上から何かが降ってきた。

 人間の何十倍もありそうなサイズの蛇が、口を開いた状態で落ちてくる。


 巨大な蛇は、私とプーパを丸呑(まるの)みにすると、そのまま体内に送り込んだ。

 燕の叫ぶような声が聞こえたのを最後に、私は真っ暗な場所へと落ちていった。


 

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