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死神の猫  作者: 十三番目
第二招 Second Voice 真実は裏返る
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ep.40 過去の傷跡


 死神には元となる魂がある。

 死後の魂は閻魔(えんま)が管理する選別所へと送られるが、中には死神が気に入った魂を自分の部下として推薦(すいせん)する事もあるらしい。


 上からの許可が下りれば、候補生やスカウト枠として、そのまま死界で過ごすことになるのだろうが──。


「こんなこと言われてもびっくりするわよね。でも、(つばめ)がすぐに懐いたことといい、睦月ちゃんには他の死神とは違う、何か特別なものを感じるの」


 私自身、初めて会う死神が好意的に接してくるのを、疑問に思わなかったわけではない。

 ただ、答えを探したところで、今の私には知り得ないことだと分かっていただけだ。


「燕の言動が気に触ることもあるかもしれないわ。だけど、どうか大目に見てやってほしいの」


 大切なのだろう。

 律が燕を思う気持ちには、親や姉のような感情が混じっている。


「燕は、私と家族のようになりたいんでしょうか」


「はっきりとは言えないけど、あたしはそうじゃないかと思ってる」


 私から見た律たちの関係は、家族だと言っても差し支えないほどだ。

 それはきっと、燕自身も感じているはず。


 ──燕が私に求めているのは、本当に「家族のように接すること」なのだろうか。

 

「睦月ちゃん。燕のことをよろしく頼むわね」


 そう言って微笑んだ律は、まるで母親のように優しい表情をしていた。



 

 ◆ ◆ ◇ ◇




「ここ全部、睦月ちゃん家の所有物(もの)なの?」


 燕の驚く声が響く。

 神楽(かぐら)神楽(しがらき)も古くから続く家なだけあって、各地に所有する土地や物件の数が異様に多いのだ。


「でかい家のお嬢様が、自分でこんなことしなきゃいけねぇの?」


「管理の仕事をしてた人が首になったからね。一時的な穴埋めとしてやってる感じかな」


「ふーん」


 臨時の作業員として、神楽(しがらき)が持つ物件の管理に来ているのだが、これでも都内の一部を回っているに過ぎない。


 他の場所に関してはそれぞれ別の担当者がいるため、そこまで時間はかからないはずだ。

 これが終われば、約束通り燕たちと出かける予定になっている。


「なんで首になっちゃったの?」


「おい、燕」


「口が軽い上に、頭も軽かったからかな」


「なるほど!」


 燕の質問を時雨が止めようとしていたが、聞かれて困ることでもなかったため、そのまま理由を話しておいた。

 納得した様子で頷く燕は、とても純粋なのだろう。


 死神として仕事をしているところが、あまり想像できないくらいだ。


「人なんて、口も軽けりゃ嘘もつく。そんなもんだろ」


 ぽつりと呟いた時雨の表情は、反対を向いていて分からない。

 けれど、その声にはどこか……深海のような暗さが(ひそ)んでいるように感じた。




 ◆ ◆ ◆ ◇




「プーパさま!」


「いきなりなんですかびべれ。そうぞうしいですよ」


 急に大声を上げたビベレに、プーパは面倒そうな返事をしている。


「あの娘が外に出ています! しかも、例の死神は近くに居ないようです!」


「それはほんとうですか!」


 一気に目の輝きを取り戻したプーパは、喜びから踊り出しそうな勢いだ。

 ついに、待ち望んだ機会がやってきた。 


「すぐにじゅんびしますよびべれ!」


「はい、プーパ様!」


 意気揚々(いきようよう)と部屋から飛び出したプーパを、ビベレもすぐさま追っていく。

 誰も居なくなった部屋には、柔軟剤の匂いがほのかに香っているだけだった。


 

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