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死神の猫  作者: 十三番目
第二招 Second Voice 真実は裏返る
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ep.38 好きな人


「改めまして、Ⅴ号室に住んでいるリブラです。睦月さんがⅡ号室なので、ちょうど上の階に当たりますね」


 ぽーっとした表情で話しかけてくるリブラは、周りに花でも舞っていそうな雰囲気だ。

 リブラの要望により、急遽(きゅうきょ)行われた席替え。


 真っ先に正面を希望したリブラに対し、時雨(しぐれ)が選んだのは私の隣だった。

 意外な選択に時雨の方を見るも、「リブラの横だけは嫌なんで……」と言いながら目を逸らした時雨の姿に、(つばめ)が小さく笑みを溢していた。


 リブラの隣には燕が座り、律は私とリブラの間、いわば上座の部分に座っている。


「ほら、冷める前に食べるわよ」


「はーい」


 燕が元気よく声を上げる。

 温かい手料理に、先程まではなかったはずの食欲が湧いてくるのを感じた。


「そういえばリブラ。今回はいつまで居るつもりなの?」


「んー。とりあえず、しばらくは居ようかなぁと思ってるよ」


「決まった期間はないってことね」


 こちらを見たリブラと目が合う。

 にっこりと笑いかけてきたリブラは、「そういうことになるかな〜」なんて返事をしている。


「ほんと、一度決めたら譲らないんだから。困ったものだわ」


「どの道、あいつが帰ってくるまでの話だろ」


「まあまあ、その話は後でもいいじゃない! 食事は美味しく食べなくちゃ」


 リブラの言葉に、時雨は誰のせいだと言わんばかりの顔をしていたが、律は折れることにしたようだった。


「そうね、この話はまた後でにしましょう。せっかく睦月ちゃんが来てくれたんだもの。色々とお話しするチャンスだわ」


「はいはい! おれ、睦月ちゃんに聞きたい事があります!」


 勢いよく手を上げた燕が、こちらを見てキラキラと目を輝かせている。

 期待に満ちた輝きに、答えられることならと返すと、燕は嬉しそうに口を開いた。


「睦月ちゃんは、好きな人がいますか?」


「ぶっ」


 唐突な質問に、時雨の口から水が吹き出した。

 向かいでは、リブラが固唾を()んで見守っている。


「好きな人……っていうのは、恋愛としてってこと?」


 もしかしたら意味合いが違うかもしれない。

 そう思い確認してみるも、燕はその通りだと言うように、大きく頷いている。


 好きな人、か。

 正直、誰かに恋愛感情を抱いたことがないため分からない、と言うのが答えだ。


 いや、そもそも人に特別な感情を抱いたこと自体ないのかもしれない。

 両親に対する思いはあったし、陽向(ひなた)にも少なからず情と呼ばれるものは持っているのだろう。


 だけど、それだけだ。

 ──恋愛感情が何かさえ、私はよく分かっていない。


「睦月ちゃん?」


 思考が現実へと引き戻されていく。

 心配そうにこちらを見る燕が、柔らかく色付いている。

 いつからだろう。

 こんなにも視界が、色鮮やかに戻ったのは──。


「好きな人は、いないかな」


 あの日からだ。

 上司が突然、やってきた日。

 死神(かれら)と出会ったあの日から、私の世界は急速に色を取り戻し始めた。


「そうなんだ!」


 嬉しそうに笑う燕の横で、リブラがほっと息を吐くのが見えた。

 隣では時雨が、何か言いたそうな顔でこちらを見ている。


「じゃあさ、一つお願いがあるんだけど……」


「お願い?」


 躊躇(ためら)う燕の姿に、どんなお願いかと首を傾げる。

 意を決した様子でこちらを見た燕は、はっきりした声で願いを口にした。


「おれと時雨と三人で、デートしてほしいんだ!」


 

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