表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の猫  作者: 十三番目
第二招 Second Voice 真実は裏返る
76/223

ep.33 陰る雨夜


 返事はなかったが、ビベレは確信していた。

 この猫は死神だ。

 それも、新人などとは程遠い力を持っている。


 何故あの娘の近くに、このような死神がいるのか。

 尾をびたびたと動かしながら、ビベレは必死で考えていた。

 何とかしてここから抜け出さなければ。

 そう思ってはいても、体に爪が食い込み、下手に動くことができない。


 黒猫の姿をしているのは、おそらくこの死神の能力なのだろう。 

 死神は、彼らの王に(なら)い人型を取っている。


 悪魔とは異なり、元の魂が人であれ動物であれ、死神は自らの主と近い姿を取りたがる(さが)なのだ。


「こほん。そこの死神、聞こえていますか? 聞こえているなら、今すぐそこから退()くように」


 消すつもりであれば、とっくに行動しているはず。

 しかし、この死神は未だ、ビベレを拘束する以外の行動はとっていない。


 気を取り直し声をかけたビベレだったが、押さえつける力は少しも変わらない。

 とにかく、視察は失敗だ。

 ここから離脱するためには、拘束をなんとかする必要がある。


 いきなり暴れ始めたビベレに、死神は警戒を強めた。

 外皮に刺さった爪が、ビベレの皮を()いでいく。

 自傷とも取れる行為に、死神の拘束する手が僅かに緩んだ。


 その隙を見逃さず、ビベレは死神の拘束から逃れると、龍のように空へと急上昇した。

 地上を振り返るが、追ってくる気配はない。

 どうやら、あの死神は娘の居る場所を守っていたようだ。


 いや、正確には娘を……だろうか。

 どっと疲れた様子のビベレは、プーパの元へ戻るため空を進んでいく。


 何にせよ、逃げることが出来たのは幸いだった。

 引き裂かれたはずのビベレの体に、傷跡などは見られない。

 急速に外皮を成長させたビベレは、脱皮と共に拘束から抜け出したのだ。


「プーパ様に報告しなければ……」


 レインからの命令を遂行するためには、まずあの死神をなんとかする必要がある。

 においは既に記録した。

 今後、もしあの死神が娘の傍を離れた時は──。


 雨が降りしきる中、ビベレの姿は夜空の向こうへと消え去っていった。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 悪魔がいなくなった後、霜月は睦月の居る部屋に戻ってきた。

 報告を送り終え、睦月の寝顔を静かに見つめる。


 アパートに戻ったら、霜月は少しの間、現世を離れなくてはならなくなる。

 新人(今の立場)を変えるために、死界へ戻る必要があるのだ。


 ほんの一時でさえ離れたくない気持ちになるほど、睦月は霜月にとって特別な存在だった。

 ──それでも、今回は任せるべきなのかもしれない。


 アパートの住民を思い浮かべ、霜月は決意を固めるように瞼を閉じた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ