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死神の猫  作者: 十三番目
第二招 Second Voice 真実は裏返る
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ep.32 夜の攻防


 降りしきる雨の中、細長い影が空を飛んでいく。

 ぐねぐねとした形のそれは、とある家屋の庭園へと降り立った。


「ふう、やっと着きましたか」


 黒い体は雨に濡れ、艶々とした光沢を帯びている。

 蛇の悪魔──ビベレは、舌をチロチロと出しながら、家屋の方を見てため息を()いた。


「プーパ様は雨で外出を嫌がりますし、ここはわたくしが頑張るしかありませんね」


 例の娘が死界から戻った気配に、ビベレとプーパは喜び(いさ)んでいた。

 ビベレはさっそく娘の所へ行こうとプーパを誘ったが、外の天気を見たプーパが、やっぱり今日は止めておこうと態度を一変させたのだ。


 説得を(こころ)みたものの、一度ごね始めたプーパを相手にするのはかなり難しい。

 人形の悪魔であるプーパは、もともと体が濡れるのを極度に嫌がるため、それを知るビベレとしても早々に諦めるよりほかなかった。


 まあとにかく、ビベレは一匹でこの場所へやって来たという訳だ。

 家の方から、人の動く気配は全く感じられない。

 現世に住んでいる以上、娘は実体化しているはずだ。


 もしかして、寝ているのだろうか。

 そう考えたビベレは、じわじわと家の方へ近寄っていく。

 本来、三界の存在に睡眠は必要ないのだが、死神や天使は眠ることで枯渇(こかつ)した力を迅速に補うことができる。


 特に、下位の存在であればなおさらだとも。

 娘が新人の死神だと聞いていたビベレは、喜びからシューシューと音を鳴らす。


 これは好機だ。

 いくら死神が天敵といえど、ビベレは悪魔伯爵レインの優秀な部下である。

 それなりの地位にいる自分が、新人の死神ごときに負けるはずがないのだ。


 とは言え、今回はあくまで視察のようなもの。

 主人が交わした誓約により、ビベレも例に漏れず、娘との関わりを禁じられていた。


 この場合の関わりとは、対象への直接的な接触や、間接的な危害を含んでいる。

 つまりビベレは、娘と遭遇することなく、この視察を終えなければならないのだ。


 寝ているならば好都合。

 壁に体を這わせたビベレは、ぴったりと閉じられた窓の向こうを覗こうとした。


 (はた)から見れば、窓に張り付いた蛇が、頭を懸命に擦り付けている光景だ。

 ビベレが留意している悪魔の威厳というものは、今の姿から微塵(みじん)も感じられなかった。


「ふうむ。これはまるで、窓の向こうに別の領域でもあるかのような──」


 悩むビベレが、再び窓に頭を近づけた瞬間。

 何かが降ってきた。


「ぐえっ!」


 押し潰されたビベレの口から、苦しそうな声が上がる。

 上にいる何かへ視線を向けたビベレの目に、月のように輝く金が映り込んだ。


「ねっ、猫!? さっきまでそんな気配は……!」


 慌てるビベレの体に、鋭い爪が食い込んでいく。

 逃れようにも逃れられない状況。

 ビベレの表情(かお)に、焦りが浮かんできた。


「そこのおまえ! 無礼ですよ! わたくしは伯爵に使えし悪魔です。今すぐそこを退きなさ──」


 ビベレの言葉が不意に止まる。

 そう、ビベレは悪魔だ。

 実体化を取らない悪魔は、現世の生き物には見えない。

 そして、触れられない。


 しかし、ビベレは己の力を以ってしても、自身の上に乗る存在を退かすことができないでいた。

 つまり、それが意味するところは──。


「まさかおまえ……死神!?」


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 首尾よく忍び込めたと思った矢先、運悪く出会ってしまった猫……いや、死神!(゜Д゜)クワッ ビベレさん、これは油断していたかな……(´・ω・`) 窓の向こうを見通せなかった段階で、何か別の…
[良い点] 面白いです、更新ありがとうございます! [一言] 読みながら、色々と伏線や言葉、場面が気になりつつも、「真実は裏返る」のこの章が終わるのを楽しみにしてます♪
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