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死神の猫  作者: 十三番目
第二招 Second Voice 真実は裏返る
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ep.28 上司と能力 ─ Ⅱ / Ⅱ


「臨時的に用意した空間です。この程度なら目をつけられることもないでしょう」


 上司の言葉から推察するに、どうやらここは上司が創った空間らしい。

 全体的にモノトーンで落ち着いた部屋は、シンプルながら洗練された雰囲気が漂っている。


「これも能力の一つなんですか?」


「能力というよりは、神としての権能と言った方が近いかもしれませんね」


 神の権能ならば、死神にも使えていたはずだ。

 だとすれば、他の死神もこうした空間を創り出すことが可能なのだろうか。


「神と言っても、一概に同じではありませんよ。力関係や派閥、出来ることも異なります。それこそ、この宇宙(せかい)に存在する神々には、月とミジンコほどの差がありますからね」


「つまり、死神であってもこうした空間を創るのは難しいということですね」


 ちゃっかりあの時の言葉を使ってくるとは。

 本当に抜け目のない上司だ。


「死神に限らず、創り出す力を持つものはそう多くありません。無から生み出すということは、世界を創ることと同義ですから」


 この場所は、上司が零から創り出した空間だ。

 きっと創造主なんて呼ばれる神は、こうした空間をいとも容易く創ってしまうのだろう。


「じゃあ、現世から死界へ行く時に通る空間と、この空間は別物なんですか?」


「亜空間のことですか。あれは元々ある空間を、能力によって歪めているんですよ。空間同士を繋げたり、収納に使うこともできます。ただし、隠すのには向いていませんがね」


 亜空間は隠すのに向いていない。

 裏を返せば、この空間は()()()()()ということだ。


「現世で朧月(おぼろづき)と会いました」


「そうでしょうね」


「朧月のいた場所とここは……どこか似ている感じがします」


 私の言いたいことを察したのだろう。

 上司は黙ったままこちらを見つめてくる。


「朧月は自分のことを、『月を冠するもの』だと言ってました。それから、上司のことを『新月』と呼んでいました」


 踏み込んだ話をしたつもりだが、上司の様子は変わらないままだ。

 もしかしたら、能力で既に知っていたのかもしれない。

 いったいどこまで未来(さき)が視えているのだろうか。


 考えれば考えるほど、本当に謎の多い上司だ。


「月を冠するものとは、かつて死神王が迎え入れた側近たちのことを指します。それぞれが月にちなんだ敬称を持っており、死神王に次いで力のあるものたちです。名は限られたものしか呼べないので、そう称されているんですよ」


「上司って、王様の側近だったんですか? だからさっきも呼び出しを受けてたとか──」


「いいえ」


 驚きのあまり口を開くも、間髪入れず返ってきた否定の言葉に、思わず目を瞬く。


「でも今……」


 矛盾した話に戸惑う私を見ながら、上司は椅子に腰掛けるよう勧めてきた。

 対面に座ると、少しだけ気持ちが落ち着いたように感じる。


「その話はいずれ知る時が来るでしょう。それよりも、今は優先すべきことがあります」


 真面目な空気に、気を引き締め直す。

 上司が何かを隠すためにこの空間を創ったのだとすれば、少なくとも気楽に聞いていい話ではないはずだ。


「今後のために、こちらを渡しておこうかと思いまして」


 何もない場所に、いきなり書面のようなものが現れた。

 上司は書面を手に取ると、こちらに向けて差し出してくる。


「これ、何ですか?」


 とりあえず受け取ってみるも、これが何なのかさっぱり分からない。

 不思議そうに見つめる私に、上司は笑みを浮かべながら言った。


「誓約書ですよ。睦月と、悪魔に関することが書いてあります」


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 月を冠するものは……かつて死神王が迎え入れた側近…… しかし、上司は側近では無いと言う……(・ω・) 確かに、矛盾をはらんだこの答え。 どうして新月と呼ばれる彼は、側近では無いのか……謎が…
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