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死神の猫  作者: 十三番目
第二招 Second Voice 真実は裏返る
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ep.23 扉の先へ


「着いたよ」


 転幽が案内した先には、以前目にした扉があった。

 開いた隙間から見える光景は、真っ暗に塗り潰されている。


「この中に満月がいるの?」


「暗闇には明かりが必要だからね」


 微笑む転幽を見る限り、どうやら満月は中で待っているようだ。


「転幽は入らないの?」


「わたしはここで睦月の帰りを待ってるよ」


 微笑む転幽に見守られ、扉を開けていく。

 扉の先に広がる暗闇で、小さな灯りが見えた。

 丸く輝く月のような光は、どうやら私を待っているようだ。


「いってらっしゃい」


 後ろから転幽の声がかかる。

 振り向くと、晴れ渡る空のような瞳と視線が絡んだ。


「いってきます」


 その言葉と共に、私は扉の中へと足を踏み出していった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 中に入ってすぐ、地に足が着いたのを感じた。

 どうやら、還口(かえりぐち)の時のように、下に落ちる心配はないようだ。

 光に向かって進むと、光源の中心に満月がいるのが見えた。


「待たせてごめんね、満月」

 

 足に擦り寄った満月は、キラキラした目でこちらを見上げてくる。

 嬉しそうに鳴き声を上げ、頭を押しつけてくる満月に、思わず笑みがこぼれた。


「行こっか。転幽も待ってるし、早めに戻らないとね」


 満月と共に、真っ暗な空間を歩いていく。

 優しい光が足元を照らし、暗闇でも迷うことなく進んでいけた。


 あの日、私の手からすり抜けていった満月の魂は、今もここで輝いている。

 冷たくなった体を抱きしめて、戻ってきて欲しいと何度も願っていた。


 けれど、そんな淡い期待さえ打ち砕くほど、満月の体は冷たく凍りついていた。

 柔らかくてふにゃふにゃで、抱き上げるとここぞとばかりに擦り寄ってくる。


 満月の体温が()みるたび、心までじんわりと色付いていくようだった。

 両親が亡くなってから、初めて幸せだと思えた日々。

 満月にまた会えた嬉しさは、計り知れないほどだ。


 けれど同時に、私の頭には疑問も浮かんでいた。


 なぜ満月は死界に行かず、ここに留まっているのだろうか。

 人間のように多くの業を背負わない動物たちは、死神が回収しなくとも、死後は自然と魂の海へ運ばれていく。


 (まれ)に死神が回収に向かうような魂もあるらしいが、ほとんどの動物は現世に長く留まることすらしないのだという。


「満月はどうして……。ううん、何でもない。もう着きそう?」


 名前を呼ばれこちらを見上げた満月は、一声鳴くと再び前を向き進んでいく。

 突然、辺りが明るくなった。


 見覚えのある景色が目に映り込む。

 辿り着いた場所は、神楽(かぐら)の敷地内にある庭園だった。


「睦月、そろそろ戻っておいで。ご飯の時間よ」


 誰かの呼ぶ声がする。

 聞き覚えのある声に、思わず視線を向けた。


「……お母さん?」


 上品な着物に身を包んだその人は、幼いころ事故でこの世を去ったはずの母だった。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 満月ちゃんとの再会……嬉しそうなその様子は、ずっと睦月ちゃんを待ってたのかな?(´ω`) でも、確かに……どうして死界にいかず、この扉の中にとどまっていたのかな?(・д・) なにか伝えた…
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