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死神の猫  作者: 十三番目
第一生 First Death ちっぽけな少年
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ep.28 ちっぽけな存在


 マンションから運び出された荷物は、話していた通り律が預かってくれた。

 必要な物だけは先に受けとっておいたので、今はパソコンを起動しているところだ。


 前とは違う広々とした部屋を眺め、どこか懐かしい気持ちになる。

 実家の子供部屋も、思えばこのくらいの広さだったかもしれない。


 リビングのドアが開く音に視線を向けると、パーカーに黒いズボンを着た霜月が入ってくる。

 随分とラフな格好になった霜月は、パソコンを打つ私の傍に近寄ってきた。


「麦茶作っておいたけど飲む?」


「飲む」


 速攻で返ってくる答えに、自然と笑みが溢れる。

 お茶を手渡すと、霜月はそのまま隣の椅子に腰掛けた。


現世(こっち)での仕事?」


「そう。とは言っても、家の仕事みたいなものなんだけどね」


 パソコンの画面には神楽(しがらき)の持つ土地や、その土地で管理しなければならない案件がずらりと並んでいる。

 部屋を引っ越したことについて、神楽の家には既に連絡済みだ。


 事情が事情だし、何か言ってくる事もないだろう。

 しかし、厄介なのは神楽(そっち)ではない。


「やっぱり来てたか」


 パソコンのメール画面。

 受信済みの欄に届いている一件のメールを読んで、思わずため息を吐きたくなった。


「霜月。近いうちに、遠出することになると思う」


「着いて行く。何処に行けばいい?」


 迷いなく答える霜月に、離れる選択肢は(はな)からないのだと確信する。


「京都にある、神楽(かぐら)の家に行くつもり」


「神楽?」


 神楽(かぐら)──私の苗字と同じ字が使われている名だ。

 しかし、神楽(かぐら)神楽(しがらき)では、決定的に違うものがある。


「私の苗字である神楽(しがらき)は、分家が持つ苗字の一つでもあるの。それに対して神楽(かぐら)は、本家と呼ばれる家が持つ苗字のこと」


「滞在はするのか?」


「多分、三日ほどは。何とか粘れば、二日でも行けるかもしれないけど……」


 本家に滞在する場合、今の姿では付いてくるのが難しいだろう。


「霜月は、他の動物にもなれたりするの?」


 神楽(かぐら)の家は膨大(ぼうだい)な敷地の中に建っており、辺りの山も私有地として所有しているほどだ。

 敷地内では犬が放し飼いにされており、猫や小動物がよく部屋へと上がり込んでは、勝手に(くつろ)いでいることもある。


 私が動物を連れて行っても、拒否される心配はないだろう。


「睦月と一緒にいれて、なおかつ単独でも行動しやすい動物……」


 呟いた霜月の姿が、一瞬で溶けていく。

 影が伸びるように集まり収縮した場所には、黒く艶々とした毛並みと、緩やかなフォルムを持つ生き物が座っていた。


 黒い生き物から金の月が覗いた瞬間、私の身体はまるで金縛りにでもあったかのように動かなくなった。

 時が止まっているのかと錯覚するような、永い一瞬。


 私の目の前には、あの日失ったはずの満月がいた。




 ◆ ◇ ◇ ◇




 あの日、上司に抱えられた睦月はぐったりとしていて、生きているのかさえ怪しい状態だった。


 無我夢中で紬の元へ連れて行ったはいいものの、それ以上どうする事も出来なくて。

 自分の無力さに、ただ拳を握り締めていた。


 新人という立場は、本来使える能力を抑制し、神としての権能を制限してくる。

 お前はちっぽけな存在なのだと、まるで誰かから言われているようだった。


 新人(このまま)ではいられない。

 現状を打開するためには、それなりのリスクが必要だ。

 でも、それがどうしたというのか。


 ◆ ◆ のためなら、俺はどんな事にも耐えられる。


 見つけると約束したから。


 ──たとえ、何を犠牲にしても。




 第一生 First Death ちっぽけな少年 【完】




 ◆ ◇ ◆ ◇




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


 読者の方々がくださるブックマークや星評価等、どれも本当に嬉しいです。

 皆さまとまた次章でもお会い出来るよう、心から願っております。


 

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