ep.24 サポーター
レトロが漂う服装をした少女は、ゴーグルも相まって、全体的にスチームパンクを彷彿とさせる雰囲気をしている。
上司と呼んでいたこともあり、少女が部下の一人なのは間違いないだろう。
「現世に戻す前に、一度顔合わせをしておこうかと思いまして」
「なるほどねー。てことは、霜月の横にいるのが例の死神ってわけか」
こちらを向いた少女は、私の方へ近寄ると手を差し出してきた。
「あたしはミント。そこにいる上司の部下であり、情報管理課にも所属してる」
「睦月です。情報管理課ってもしかして」
「お、ご明察。今後はあたしらが睦月さんのサポーターになるってわけ。よろしくね!」
ミントは握った手をブンブン振ると、その場から動かないもう一人に向けて声を上げた。
「おーいナツメグ。突っ立ってないで、あんたも早く挨拶しなよ」
ガスマスクを被った死神は、ミントの声に反応してゆっくりと近寄ってくる。
「……ナツメグです。……よろしく」
見た目や声の感じからして、霜月たちよりも少し年上の印象を受けた。
死神の年齢は外見と比例しない場合がほとんどなので、あくまで予想にはなるけれど。
「よろしくお願いします」
「……」
ナツメグに手を差し出すが、どこか困っているような印象を受ける。
手を彷徨わせたままのナツメグを見て、ミントは呆れた様子でため息を吐いた。
「あんた何してんの。それじゃ誤解されるよ?」
「……手袋が」
「だったら聞けばいいでしょ」
ナツメグの煮え切らない態度に、ミントは仕方ないとでも言いたげな顔をしている。
まるで、しっかり者の姉と、どこか頼りない弟のような二人だ。
「あー、睦月さん。ナツメグはちょいと潔癖症でさ。手袋をしたまま握ってもいいか悩んでたみたいなんだ」
確かに、ナツメグの手には手袋がはめられている。
特に気にしてはいなかったが、ナツメグからすれば悩ましい部分があったのだろう。
「そのままで良いですよ」
「……ありがとう」
厚手の手袋に触れるような感覚。
そして、思ったよりも力強く握られた手が印象的だった。
「今後の仕事はあたしらがサポートするからね! 何かあったらいつでも連絡してよ」
歯を見せて笑うミントの姿は、性根の明るさを示しているかのようだ。
ナツメグはどこを見ているか分かりづらいのだが、今は何となくこちらを見ているような気がした。
「ミント、調査の進捗はどうです?」
「あー……それがさ、ちょいと厄介な事になってて」
上司からの問いかけに、ミントは斜め上へ目線を逸らしている。
「まだ分からないなんて、情報管理課という名前は返上した方が良さそうですね」
「そう言わないでよ美火ー。あたしも頑張ってはいるんだよ? ただ、妨害が酷いのなんのって」
「何かと膿の多い課ですからね」
「おお、言うじゃん上司」
一応ここは死局の内部に当たるのだが、色々と危うい発言が飛び交いまくっている。
とはいえ、上司の管理する空間なため、入れる存在は限られているはずだ。
この程度の発言であれば、大丈夫な範囲なのかもしれない。
……たぶん。
「もう現世に戻すの? 霜月も一緒だって聞いたけど」
「急ぎの案件は終わりましたし、本日中には戻す予定でいましたよ」
どうやら、思っていたよりも早く現世に帰れそうだ。
美火の悲しそうな顔には心が痛むけれど、私の家は現世にあるわけで。
仕事も残ったままだし、帰れるなら早めに帰った良いだろう。
というより、帰らないとまずい。
仕事が特殊なだけに、遅れたら厄介なのが分かりきっている。
分家の方ならまだしも、本家の方と関わるのは極力避けたいのだ。
「上司。現世に戻る前に、少し外出許可が欲しい」
「おや、何処へ行くつもりです?」
「威吹の店に行く」
威吹の店と言うことは、約束していたオーダーメイドの服を作りに行くのだろう。
「その程度であれば構いませんよ。戻る際には連絡を入れておいてください」
「分かった」
上司との会話を終えた霜月が、私の手を引いて入口の方に向かっていく。
「わぁお。やっぱ情報通りじゃん、ナツメグ」
「……」
背後からミントの驚いた声が聞こえてくる。
振り返ると、こちらに気づいたミントが大きく手を振ってきた。
「またねー!」
「……」
笑顔で手を振るミントと、小さく会釈したナツメグの姿は、閉まる扉の向こうに消えていった。