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死神の猫  作者: 十三番目
第一生 First Death ちっぽけな少年
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ep.19 選別所の主


 上司と共に選別所へ向かって歩いていく。

 腕に抱えたクリスティーナの魂は不安そうに揺れており、安心させるため(かご)をそっと()でておいた。


 本来なら霜月も付いてきそうな状況ではあるものの、選別所に向かっているのは私と上司の二人だけだ。


「ほんとに良かったんですか? あのまま霜月たちを置いてきてしまって」


「良いんですよ。どうせ平行線にしかならない話ですから」


 まあ確かに。

 霜月が私と現世で暮らす事になって、今度は美火が荒れてしまったのだ。


 (ずる)いと怒る美火に対し、霜月は嬉しさ満開のお花畑みたいな状態で、それを見た美火の火には見事に油が注がれてしまった。


 終わらない攻防に、上司は私だけを連れて、さっさと選別所へ向かう場所に転移してしまったという訳である。


「そう言えば、死局に来る途中で色んな光景を見ました。季節も景色もバラバラで、世界の観光巡りを味わった気分です」


「観光巡りですか。死界(ここ)はあらゆる空間を繋げていますからね。何処までも(めぐ)ると言う意味では、それもまた正しいんでしょう」


 どこまでもめぐる世界か。

 それはまるで、永遠に続く宇宙のような世界だ。


「死神の多くは、どこかの世界で選ばれた魂が元になっています。そう考えれば、ある意味これも一つの配慮と言えるのかもしれませんね」


 私が死神になれた時点で、死神と人間に関する何らかの繋がりは予想していた。

 死神の元になっているのがどこかの世界で選ばれた魂なら、好きな空間を選べる死界は住み心地がいいだろう。


 不意に、腕の中で魂が揺れているのを感じた。


「ティナさん?」


 クリスティーナの魂は、どこかそわそわとした様子で籠の中を揺れ動いている。


「睦月、着きましたよ」


 上司に呼ばれ顔を上げると、目の前に高くそびえ立つ巨大な扉が見えた。

 石で出来ているのか、かなり頑丈そうな造りをしている。

 滑らかな扉の表面には、何かの紋様が彫られているようだ。


「ここが選別所ですか?」


「正確に言えば、ここより先が選別所の空間(エリア)に当たります。(それ)を持ったまま、扉の前に立ってみてください」


 言われるままに扉の前へと進む。


 ぴったりと閉じた扉は、何処から開くのかさえ分からないような造りをしている。

 クリスティーナの魂を手に、黙って扉を見上げていると、突然どこからか声が聞こえてきた。


「これはこれは、よく来たね」


 扉に刻まれた紋様が、いつのまにか目の形に変わっている。

 思わずまじまじと見返してしまったが、それなりに耐性が付いてきたおかげか、すぐに落ち着きを取り戻すことができた。


「驚かせてすまないね。ああ、君も来ていたのか。久しいね、常闇」


「ええ。お久しぶりです、閻魔(えんま)


 閻魔と呼ばれた声は、上司に対して親しげに話しかけている。


「ふふ。君にその名で呼ばれるのは、何だか不思議な感じがするね」


「お互い様ですよ。ここに残る以上、避けようのないことですから」


「そうだね。その通りだ」


 閻魔と上司の会話を黙って聞いていると、扉の目が私に向かって動いてきた。


 紋様が形作る目は、ただの冷たい石の色だ。

 けれど何故か、その目からは慈しむような温かさを感じられた。


「どうぞお入り。常闇が連れてきたということは、君が例の死神だね。会えて嬉しいよ」


 目の前で扉が開いていく。


 重いものが動く音が聞こえ、真ん中から割れるように扉が開かれた。

 扉の向こうには、先の見えない暗闇が広がっている。


「行きますよ」


 上司の後に続き、暗闇の中へと足を踏み入れた。


 塗り潰された視界の端々で、明かりが(とも)っていく。

 宙に浮かぶぼんぼりが、何処かを指し示すようにふわふわと浮かんでいるのが見えた。


 クリスティーナの魂も光を放っており、手に持った銀の籠は、まるで足元を照らす提灯(ちょうちん)代わりのようだ。


「さっきのって……」


「ここの管理者ですよ。選別所は全て、閻魔が管理を行っています」


 上司の言葉に反応したのか、ぼんぼりが強く揺れる。

 導くように揺れるぼんぼりには、それぞれに意思が宿っているのかもしれない。


「あらゆる場所が閻魔の目であり、耳です。ここで起きたことは、全て閻魔に筒抜けだと思った方がいいですよ」


「気をつけます」


 つまり、今この瞬間も閻魔に見られていると言うことだ。

 緊張を抑え込むように、籠を持つ手に力を込めた。


「そんなに緊張することはないよ」


 周りを浮かぶぼんぼりが、一つの場所に向かって集まっていく。

 一際明るく照らされた先には、死界では珍しい白を纏った死神が立っていた。


 顔には面布を付けており、口元以外を綺麗に隠している。

 中性的な声と外見の持ち主は、こちらに向けてゆったりと手を広げた。


「ようこそ、地獄の分かれ道へ」


 

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