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死神の猫  作者: 十三番目
第一生 First Death ちっぽけな少年
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ep.15 悪魔の産声


 連絡先の交換は、手を握るだけでいいのだろうか。

 心なしか顔色の悪い威吹に対して、自分から手を差し出してみた。


 霜月と出会ってから、こうして誰かと触れ合うことが増えたように思う。

 何だか不思議な気持ちだ。


「これで大丈夫?」


「あ、ハイ。助かります」


 手を握ろうとする威吹の顔は、少し緊張しているように見える。

 そして、そんな威吹をじっと見ている美火の目は、何というか瞳孔が開いた猫のようだ。


 満月も獲物を(ねら)う時はあんな感じの目をしていたな……なんて、懐かしさを覚える。

 威吹は軽く手を触れ合わせると、即座に腕を引っ込めていった。


「交換できたみたいです! 睦月さんの方も連絡とか来てますか?」


「あ、うん。大丈夫、来てるよ」


 威吹は安心したように息を吐くと、「怖ぇ……」と小さく呟いている。

 そんなに怖がらなくても、もう揶揄(からか)ったりしないのに。


「これ、印を通して来るのとは違ってるね」


「個人で交換するとそうなるんだ」


 疑問を口にすると、横にいた霜月がすぐさま理由を教えてくれる。


「個人で交換?」


「そう。印を通さずにやり取りが出来るようになる」


「へえ……」


 印を通していた時は、通知が視界の端に出てきたり、音声が響いたりと、明らかにそうと分かるような連絡が来ていたように思う。


 でも今回は、直接頭に降りて来るような、自然と理解に及ぶような、そんな感覚だった。


「少し不思議な感じもするけど、こっちの方が便利というか……何だか自然な感じがするかも」


「あー、昔は印の存在自体なかったみたいですからね。未だにそう感じる死神も結構いるらしいですよ」


 頭の(しん)が冷えていく。

 印がなかった──?

 それはいったい、どういう事なのか。


「そこに突っ立って、何をしているんです?」


 上司が部屋に入って来たことで、思考が中断される。

 開きかけた口を(つぐ)むと、(もや)がかかったような思考に無理やり(ふた)をした。


「別に何でもない」


「おや、私だけ仲間はずれとは悲しいですね」


「元々そうです」


 霜月と美火の返事が、鋭く返されていく。

 しかし、上司は特に気にした様子もなく、こちらに真っ直ぐ近づいてきた。


「今後の事で話しておくことがあります。美火、先に彼を出口まで送ってきてください」


「分かりました。……行きますよ」


 美火は威吹に声をかけ、そのまま部屋の出入り口に向かって歩いて行く。


「ちょ、速っ! 睦月さん! 今日はほんとにごめんな! また店でも埋め合わせするから!」


 後ろ髪を引かれるように話す威吹へ、了承の返事と共に手を振った。


「またね」


「はいまた! あ、霜月! 今更だけど名前おめでとう! 睦月さんと仲良くすんだぞー!」


「言われなくてもする」


 慌てて出て行く威吹を見送ると、そっと手を下ろした。


「行っちゃったね」


「うん」


「寂しい?」


 揶揄(からか)うように覗き込んだ私の顔を見つめ、霜月はふんわりと微笑んだ。


「いや……、もう寂しくない」


 そう言って微笑む霜月に、それ以上の言葉は必要なかった。




 ◆ ◇ ◇ ◇




 魔界にある領地の一角。


 広い領地に建つその城の一室で、何かが声をあげた。

 それは(うめ)き声のようでもあり、何かの産声(うぶごえ)のようにも聞こえる。


「アァ主人。こんな姿にされテ……可哀想ニ」


 よしよしとあやすその姿は、母親と言うには(いささ)(いびつ)だ。


 赤子を抱えたその悪魔──レプリカは、赤子を台の上に乗せると、手を剣に変形させていく。

 そしてそのまま、自らの胸を勢いよく貫いた。


 黒い飛沫(しぶき)が散り、赤子の上から雨のように降りかかっていく。

 レプリカの姿は泥が崩れ落ちるようにだんだんと形を無くし、その場からサラサラと消えていった。


 後に残されたのは、台の上にひとり寂しく置かれた哀れな赤子だけ。

 ──の、はずだった。


「あのクソ野郎。規格外にも程がある」


 そこに立っているのは、一人の男だ。

 赤子の姿は見当たらず、男は台を蹴飛(けと)ばすと、イライラした様子で舌打ちしている。


「あの死神……いったい何なんだ。僕の楽しい時間を台無しにしたあげく、魂まで奪っていきやがった」


 怒りが収まらないのか、男は目に映るものを手当たり次第に破壊していく。


「ごしゅじん! だめですよ、ものにあたっては!」


 舌ったらずな喋り方と、それに見合う幼い声が部屋に響いた。


「プーパ、お前か」


「はいごしゅじん! ぷーぱがやってきましたよ!」


 可愛らしい羊のぬいぐるみが立っている。

 プーパと呼ばれたぬいぐるみは誇らしげに胸をはると、嬉しそうに男へ話しかけた。


「れぷりかをだいしょうとして、もどられたのですね」


「嫌な言い方をするな。アレは元々、そのために作っておいたものだぞ。出来る事なら、使わないに越したことはなかったが……」


 重いため息を吐いた男は、プーパに向けて何かを投げ渡した。


「僕はしばらく(こも)る。削られた魔力の回復と、再度レプリカを作り直しておく必要があるからな」


「それでは、ぷーぱはなにをいたしましょう?」


 首を傾げるぬいぐるみに視線を向けると、男は唇の端を持ち上げ、ニヤリと微笑んだ。


「あの新人の死神……そいつを見つけ出せ。そして、()()を使って必ず、彼女を魔界へと連れて来るんだ。いいな?」


「でもごしゅじん、せいやくしょのそんざいはどうするんですか? ぷーぱたちも、それがあってはちかづくこともできません」


 困り顔のプーパに、男は心配ないとでも言うような表情をした。


「いいか? 偶然の遭遇(そうぐう)は、違反にはならないんだ。つまり、彼女だと知った上で近づかなければ……」


「なるほど! さすがはごしゅじんです! あくまはくしゃくのなは、だてではありませんね!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶプーパに向かって、悪魔伯爵レインは、早く行けと言わんばかりに手を振っている。


「くれぐれも失敗はするなよ。それが使えるのは一度だけだからな」


「わかりましたごしゅじん! このぷーぱにおまかせを!」


 そう言い終わるや否や、プーパの姿はその場からかき消えていった。


 

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