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死神の猫  作者: 十三番目
第一生 First Death ちっぽけな少年
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ep.14 束の間の団欒


「俺もびっくりです。睦月さんと霜月がそんな関係だったなんて」


 霜月に視線を向けた威吹は、相変わらず睦月の方ばかりを見つめる友人の姿に、幻覚かと目を(こす)っていた。


「上司が威吹くんまで連れてきた時は驚いたけど、結果的にこうして会えたわけだし、良かったね霜月」


「うん。それより睦月、怪我は大丈夫か?」


 威吹に関する話を相槌(あいづち)一つで終わらせると、霜月は心配そうな顔で睦月を見ている。

 そして、そんな光景を見ている威吹の背後には、壮大な宇宙が広がっていた。


「何ともないよ。いつのまにか治ってたくらいだし」


 そう言って前髪を上げた睦月のおでこには、確かに傷跡ひとつ見当たらない。


「ほんとだ。綺麗に治ってる」


 驚く威吹をよそに、霜月は静かに傷跡のあった場所を見つめている。


「睦月さんの能力が、治療系統とかの可能性はないんですか?」


 死神の能力は特殊(とくしゅ)だ。

 各々が独自に持っている力であり、特性に(もと)づいて得られるものでもある。


「治療系統だと、紬くんみたいな?」


「紬は治療系統だけど、どちらかと言えば神官よりになると思う」


「神官?」


 神官とは、神に仕え、神の力を以て神事を行う者のことだ。

 医療を担当している紬が、神官だと言われる理由が分からず、睦月は不思議そうな顔をした。


「治療系統にも違いはあって、『自分以外の治療ができる者』と、『自分の治療しか出来ない代わりに、重い負傷でも治せる者』がいる。紬は前者に当たるけど、本人が治せる範囲は中度くらいまでの負傷だ」


「でもそれだと……」


 重度の傷を負った睦月を治療したのは、間違いなく紬のはずだ。

 霜月の話と比較すると、矛盾が生じてしまう。


「睦月の怪我は、本来なら紬の力だけで治すのは難しいものだった。でも、紬が神官なら話は別だ」


 真剣に耳を傾ける睦月を見ながら、霜月は話を続けていく。


「神官の性質を持った死神は、神の権能による力を他よりも多く借りることが出来るんだ。紬はその力を借りる事で、自分の能力を底上げしてる」


「紬くんって実は、すごい死神だったり……?」


 思わず口から溢れた睦月の疑問に、霜月は少し考えるような仕草をした。


「死神としては中位くらいだけど、治療関係で言うなら……かなり」


 ──かなりってどのくらいだよ。


 思わず横からツッコミかけた威吹に対し、睦月は変わらず落ち着いた表情で座っている。

 しかし、おもむろに立ち上がると、何故か入り口の方に向かって歩いていく。


「睦月?」


「紬くんの死を阻止(そし)してくる」


「どういうこと!? 話が飛躍(ひやく)しすぎだって! ちょ、睦月さん止まって!?」


 目の下に(くま)をはりつけ笑う、紬の(はかな)い姿を思い浮かべながら、睦月は部屋の扉へと手をかけた。

 必死で止めようとする威吹の隣で、霜月は睦月の様子をただ見守っている。


「霜月! 見てないでお前も止めろって!」


 威吹からの要請に、霜月は睦月の手を取ると、扉から離すように引いた。


「……睦月。紬の仕事先なら、反対側のドアから行った方が近い」


「ばかやろおおおお!」


 いつも冷静で冷たく、どこか寂し気な友人。


 威吹はこの日、そんな友人を初めてぶん殴りたいと思った。




 ◆ ◇ ◇ ◇




 結局あの後、部屋に入ってきた美火と鉢合(はちあ)わせ、後日みんなで紬の仕事場へ向かう事で合意となった。


 美火は、「紬は見た目より頑丈(がんじょう)なので死にません」と(なぐさ)めてくれていたが、なるべくなら早めに伺いたいものである。


 席に戻り座っていると、運んできた紅茶や茶菓子を置き、何やら期待するような目でこちらを見る美火の姿が映った。


 香り高く透明感のある紅茶に、つまみやすいサイズのお菓子がいくつか。

 見た目からして、とても美味しそうだ。


「美火、これ凄く美味しい。どこで買ったの?」


「その……わたしが、作ったんです」


「え」


 驚きのあまり声が漏れる。


「これ全部、美火が作ったの? お店とか出せそうなくらい、本当にすごく美味しいよ」


「確かに。これマジで美味いです。売りに出したらやばそう」


 威吹も絶賛(ぜっさん)しているが、相当美味しかったのだろう。

 どんどん減っていくお菓子を見て微笑ましくなる。


「ちょっと、食べ過ぎです。それは睦月さんのために作ったんですよ。少しは遠慮してください」


「えっ、そうなの!? ごめん……」


 しょんぼりと手を下ろす威吹に鼻を鳴らすと、美火は私の左隣にぺったりと座ってきた。

 スペースに余裕はあるものの、何故か真横に引っ付いて座る霜月と美火に、上手く身動きが取れなくなっていく。


「睦月さんも大変そうですね……色々と」


「そう?」


 動きずらさはあるが、両手に花だなぁなんて思いながら、内心ゆるっと過ごしていた。

 威吹はたまに、火花がどうとか、修羅場がこうとか呟いている。


 美火を火花に例えるなんて、威吹くんのセンスはとても良さそうだ。


「そういえば、どうして話し方を変えたの? 会った時みたいな感じで話してくれて良いのに」


「いや、まあ、何と言うか……睦月さんだし?」


 ちょっとよく分からない理由だ。

 でも、威吹がそうしたいなら、好きなように話してもらう方が良いのだろう。


「霜月、上司がもうしばらく時間を要すると」


「分かった」


 美火と霜月が淡々(たんたん)と言葉を交わすのが聞こえる。


 ここに着くや(いな)や、上司は「しばらく頼みましたよ」と話しながら、威吹をここに置き捨て、何処かへと去っていった。

 霜月たちの様子を見る限り、仕事関係だったのだろう。


「あ、そうだ睦月さん。服を作る予定もあるし、連絡先の交換とか……してもらえる?」


 恐る恐る聞いてきた威吹に、もちろんだと頷く。


「あの時はごめんね。私が揶揄(からか)ったりしたから」


「いや! 俺もいきなりだったし……」


 威吹の視線がチラチラと彷徨(さまよ)っている。

 視線の向きを見るに、どうやら美火が気になるらしい。


 一つの推測が頭をよぎる。


 なるほど、そういう事だったのか。

 協力は難しいけど、応援はしていよう。


 私は心の中で、威吹に向けてエールを送っておいた。


 

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