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死神の猫  作者: 十三番目
第一生 First Death ちっぽけな少年
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ep.10 泣きっ面に蜂


 またね〜と手を振る紬と別れ、美火について歩いていく。


 道すがら周りを見渡していたのだが、死界(ここ)はとても不思議な場所のようだ。

 さっきまで西洋感があったと思えば、和の(おもむき)があったりと、さまざまな光景を見ることができる。


 色々な造りを一箇所に(まと)めているわけではなく、それぞれの場所を空間で分けて繋いでいる感じ──とでも言えばいいのだろうか。


 要所要所に空間の境目(さかいめ)が存在しており、そこを(また)ぐと、風景がガラリと変わっていくのだ。


 例えば宮殿のような造りの場所を歩いていたと思えば、次の瞬間には日本庭園のような場所に立っている。

 途中で他の死神を見かけることもあったが、驚く様子の死神はおらず、各空間で馴染むように過ごしていた。


 ここが死神たちの住む世界──死界なのだろうか。


「あの、美火さん。質問してもいいですか?」


「美火でいいです。話し方もいつも通りでかまいません」


 食い気味に返されて驚く。

 気遣ってもらえるのはありがたいし、ここは素直に受け取っておこうと思う。


「じゃあお言葉に甘えるね。ありがとう、美火」


 お礼を言うと、美火はこちらを向いて照れたような顔をしたあと、小さく頷いた。


 うん、可愛い。

 頭の中で満点の札が上がっている。


「美火は上司に言われて、私のことを迎えに来たんだよね?」


「そうです」


「美火の上司ってどんな死神なの?」


 美火はこちらを向くと、不可解な顔をした。


「上司は、()()()()()の上司ですよ」


「……ん?」


 いま、私たちって言った?

 混乱する私をよそに、美火は目の前にある境目の前で立ち止まると、真剣な表情で口を開いた。


「ここから先は、死局のある中心部の空間(エリア)です。たまに気性の荒い死神も居るので、睦月さんはわたしの傍から離れないでください」


 とりあえず、離れなければいいんだなと思い頷く。

 美火は僅かに不安そうな様子を見せた後、死局のあるエリアへと入っていった。


 心配しなくても、離れたりしないのに。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 美火を探して三千里。

 

 離れました、見事に。

 離れたというか、はぐれたというか。

 少し前の私よ、美火の言うことはちゃんと聞いておいた方がいいと思います。


 美火の後に続き中心部の空間(エリア)へ入ると、穏やかな空気からどこかピリッとした空気に変わるのが分かった。


 ラフな服装の死神よりも、少しかっちりとした服装の死神が多くなっていく。

 現世ではないからか、ローブをしていない死神も多く見られた。


 そういえば、霜月とオーダーメイドの服について話していた覚えがある。

 ──霜月は今、どこにいるのだろうか。


 そんなことを考えながら歩いていたら、いつのまにか美火が居なくなってました。


 周りを見渡せど、視界に入るのは通りを行き交う死神と、少し離れたところに見える大きな建造物だけだ。

 おそらく、あれが死局なのだろう。


 美火が、「死局の近くまで来たら転移を使いましょう」と言っていたが、その美火とはぐれてしまった訳で。

 色々と詰んでいる。


 紬は死局に勤める死神で、治療も死局内で行なっているらしい。


 本来であれば移動する手間はなかったのだが、緊急のため家で休んでいた紬のもとへ駆け込み、今すぐ治療するよう要求したのはこちらだ。


 知らなかったとは言え、敷地内にある医療空間を閉じながら、「今日からまた出勤だ〜」と呟いていた紬の顔を思い出すと、罪悪感がもの凄く()いてくる。


 話が脱線したが、紬の家から死局へ向かうには、死局内に転移できる場所まで行く必要があったということだ。

 そしてそこまでもう少しという段階で、私が美火とはぐれてしまった──という訳で。


 あまり動きすぎてもすれ違ってしまう可能性がある。

 見つかりやすいように、なるべく動かない方が良いだろうか。


 なんてことを考えながら、同じ場所をとぼとぼ歩いていると、誰かの叫び声が聞こえてきた。


「お姉さん()けて!」


「え」


 鈍い音が響く。


 おでこに硬いものが当たり、衝撃で尻餅をついた。

 ぶつかった所に手を当てると、液体がペチャリと付着する音が聞こえる。


 心の中で、紬に向けて反省の意を述べておく。

 手についた赤は赤黒く変色すると、黒い霧になって消えてしまった。


 死神の血液──と言っていいのかは分からないが、どうやら時間が経つと変色して、最終的には消えてしまうようだ。

 人間とは違う仕組みに感心しながら座り込んでいると、誰かがこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「お姉さん大丈夫!? ってやば! 怪我してんじゃん!」


 赤い髪をした少年は、私の頭から流れる血に気がつくと、ぎょっとした表情を浮かべた。


「ほんとごめん。痛かったよな」


 少年は目線を合わせるように屈むと、おでこの怪我を覗き込み、申し訳なさそうに眉を下げている。


「痛みは意外と平気。それより、どうして──」


「テメェ威吹(いぶき)! 逃げるなんてどう言うつもりだ!」


 あまりの怒号に、周りの死神も足を止めるほどだった。

 大声を上げた男は、こちらに向かって足音を立てながら近づいて来る。


「別に逃げたんじゃねぇっての。ったく、面倒なことになっちまった」


 威吹と呼ばれた少年は、頭をくしゃりとかき混ぜると、私の方を向いて手を合わせた。


「ごめんお姉さん! ちょっとだけ待っててくれない? あっち片付けたらすぐ戻るからさ」


「それは大丈夫だけど……」


「ごめんな! すぐ終わらせるから!」


 そう言うと、威吹は自ら男の方に向かって駆けていく。


 ピリピリとした空気が強まった。

 威吹も決して貧相ではないのだが、ガタイの良い男の前に立つと、体格差がよく分かる。


 男は今にも掴みかかりそうな勢いで、威吹に対して怒鳴り声をあげた。


 

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