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死神の猫  作者: 十三番目
第四証 Fourth Sacrifice 盤上の支配者
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ep.22 思わぬ助太刀


「何でお前らが一緒にいるんだ」


 アヴァリーと共に合流した私を見て、レインが眉を(ひそ)めている。


「そう言うなよ。俺様が付いてったから、すんなり戻れたんだぜ? なあ嬢ちゃん」


 同意を求められ頷く。

 分断の原因を作ったのはアヴァリーだが、こうしてすぐに戻れたのも、アヴァリーの道案内があったためだ。

 嘘は言っていない。


 レインは怪訝そうな顔をしていたが、これ以上聞いても無駄だと諦めたのだろう。

 早く行くぞとばかりに足を進めている。


「ここを抜ければ、上階までの転移陣がある。魔王のいる場所は最上階だが、上階に着けばいくらかマシになるはすだ」


 上階は魔王の住居に近いため、暗黒将であっても勝手は許されないらしい。

 レインはインヴィーと遭遇することを危惧していたが、上階に辿り着けば、ひとまず安心できると考えているのだろう。


 アヴァリーの話していた通り、最初の一匹を除き、魔獣がこちらに近づいてくることはなかった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 上階はガラス張りのような造りをしていた。


 魔界を一望できる高さと、吹き抜けの天井から見える薄暗い空。

 四方を透明な壁で覆われた空間は、大広間の何倍もありそうな広さをしている。


「魔王への謁見は、暗黒将を通して伝える決まりだ。どの将に当たるかは運もあるが、今回はこいつがいるからな」


 他の将に頼むまでもない。

 レインは親指でアヴァリーを示すと、魔王の元に向かうよう圧をかけている。


「その件なんだけどよぉ。ちっとばかし状況が変わったんだわ」


「は?」


「悪りぃな、レイン」


 訳が分からないままアヴァリーを見るレインだったが、急速に変わっていく空気を感じ黙り込む。

 突如現れた気配は、私たちがよく知る悪魔のもので──。


「助かったわ、アヴァリー。このまま魔王様に会われてたら、少し厄介だったもの」


「インヴィー……」


 苦々しげに呟くレインを一瞥すると、インヴィーはこちらにゆっくりと歩を進めてくる。


「会いたかったわひよこちゃん。現世では世話になったわね」


 艶やかな笑みの下では、猛烈な憎悪が燃えている。

 インヴィーからは敗北の屈辱と嫉妬。

 そして、強い執念を感じた。


「……ここは魔王様の領域(エリア)だぞ」


「その魔王様から許可をいただいてきたのよ」


 レインが牽制するも、インヴィーに動じた様子はない。

 先手を打ったのだと微笑むインヴィーは、状況が掴みきれていないレインを見て口を開いた。


「下剋上の仕組みは知っているわよね? 魔王様に挑めるのは暗黒将のみ。そして、暗黒将に挑めるのは貴族である悪魔と──」


「貴族に準じた実力を持つ悪魔……」


「その通りよ」


 インヴィーが何を言いたいのか理解したのだろう。

 レインの視線が私の方を向く。


「魔王様に囲われれば、手が出しづらくなる。だから先に申請しておいたの。暗黒将()の位をかけて、その死神と勝負をするってね。いくら魔王様でも、位をかけた勝負に水をさすことはしないわ」


「……こいつは貴族でも悪魔でもない。死神だ。そもそも、暗黒将から勝負を仕掛けるためには、他の将の同意が必要なはずだろ」


「そうね。暗黒将は挑まれる側の存在であり、挑むことはほとんどないわ。もし私たちから仕掛ける場合は、半数を超える将の賛同を得なければならない決まりよ」


 くすりと笑みを溢したインヴィーは、分からないのとでも言いたげにレインを見つめている。


「半数を超える賛同。つまり、私を含め残り三つの同意が必要ね。一つはグォーラ、もう一つはスーリアから貰ったわ」


 グォーラの名前があるのは当然だ。

 あれだけ使い魔に手を出され、賛成しない理由(わけ)がない。


 ただ、スーリアの名前が出てきたのは予想外だったのだろう。

 レインは頭が痛そうに額を押さえている。


「そして最後の一つは」


 インヴィーの視線が、レインの隣に向けられた。


「アヴァリー。お前、まさか……」


「まあそういうこった」


 まるで何でもないことのように、アヴァリーが肯定を返している。

 旧友の裏切りを知り、レインの顔に怒りが満ちた。


「そういう訳だから、覚悟はいいかしら……ひよこちゃん?」


 逃走は不可能だ。

 インヴィーに呼ばれ、こちらからも距離を詰める。


「おい、ここは魔界だぞ! いくら何でも無茶苦茶だ……!」


 引き留めようとするレインを見て、インヴィーが唇に指を当てた。


「確かに、魔界において私の方が有利なのは認めるわ。それなら、こういうのはどうかしら? ハンデの埋め合わせとして、レインの使い魔を一匹参加させるの」


 巧いやり方だ。

 インヴィーは、反対するなら犠牲を払えと言いたいのだろう。


 私を助けるために部下を犠牲にするか、このまま黙って見過ごすか。

 レインに選ばせようとしている。


「お前……!」


「やめとけレイン。犠牲を増やす必要はねぇよ」


 アヴァリーの言葉に、レインが歯を食いしばった──その時だった。


「かんしゃしろむすめ! そのしあい、ぷーぱがさんかしてやります!」


 

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