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死神の猫  作者: 十三番目
第四証 Fourth Sacrifice 盤上の支配者
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ep.19 魔王城


 何着か予備を持っていたらしい。

 服を着替えたレインは、落ち込むプーパを肩に乗せたまま、(そび)え立つ城を見上げている。


「ここが入口?」


 巨大な城を取り囲むように、城壁が建っていた。

 平たい壁に扉などは設置されておらず、一見すると行き止まりのようだ。


 レインが目の前の城壁に近づく。

 不意に、重たい物が移動していく音が聞こえた。

 城壁が左右にずれ、地下に続く階段が姿を現す。


「貴族専用の入口だ。離れると押し潰されるぞ」


「こんな場所まであるんだね」


「魔界は貴族主義だからな」


 淡々と事実を語るレインも、そんな貴族の一員である。

 強者が優遇される魔界において、貴族とは強者そのものを表す言葉だ。


 そう考えると、レインが上司に負けたのは、本当に運が悪かったとしか言いようがないだろう。


「レインは、魔王になりたいとは思わないの?」


「……はぁ!?」


 声を上げるレインに、何かおかしな事でも言ったかと首を傾げる。


「魔王になるってことは、下剋上を行うってことだぞ。昔は少しだけ考えたこともあったが……今は全く思わないな」


「どうして?」


「歴代の魔王の中で、今代の魔王は最強だからだ。現に、数十年から数百年ごとに変化していた魔王が、今の魔王に変わってからは三千年ほど経つ」


 レインと共に階段を下りていく。

 背後で通路が閉じていく気配を感じながら、レインの方に視線を向けた。


「強すぎるんだよ。それこそ、暗黒将でさえ下剋上をしなくなるくらいにはな。お前のところの上司と同じだ。あの悪魔はもう、化け物の域にいる。もしかしたら魔界にも、唯一の王が誕生するかもしれないな」


「そんなに強いんだ」


 頻繁に行われていた下剋上が、今代の魔王になってからは止んでいる。

 暗黒将は今でも、魔王の座を手にしたいはずだ。


 しかし、そんな悪魔たちが揃って挑戦することもできないほど、今の魔王とやらは規格外なのだろう。


「そもそも、魔王になるためには、先に暗黒将へ上がる必要がある。将でもない僕が、考えることでもないんだよ」


「じゃあ、その暗黒将になりたいとは思わないの?」


 階段を下りた先には開けた空間があった。

 大広間と呼べる場所には、色々な石像が飾ってある。

 いつになく饒舌(じょうぜつ)なレインの目を見つめ、真っ直ぐ問いかけてみた。


「それは──」


「よおレイン。随分と面白そうな話をしてるじゃねぇか」


 目の前で空間が裂けていく。

 褐色の肌とくすんだ白髪。

 中から現れたアヴァリーは、三白眼を楽しげに歪めている。


「俺様にも教えてくれよ。昔からの仲だろ?」


「はっ。よく言うよ。暗黒将になって長いお前には、関係ない話だろ」


 どうやら、アヴァリーは暗黒将の中でも長い方の悪魔に当たるらしい。

 つれないなと言わんばかりの様子で眉を上げたアヴァリーは、私を見るなりにやりと笑みを浮かべてきた。


「グォーラの植物を破壊したのは嬢ちゃんだろ? 地面ごと割るなんて、派手にやったじゃねぇか」


「あまり時間がなかったので」


 プーパが吐いたことを思い出したのだろう。

 レインの顔が苦々しげに(しか)められる。


「てっきり入れ替わってるのかと思ったが、気配は嬢ちゃんのままだな。──けどよ、俺様の勘がやけに警笛を鳴らしてくるんだわ。こいつは危険だ、ってな」


 重さの増した空気に、警戒も強まっていく。

 肩に乗っていたプーパが、レインに抱きつくのが見えた。


「……だったら、どうするつもりだ」


 レインの言葉に、アヴァリーは「そうだなぁ」と呟いている。


「お前ら、魔王のところに行くんだろ? 俺様もついて行こうかと思ってな」


「は?」


 思わぬ答えに、レインが硬まった。

 いきなりの展開だが、アヴァリーの中では既に決定事項らしい。


 こちらを向くと、「よろしくなー嬢ちゃん」と声をかけてくる。


「そんじゃ、早く行こうぜ。俺様はのろまが嫌いなんだ」


「あのなぁ……。というか、そっちは遠回りだぞ」


 迂回(うかい)した道を進もうとするアヴァリーを、レインが止めている。

 矛盾した行動を取るアヴァリーに、レインがため息をついた。


「ああ、そっちは止めた方がいいぜ。インヴィーが待ち伏せてるからな」


 

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