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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
164/223

ep.58 花の毒


 中心部の空間(エリア)のさらに中心に位置する死局。

 その深部には、支配者たちの有する空間があった。

 玉座には王が悠々と腰掛けており、呼び出された霜月を席に着くよう促している。


「そんなに警戒しなくとも、何かするつもりはないよ」


 銀灰色(シルバーグレー)の長髪とスノーブルーの瞳が美しい男だ。

 王としての貫禄を纏っており、まるで彫刻のように整った容姿をしている。


「霜月、だったね。実は君に提案があって呼んだんだ」


「……」


 無言の霜月を不敬と捉えたのだろう。

 控えていたロベリアが剣に手をかけるも、王が制したことで力を緩めている。


「とても優秀だと聞いているよ。今は常闇の部下として働いているようだが、どうかな。今後は私の元で──」


「断る」


 先ほどよりも大きく、剣を握った音が響く。

 変わらぬ様子で微笑む王は、霜月に対して「理由を聞かせてくれるかな」と問いかけた。


「仕える相手は自分で決める。それだけだ」


「無礼にも程があるな。王からの命を断れるとでも?」


 一端の死神などではない。

 ここに居るのは、死界の頂点である王なのだ。

 ロベリアの声には、そういった圧が込められていた。


「俺に話を持ちかけてきたのは、上司の許可が得られなかったからだ。もし断る権利がないなら、その時点でとっくに引き抜かれてる」


「気持ちは固いようだね」


 席を立った霜月を見ても、王は引き留めなかった。

 ただ、背中に向けて優しく声をかけている。


「私が、君の探しものに協力すると言ってもかい?」


 霜月の足が止まる。


「もし私の手を借りたくなったら、いつでもここを訪れるといい。歓迎するよ」


 返事はない。

 再び歩き出した霜月は、振り返ることなく玉座の空間から去っていった。


 霜月の気配が消えたのを確認し、ロベリアは剣から手を離した。

 (うかが)うように王を見るロベリアの肩を優しく叩くと、王もまた別の空間へと消えていく。


 ──珍しく、赤花殿がいなかったな。


 彼岸花の中で最も王の傍にいることが多い無花果だが、今回は姿が見えなかった。

 不思議に思ったロベリアは、無花果が管理する空間の方へ自然と足を向けていた。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 死界から現世に移ったロベリアは、先に現世で待っていたヘデラを見て足早に近寄った。

 王の護衛兼付き添いのため、ヘデラとは後ほど合流することになっていたのだ。


 ロベリアを見たヘデラは、「そんなに待ってはおらぬよ」と笑みを溢している。


「赤花とは会えたかえ?」


「ああ。だが、随分と感情的になっていた」


「よもやあの赤花がのう。常闇の前でさえ、我らを諌めるのは赤花の方じゃと言うのに」


 宝月が相手であっても冷静さを失わない無花果が、睦月の前でだけは何故か感情をセーブできない。

 ヘデラにとってその事実は、まだ会ったことのない睦月を嫌悪するのに充分な理由だった。


「赤花殿が我を失うほど憎む相手は限られている。……それほどまでに、例の死神は似ているのかもしれないな」


「ハッ。ますます会うのが楽しみになってきたのう。贄の可能性がなければ、今すぐにでも会いに行ってやりたいくらいじゃよ」


 言外に消してやりたいと話すヘデラに、ロベリアは沈黙という肯定を返している。


「まったく不愉快なものじゃ。居なくなってなお、赤花はおろか、我らが王まで煩わせ続けておるとは」


「だが、元は元でしかない」


「そうさな。なれどもし、件の死神が鍵ではなく贄だと決まれば、我らはあの死神を永遠に閉じ込めておかねばならぬ。皮肉にも、()()()()から命を救う側になるというわけじゃ」


 鼻で笑うヘデラをちらりと見るも、ロベリアは返す言葉に迷っているようだった。


 口下手で、あまり会話が得意ではない。

 気の利いた言葉や慰めの一つも言えないロベリアだったが、それでもヘデラは頻繁にロベリアの元へと話しかけにきてくれた。


「……どれだけ多くのものを犠牲にしようと、復活だけは阻止しなければならない。そして、今の我々にできるのは、一刻も早く宝月を見つけ出し、王の元へ連れていくこと。それだけだ」


「分かっておるとも。万が一にでも主が戻れば、宝月(あやつら)は必ず反旗を翻してくるはずじゃ。再び戦うことになれば、我らが王の悲願を叶えることも難しくなろう」


 ロベリアの気遣いを感じ取ったヘデラは、普段の穏やかさを取り戻している。

 次に向かう場所を扇子で示すと、ヘデラは頷くロベリアと共に現世の街並みを見下ろした。


 微笑みながら扇子を開くヘデラだったが、一瞬、開いた扇子が顔を隠してしまう。


「古い神には眠っててもらうべきじゃ。……永遠にな」


 影の落ちた扇子の内側で、ヘデラの目は獲物を狙う獣のように爛々と光っていた。


 

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