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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.49 閻魔との再会


 地を流れる魂の海を眺めながら、閻魔と会話を交わす。

 特に何かをする訳でもなく、周囲にはゆったりとした空気が漂っていた。

 

 閻魔は私の言葉に笑みを溢しながら、袖で口元を隠している。

 のほほんとしているようで、閻魔の仕草は一つ一つがとても優美だ。


「死界には慣れたかい?」


「そうですね。前よりはずっと」


 本音を言えば、今となっては現世(むこう)に居るよりも心地良く感じるくらいだ。


「常闇とも仲良く過ごせているようだね」


「閻魔は、上司のことをとても気にかけているんですね」


「永い付き合いだからね。それに、今の死界に残っている月は常闇だけだ。自ずと思い出す機会も増えてくる」


 いきなり禁句が聞こえたことで、思わず閻魔の方を向く。

 そんな私を見て微笑んだ閻魔は、「心配せずとも大丈夫だよ」と優しく声をかけてきた。


選別所(ここ)は私の管理する領域だからね。仕組みが違えば、規則もまた違うものだ」


 そういえば、前に上司から聞いたことがある。

 選別所は死界の一部として含まれてはいるが、死神たちの暮らす空間(エリア)とは大きく異なっているのだと。


「宝月とは親しいんですか?」


「旧友、という表現が近いのかもしれないね。同じ主から直接力を授かったという意味では、同類と表すこともできる」


「同じ主から直接……? もしかして、閻魔の位は──」


「最高位だよ」


 やっぱり。

 驚きより納得が勝っていく。

 袖口で笑みを隠しながらも、閻魔からは終始楽しそうな雰囲気が溢れていた。

 

「ふふ。そうは言っても、私はここから出ることがないからね。位は形だけ持っているようなものだよ。私を除けば、死界における最高位は宝月しかいない」


「それって、今の王や側近は()()じゃないって意味ですか?」


「彼らに面と向かって会ったことはないから、何とも言えないね。ただ、ここへ来るための条件は、今も昔も変わっていない。私の認めたものだけが、中に入ることを許される」


 死神たちが回収してきた魂は、ゲートを通して選別所に送られている。

 つまり、選別所と直接関わらなくても済む仕組みが出来上がっているのだ。


 上司に連れられ選別所を訪れた私には、ここに入れるということが何を意味するのか、いまいち分かっていなかったのかもしれない。


「そういえば、閻魔の敬称には月が付かないんですね」


 宝月と同じ位にありながら、閻魔にだけ月が付いていないのは何故なのか。

 私の問いかけに閻魔は少し思案する様子を見せたあと、人差し指をそっと唇に当てた。


「それはまだ秘密にしておこうかな」


 ここで答えを焦らされるとは。

 位を知った時よりも驚く私の姿に、閻魔の口元が柔らかく弧を描いていく。


「秘密にしておけば、睦月が私を思い出してくれる機会も増えるだろう?」


 予想外の返しをくらい言葉に詰まる。

 元より無理に聞くつもりもなかったが、あえて答えないことで価値を持たせてくるやり方は、流石としか言いようがない。


 亀の甲より年の功。

 なんて言葉が頭をよぎっていく。


「それにしても、ブレスレットに鍵の役割があったなんて」


 左手首で灯るブレスレットは、かつて閻魔がくれた物だ。

 星の海をそのまま模ったかのような輪と、繋ぎ目に飾られたぼんぼり。


 閻魔が私を呼んでいると知り向かっていたが、道中で突然ブレスレットが光ったかと思うと、気づいた時にはここにいたという訳である。


「川が海へと流れ着くように、死界の各所には魂の道が通っている。流れの近くであれば、入り口を使わずとも選別所(ここ)へ来ることができるよ」


 ブレスレットには、鍵と転移の役割が与えられていたのだろう。

 閻魔の許しがなければ入ることさえ不可能な場所に、ブレスレット一つで訪れることができる。


 今になって、上司がかなり貴重な物だと話していた理由が分かった。


「初めから伝えておいてくれれば、もっと早く会いに来たのに」


「おや、睦月も拗ねることがあるんだね」


 拗ねる……?

 閻魔は笑みを浮かべると、辺りにほわほわとした空気を漂わせている。


 開きかけた口を閉じる。

 上司といい閻魔といい、こういった話では敵う気がしないのだ。


 それに、死界に来てからの私は、今までに経験したことのない感情を色々と味わってきた。

 この感情が「拗ねる」というものなのかは置いておくとして、閻魔と再び会えて嬉しいのも紛うことなき事実なのだ。


 閻魔が私を気に入っている理由は分からない。

 ただ、私への感情が親しみ以上の何かだということには、薄々勘付いていた。


「今度はもっと早く会いに来ます」


 ブレスレットがあれば、選別所に寄れる機会も増えるはずだ。


 面布で口元以外は隠れているものの、私には閻魔が心底嬉しそうに微笑んだのが視えた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「実は、今日呼んだのには訳があってね」


 閻魔の手の上に現れた銀色の籠は、魂を保管しておくための物だ。

 中には、ぽわぽわと輝きを放つ魂が入れられている。 


「あの時の……」


 出雲に魂の回収へ向かった際、海で会った訳ありの魂だ。

 おそらく、転幽が閻魔の元に届けてくれていたのだろう。


「睦月ともう一度話したいと言うから、少しばかり流すのを先送りにしていたんだ」


 そう話す割に、閻魔の視線は私にしか向けられていない。

 多分、閻魔が魂を輪廻に組み込まなかったのは、会話を望む魂のためではない。

 他ならぬ、私のためなのだろう。


「良かったです。その魂には、私もまだ聞きたいことがあったので」


 

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