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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.48 模擬戦


 かっこいい武器が持ちたい。

 ヴォルクにとって、かっこいいは大切な要素であり、欠かせないポイントでもあった。


 死神になると、誰しもが能力を手に入れる。

 一つ、あるいは複数の能力を初めから手に入れる者もいれば、位が上がるに連れて増えていく者もいた。


 能力とは、いわゆる神からのギフトだ。

 死界の住人になった死神たちへ、王が権能を通して与える祝福の形。

 そして、配下に向けた信頼の証でもある。


 通常、(かみ)の元へ近づくほど恩恵や愛は増していく。

 つまり、力を得たい死神にとって、位を上げることは必須事項とも言える目標になっていた。


 ヴォルクにも、強くなりたいという思いはあった。

 しかし、その理由は王への忠誠心でも、恩恵(ギフト)が目当てでもない。


 位を上げて、かっこいい武器──死神之大鎌(デスサイズ)を手にしたいという願いあればこそだったのだ。

 同じ課の死神からすれば、「そんな理由で!?」と叫びたくなる者もいることだろう。


 けれど、ヴォルクにとってはそんな理由が、何より重要な目的でもあった。

 かっこいいが嫌いな男子なんていない。


 生前のヴォルクは、戦隊ヒーローに憧れる友人の中でも、生粋の武器マニアだった。

 かっこいい武器で華麗に戦うヒーローに、いつも目を輝かせていたのを覚えている。


 ヴォルクが理想とするヒーロー像は、大きくて扱いにくそうな武器も巧みに操り、圧倒的な力で相手を捩じ伏せていく。

 そんなヒーローだったのだ。


 だからなのだろう。

 明鷹が指導者について迷っていた際、自然と睦月の名を口にしてしまったのは。


 ヴォルクが思い描く理想のヒーローと、試験中の睦月の姿はぴったりと一致していた。

 試験が終わった後は、しばらく脳内再生が止まらなかったくらいだ。


 けれど今、ヴォルクは自らの選択を後悔しかけている。

 鋭く光る三日月型の刃と、感情の読めない容貌。

 試験の時の睦月は容赦がなかった。


 出来れば、二度とあんな目には遭いたくないと思うほどに──。


「とりあえず、好きなように攻撃してみて」


「好きなように?」


 模擬戦をすると宣言され、てっきり試験のようになると考えていたヴォルクは、拍子抜けした顔で睦月を見た。


「ルールとかはねーの?」


「これは試験じゃないからね」


 そう答えた睦月は、まるでヴォルクの心を見透かしているかのようだった。

 睦月の実力はよく知っている。


 ヴォルクが全力を出したところで、睦月には痛くも痒くもないだろう。

 ──だったら。


 強く大地を蹴る。

 一瞬で距離が詰まるが、睦月は顔色ひとつ変えていない。

 ヴォルクはそのまま、死神之大鎌(デスサイズ)を横に勢いよく振った。


 甲高い音が鳴る。

 死神之大鎌(デスサイズ)を半回転させた睦月が、柄の底で刃を弾き上げたのだ。


 力の込もった攻撃を軽々といなされ、最小限の動きで対応される。

 あの時と変わらず、想像を絶する動きだった。


 ヴォルクの上司さえも彷彿とさせる戦い方を、ヴォルクよりも後に入った新人がやってみせるのだから。

 つくづく、ヒーローのようだと見入ってしまう。


 当の睦月からしてみれば、転幽の攻撃に比べれば大体のものは受け止めれそうだ。

 なんて考えるくらいには、転幽との特訓が壮絶だったらしい。


 ──今度は離さずに済んだ。

 手は少し痺れていたが、ヴォルクは真剣な表情で死神之大鎌(デスサイズ)を構え直す。


 睦月の言葉通り、過剰になっていた力を緩め、流れのままに死神之大鎌(デスサイズ)を振るっていく。

 時に刃の内側や柄、先端部を使い、睦月は洗練された動きでヴォルクの攻撃を躱していった。


 届かない攻撃に焦れたヴォルクが、段々と乱雑な攻撃をしかけ始める。

 その隙を見逃すわけもなく、睦月はヴォルクの首を刈り取る勢いで死神之大鎌(デスサイズ)を手前に引いた。


 このままでは首が飛ぶ。

 理性が囁く前に、本能が叫んだ。

 ヴォルクは反射的に死神之大鎌(デスサイズ)を持ち替えると、僅かな隙間に柄を差し込み、弾いた反動で睦月と距離を取った。


 ──え、殺すき?

 思わず口から出そうになった言葉を呑み込む。


「試験の時も思ってたけど、ヴォルクは咄嗟の判断が優れてるね。言葉で考えるよりも、自然と動かざるを得ない状況で練習した方が、上達も早まると思うよ」


「なるほど。つまり崖っぷちまで追い詰めた方がいいってことか」


 睦月の報告に、明鷹が上機嫌で呟いている。


「さっきの感覚を忘れないようにね」


「りょーかいっす」


 今回は急遽だったため、続きは後日行うことになった。

 手元から死神之大鎌(デスサイズ)を消した睦月は、近くで待っていた霜月に「お待たせ」と声をかけている。


 去って行く睦月たちを見送りながら、ヴォルクは霜月と一瞬だけ視線が合った時のことを思い出していた。

 かくはずもない汗が滲むような感覚に、思わず手のひらを見つめる。


 規格外ばかりが集まると噂されている常闇の部下たちは、噂通りの存在だった。

 ヴォルクなどが届くはずもない。


 いや、そもそもヴォルクには、王に対する忠誠心さえないのだ。

 考えるだけ無駄だろう。

 ──だけど。


 試験後のアルスは、試験前とは別人のように晴れ晴れとした姿をしていた。

 睦月を見る目が、まるで王を眺める臣下のようで。


 ──もし、睦月が王だったなら。


 ふと浮かんだ考えに蓋をする。

 ヴォルクは今の位に満足しているのだ。

 ありもしない想像するのは止めるべきだろう。


 死神之大鎌(デスサイズ)を握り直すと、ヴォルクは練習を続けるため、去って行く睦月たちに背を向けた。


 

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