表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の猫  作者: 十三番目
第一生 First Death ちっぽけな少年
15/223

ep.3 魔法のカラクリ


「魔法……?」


「ええ。そうは言っても、魔法がかかっているのは目と耳の二つだけよ」


 突拍子(とっぴょうし)もない言葉に思わず聞き返してしまったが、つまりその魔法とやらがかかっているから、私たちの姿が見えるし声も聞こえていると。


 そういうことで良いんだよね?

 霜月の方を向くと、なんとも言えない顔でクリスティーナを見ている。


 やっぱりそういうことじゃないかもしれない。


「魔法は誰にかけてもらったんですか?」


「それが、誰なのかはよく分かってないの。どうしてもあの子に会いたい一心で日本まで来たけれど、私には探すことすらままならなくて……。そんな時、偶然出会った方が私に魔法をかけてくれたの」


 なんだかきな臭い話になってきた。


 偶然出会った人が、他人のために魔法なんてものを使ったりするだろうか。

 それに、あの子って──?


「そいつは何か言ってたか? 魔法の効果や、対価について」


 霜月は何かに気づいているようだ。


 魔法に対価。

 問いかけの意図を知るためには、まずこれについて知る必要があるだろう。


 死神のデータベースは人物に関する検索も出来るが、他にも辞書の用途で使うことができる。

 方法は簡単で、データベースにアクセスしたら、調べたい言葉を伝えるだけだ。


 ──魔法について検索。


 【魔法】

 現世に存在している妖精・精霊と契約することで得られる力のこと。

 対価を支払うことで得られる力もある。


 対価を支払う……。


 つまり霜月は、クリスティーナが対価の方で魔法を得たと判断したわけか。

 私が付け焼き刃でも何とかなっているのは、死神に与えられた権限(ちから)のおかげだ。


 いつどこでも一瞬で視界に辞書が出せる。

 これを使わない手立てはあるまい。

 ちなみに、死神の力は魔法ではなく、神の権能によるものらしい。


 神ってすごい。


 視界の端から辞書を消し、二人に視線を向ける。

 死神の力を使っていると、現世の時間がゆっくり進んでいくのだが、これは時間が止まっているわけではなく、死神の処理能力やキャパシティが大きすぎるために起こるものだ。


 これを感じるたび、新人でも死神は死神だということを自覚させられている。


「彼はこの力のことを、魔法とは言ってなかったわ。私が勝手に魔法だと思ったの。だって、魔法以外にあり得なかった! 今まで見えてなかった世界が見えるようになったのよ。魔法じゃなきゃ何だっていうの?」


 興奮気味に話すクリスティーナは、まるで夢を見ている少女のようだ。


「彼はお礼をすると言った私から、何も受け取ることなく去っていったわ。だから、霜月くんが言う対価ってものがお礼だとしたら、私は支払ってないことになるわね」


 対価を支払わない魔法。


 クリスティーナは妖精や精霊と契約はしておらず、対価も支払っていない。

 だとすれば、魔法をかけた彼とやらが代わりに支払っていることになる。


 偶然出会った人に魔法をかけてあげるだけでなく、対価まで引き受けているのだとしたら、何か理由(わけ)があるはずだ。


 この魔法にはきっと、裏がある。

 そんな胸騒(むなさわ)ぎを覚えたのは、私だけではなかったみたいだ。

 霜月とアイコンタクトを交わす。


 まだ簡単なことしか読み取れないが、霜月は出会ってからずっと、私と話す時は目を合わせて話そうとしてくれる。

 そのお陰で、だいぶ早く身についてきた。


「ティナさんがこの魔法をかけてもらった理由は、さっき言っていたあの子を探すためなんですか?」


「そう、そうなの! 私はあの子に会うために日本(ここ)までやって来たのよ」


 クリスティーナの意識がこちらに向くと同時に、霜月が一歩後ろへ下がったのを確認する。


 おそらく、誰かと連絡を取るためだろう。


 この話については、私も気になっていたことだ。

 静かに頷き、耳を傾ける。

 きっとクリスティーナから聞ける話は、これが最後になるのだろうから。


 ロッキングチェアに腰掛ける彼女の視線は、どこか遠いところを向いている。


「あの子に出会ったのはね、私がちょうど20歳になった頃よ。お母さんの生まれた日本へ、みんなで里帰りすることになったの。川原にはたくさんのお花が咲いていて、その周りでは桜の木が綺麗な花びらを舞わせていたわ」


「春だったんですね」


「ええそうよ。日差しが暖かくて、少し静かだけど、それ以上に素敵な場所だと思ったわ」


 あの頃を思い出して笑うクリスティーナの表情は、とても幸せそうだ。


「この家に来た時もね、凄く気に入ったの。レトロな雰囲気が土地にも馴染なじんでいて、いつかここに住んでみたいって思ったほどよ」


「この家は、ティナさんのお母さんが住んでいた場所だったんですか?」


「そうよ。お母さんのお母さん、お祖母さまが越して来てからずっと、この家はここにあるわ」 


 クリスティーナは少し眠たげな表情をしたが、そのまま続きを語っていく。


「そう、それでね。そこの川原があまりに素敵で、滞在中は一日に何度も足を運んだの。わたし以外には誰も見当たらなくて、まるでこの場所を独り占めしてる気分だったわ。でもね、そんなある日、あの子と出会ったの」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ